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広瀬すず、映画『ラストレター』で体感した岩井俊二監督の唯一無二の作家性とは?

1/17(金) 11:01配信

エムオンプレス

タイトルからして、胸躍るシネフィルも多いことだろう。岩井俊二監督の代表作にして出世作『Love Letter』(95)を想起させる最新作『ラストレター』は、アンサームービーでもあり…もっと言えば、岩井俊二という作家の“ベスト盤”的な作品と見ることもできる。“手紙”という、現代では牧歌的でノスタルジックなファクターを用いながら、相手に届くまでのタイムラグがあるからこそ生まれるドラマを映し出していく本作は、まさしく岩井俊二的なテイストを存分に味わえる快作だ。

【詳細】広瀬すずの撮り下ろし写真

豪華なキャスト陣も話題を呼んでいるが、主人公の1人である遠野未咲と娘・鮎美の二役で広瀬すずが岩井組に初参加を果たしている。念願だったという岩井監督の現場に身を投じた当代きっての若手女優は、何を感じたのか? その心境をつぶさに語ってもらった。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 斎藤大嗣

◆岩井さんの作品の中では、過去のつらいエピソードも時が経って淡くなるというか…儚く感じられるんです。
ーー この『ラストレター』という作品で岩井俊二監督とご一緒したことに対して、率直にどのような思いを抱いているのでしょうか?

お仕事をやらせて頂く中で、一度はご一緒したいと思っていた監督さんの1人が岩井さんでした。とはいえ、「岩井さんの映画に出たいです!」と言ったところで叶わないだろうな、と思っていたのが正直なところなんです。それが…ご縁があって、20歳になってから最初に入ったのが『ラストレター』の現場だったので、純粋にうれしかったです。「よっしゃ~!」みたいな(笑)。

ーー ちなみに、岩井監督の作品では何が好きですか?

事務所の先輩の北乃きいさんが出ている(※岩井俊二がプロデュースを手がけた)『ハルフウェイ』(08)もですけど、やっぱり『花とアリス』(04)は外せないなって。岩井さんの映画や作風とか、まだよくわかっていない時、ちょうどデビューしたころに見ていたんですけど、「わ、この映画好き!」と思った作品は、ほぼほぼ岩井さんが関わっていらっしゃって。『ハルフウェイ』はお芝居を始めてから見たんですけど、「こういう映画をやってみたいな」と思って、その気持ちを事務所の社長さんやマネージャーさんにも伝えていたぐらい空気感が好きだったんです。個人的に、時間と空間が一瞬わからなくなるような空気を持った映画が好みなので、岩井さんの映画はまさにストライクだったんです。ただ、いざ岩井組の現場に入ってみたら、面白いことにそういう感覚を味わうことがあんまりなかったんです。もちろん、岩井さんご自身の中には時間が交錯して流れていらっしゃったとは思うんですけど、私は映画としてつながったのを見て、初めて「わ、こういうふうにつながったんだ!」って驚かされたところがありました。やっぱり唯一無二だなと思いましたし、私も1人の観客として『ラストレター』の初号(試写)を受け止めたという感じがあります。

ーー それこそ時間の交錯という意味では、今作での広瀬さんは未咲と鮎美の母娘二役を演じていらっしゃいますが、それぞれのパートをカチッと分けて撮った、というわけでもなかったんでしょうか?

そうですね、はっきり別々に分けて撮っていたわけでもなくて。確かに二役ではあったんですけど、母と娘ですし、福山(雅治演じる乙坂鏡史郎)さんが鮎美を見て「え、未咲?」と思うように、そんなに変えなくてもいいのかなと考えていました。同じ人として捉えても面白いかなと思ったりもしたんですけど、髪型も違えば制服も違うので、一応、別人というお芝居にはしていました。ただ、岩井さんからは「未咲がどこから声を出しているのか、わからない」と言われたんです。若干、未咲の時は明るめにしゃべって、カラッとした印象が私の中ではあって。鮎美は常にちょっと重めな感じ…というふうに、声の出どころを少しだけ変えるというようなことはしていたんですけど、基本的には母と娘なので、大幅に変えることなく二役を演じたつもりです。

ーー 実は別の取材で岩井監督にお話をうかがった時、「変わらずに心がけていること」を訊いたところ、「常にみずみずしさを意識している」と、おっしゃっていて。そういったお話を演者さんにもされるんでしょうか?

