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虐待被害者に笑顔を、DVで歯を失った女性たちと歯科医 ブラジル

1/18(土) 13:02配信

AFPBB News

(c)AFPBB News

【1月18日 AFP】ブラジルで暮らすアナ・クラウディア・ロシャ・フェレイラ(Ana Claudia Rocha Ferreira)さん(39)は、わずか15歳の時から何人ものパートナーによるドメスティックバイオレンス(DV)を受けてきた。暴力はロシャさんの身も心もずたずたにした。「前歯は4本しかなかった。外出するのが恥ずかしかった」

 ブラジルには、ロシャさんのようにパートナーから暴力を受けた女性が数百万人いる。ほぼすべてのケースで男性は、女性らしさと自尊心を失わせるために被害者の顔や歯を殴る。

 だが、ロシャさんはリオデジャネイロ(Rio de Janeiro)の歯科医アルマンド・ピバ(Armando Piva)氏のおかげで自信と笑顔を取り戻した。ピバ氏は、虐待された女性たちの歯と人生の再建を目指す非政府組織(NGO)「アポロニアス・ド・ベン(Apolonias do Bem)」のボランティアとして活動している。

 デザイン会社に勤める黒人女性のロシャさんは、歯の治療は「夢のよう」で、人生が変わったと話す。だが、それまでは何度もつらい時期を乗り越えてきた。「暴力が始まったのは、長女を妊娠していた15歳の時だった」「私を殴るようになったので、彼の元を離れた。でもその後、次女の父親も暴力を振るうようになった。私の歯は、次々に抜けていった」

 ロシャさんは、リオデジャネイロ・サンクリストバン(Sao Cristovao)地区のファベーラ(貧民街)で暮らしている。「(この街の)男性は、女性を殴って、他の男たちが欲しがらないようにしたいと言っている。女性の顔に自分の印を残したいと」

 それでもロシャさんは、2番目のパートナーと別れることができなかった。収入がなかったし、若い頃に実家を追い出されていたので母親を頼ることもできなかった。「18歳の時から今まで、笑ったことがない」、「いつも恥ずかしい思いをしていた」。ロシャさんは涙ながらにそう話す。

 ある日、ロシャさんは憧れの女優のインスタグラム(Instagram)にメッセージを送った。金銭を無心したわけではなく、助けを求めたのだ。その女優のような美しい歯が欲しいと書き込むと、すぐにNGOのボランティア歯科医たちに連絡を取ってくれた。

 ピバ氏は、リオデジャネイロの高級地区バーハ・ダ・チジュカ(Barra da Tijuca)にある超近代的な歯科クリニックで、ロシャさんにインプラント治療を行った。治療には1年近くかかったが、ロシャさんは自信と笑顔を取り戻した。

 大きなリング形のイヤリングを着け、メークにも気を配るようになったロシャさんは、とても幸せだと言い、「二度と誰にも殴らせない」と断言した。

■ブラジルでまん延するDV

 ブラジルでは女性に対する暴力が多発している。ブラジル治安フォーラム(FBSP)によると、昨年は女性の27%に当たる1600万人が何らかの身体的あるいは精神的虐待を受けた。このうち42%はDVで、黒人女性が最も被害に遭っている。長引く経済不況によって1200万人が失業しており、絶望感が女性に対する暴力に拍車を掛けている一面もある。

「DV被害者の女性の数はとてつもなく多い」と話すピバ氏。これまでに同NGOで歯の治療を受けた女性は1000人を超えるという。

 アポロニアス・ド・ベンは、歯科医のファビオ・ビバンコス(Fabio Bibancos)氏によって2012年に設立された。現在はブラジル国外にまでネットワークが広がっており、1700人の歯科医が経済的余裕のないDV被害者の歯の治療に当たっている。女性たちに唯一課される条件は、暴力を振るったパートナーとは二度と一緒に暮らさないということだ。

 ブラジルでは最先端の歯科治療が行われており、女性たちは平均5、6本の歯のインプラント治療を受ける。一般的な治療費は約3万レアル(約80万円)。女性たちの治療費は、民間からの寄付や企業、あるいは歯科医自身によって賄われており、公的補助はない。

 ピバ氏は、「ブラジルにはこうした女性たちを対象とした心のケアや法的支援はあるが、歯科治療については何の援助もない」「だが、大半のケースで、身体的虐待は口を殴ることから始まる」「被害に遭った女性たちの大半は、上の歯の半数以上を失っている」と語った。

■トランスジェンダーも支援の対象に

「歯がないってどんなことか、分からないでしょう」。AFPの取材に応じたサンパウロ(Sao Paulo)在住のタイス・デアゼベド(Thais de Azevedo)さん(70)はそう語った。

 トランスジェンダーのアゼベドさんは、アポロニアス・ド・ベンが支援の対象者をトランスジェンダーにも拡大した2年前にインプラント治療を受けた。トランスジェンダーであることを公表して以来、暴力を繰り返し受けてきたという。

 歯を失