いや、なかったです。「忙しいでしょ?」とか「今日は肌寒いね」とか、ほとんど日常会話的な感じのやりとりしかしていなかったです(笑)。なので、敢えて「未咲と鮎美をどう演じ分ければいいですか?」とは訊かずに、まず自分なりの解釈でお芝居してみようと。自分の中で、すごくいい意味でそう思えたんですけど、それはきっと岩井さんがすごくフラットな方だったからだと思っているんです。

ーー なるほど。ちなみに、岩井監督は鏡史郎と未咲の大学時代のエピソードを文章化して、福山さんには読んでもらっていたそうです。

はい、私も“未咲バージョン”を読ませていただきました。

ーー あ、そうだったんですね! 

なので、いつか未咲の大学時代も演じてみたいなって思っています。

ーー 岩井監督も、いつか映像化したいとおっしゃっていました。でも、それこそ劇中でも語られますが、結構ツラそうな大学時代だったようで…。

そうなんですよね。でも、そのつらさも月日が経ってから語られることで、どことなく淡くなるじゃないですか。…いや、岩井さんの作品の場合、儚くなるっていう方がふさわしいのかもしれないですね。それが実際に神木(隆之介=思春期の鏡史郎役)さんと私で映像化された時、どんなふうになるのかなって想像がふくらんだりもして。そういう余白が『ラストレター』は、結構多かったような気がします。私たちと同世代の方たちからすると、「あ、大学時代の回想シーンはないんだ」って、サラッと終わってしまうような印象を受けるかもしれないなと思ったりもするんですけど、30代後半から40代、その上の世代の方々には、全然違った味わいがあるのかなって。
山崎(貴)監督と『ルパン三世 THE FIRST』のプロモーションでご一緒した時、「涙と鳥肌が止まらなかった」と、興奮気味に感想を伝えてくださったんです。「大人の方々には、ものすごく深く響くんだな」と知ることができたのも、私からすると新鮮でした。

◆1年半くらい映画の現場に立っていないので、そろそろ一度戻って心を落ち着かせたいです。
ーー 個人的に好きなのが、鮎美と森 七菜さん演じる従妹の颯香が和室で寝そべりながら、鏡史郎への手紙を書く一連のシークエンスなんです。あの点描っぽい感じが、それこそ“岩井俊二っぽい”なあ、と。

実際、すごく自由に動いていました。森 七菜ちゃんも自由に思うままに動いていて、それに私も引っ張ってもらった感があります。ただ、一応、母親(=亡くなった未咲)のことも忘れないでいるので、そこを意識しつつ、颯香と同じくらいのテンションでいるように心がけました。そこのニュアンスが結構難しくて、言っても子どもだから一瞬は忘れてもいいのかな、と思ったりもして。けど、ふっと母のことを思い出して、また少し曇った顔を一瞬する…みたいに、波があった方がいいのかなと考えたりもしたんです。あと、接続的な動きというか、七菜ちゃんとはお互いに“間”を埋めていけるところが共通していたので、すごくお芝居がやりやすかったんです。演じながら、セリフの順番が入れ替わったとしても成立しそうな感覚があったというか。岩井さんも見てくださっているし、最悪ダメだったらカットが掛かるだろうと信じて(笑)、最低限言われたことは守りつつ、七菜ちゃんと自由な感じでお芝居していたら、どんどん幅が広がっていって。そういう意味では、七菜ちゃんと一緒だったからこそ、あの雰囲気が生まれたんだなって思います。

ーー 何というか…陳腐な言い方なんですけど、すごく2人が自然なんですよね。

『ラストレター』に限らず、どの作品でもセリフとして聞こえないお芝居をと心がけていますけど、今回は特に「よりナチュラルに」という意識が働いていた気がします。

ーー そうでしたか…! 一方、対極的とも言えるのが、神木さん演じられる鏡史郎と2人きりの体育館で、卒業式の答辞を読むシーン。あの広い空間を2人で支配して、しっかり芝居を見せる必要があったという意味で、臨み方がまったく違ったのではないかと想像します。

私も「しっかりお芝居しよう」と力を入れてセリフを言っていた覚えがあります。でも、その中でも目線や仕草に未咲らしさを残しておきたかったというか、変えたくなかったので、七菜ちゃんと神木さんのお芝居に対するスタンスも違うので、それぞれ反射のさせ方も変わってくるんですけど、演じていても印象的なシーンになった気がしています。

ーー ちなみに、神木さんとは『学校のカイダン』(15)以来の共演ですか?

そうなんです。お仕事をするのは4年半ぶりぐらいで。ただ、『学校のカイダン』でご一緒してから、仲良くさせていただいていたので、逆にお芝居となるとかしこまってしまって(笑)。でも、本番になるとガッと一瞬で鏡史郎に切り替わるんですよね。やっぱり刺激的な先輩だなぁと、改めて思いました。

ーー また、神木さんと森さんも『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(18)というドラマで共演されていて。その時から、森さんを絶賛していたらしいですね。

言ってました! ちょっと引くくらい「森 七菜ちゃん、すごいよね!」って、神木さんがずっと言っていて(笑)。でも、確かに七菜ちゃんと初めて一緒にお芝居をした時、「…え、この子すごい!」と思いました。「透明感って、七菜ちゃんのような子のことを言うんだな」って本当に思って、それを神木さんに話したら、「でしょ? よし、みんなでご飯に行って語ろう!」って、オジサンとオバサンがかわいい子を誘拐するかのように、ご飯に行ったっていう(笑)。でも、神木さんのテンションが上がるのもわかるくらい、素敵な女優さんが出てきたなって思いました。

ーー 森さんも「考える」よりも「感覚で」お芝居をするタイプの女優さんですか?

たぶん、タイプ分けするなら感覚派なんだろうなと思います。もちろん、考えてもいるとは思うんですけど、それがわかりやすく見えない人だし、こっちが動きを変えると、ちゃんと反射して変えてくれるんです。私がお芝居を始めたころは、言葉を変えることはできても、動きが止まっちゃう時があって。自分のターンじゃない時に何をしていいかわからなくなっちゃったということが、多々あったんですけど、日常的にどうしているかというと…水を飲んだり、ちょっと立ち上がってみるとか、自然と動作を起こしていたりするわけです。そういう動作をいたってナチュラルに七菜ちゃんがしていて、一瞬で「あ、七菜ちゃんの芝居すごく好き!」って心を奪われました(笑)。

ーー さきほど、「間を埋める」とおっしゃっていたのは、つまり…。

はい、そういうことです。それを言葉を交わさずにお互いの感覚で自然とできたので、すごくうれしかったし、楽しかったですね。

ーー だから、鮎美と颯香の日常風景的な“画”になっていたんですね…。と、広瀬さんの2020年は『ラストレター』から幕を開けるわけですが、女優としても新たなフェーズに入る年なのかな、と何となく感じてもいます。ご自身としては、どのように感じているのでしょう?

自分としては、久しぶりに映画の現場に立ちたいです。実は『なつぞら』を撮っている間も、どこかで映画に対する思いがあって。もちろん、『なつぞら』としっかり向き合っていましたし、何本も素敵なドラマの現場に呼んでいただいているんですけど、私としてはやっぱり映画の現場がホームのような感覚があるので、「そろそろ戻りたいな」と(笑)。『ラストレター』も3月に公開される『一度死んでみた』も、『なつぞら』の最初の夏ロケ(2018年6月)とスタジオ収録が始まるまでの合間の3カ月間で続けて撮ったので、1年半くらい映画をやっていなくて。これまで、ずっと年に1~2本は映画を撮っていたので、そろそろ心を落ち着かせるためにも(映画の)現場に行きたいです。

ーー 昨年は舞台『Q:A Night At The Kabuki』も経験されたことで、また新たな景色も見えたのではないかと。

公演中はお客さんのリアクションもありましたし、野田(秀樹)さんのカンパニーということもあって、すごく楽しかったです。ただ、稽古の期間がすごく大変で…。元々は舞台に対して意欲的になれなくて、ワークショップもあんまり気乗りしなかったんですけど(笑)、野田さんのお人柄に魅了されました。めちゃくちゃ毒を吐かれていらっしゃって、そのスタンスが逆に心地よかったです。

ーー では、最後に愚問ではありますが、岩井俊二監督の次作に出たいという気持ちは?

はい、それこそ大学生の未咲を演じたいです(笑)。1回だけでも岩井組に呼んでいただいてうれしかったんですけど、どんな役でもいいのでまた参加したいなと思っています。

(c)2020「ラストレター」製作委員会

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最終更新:1/17(金) 11:04
エムオンプレス

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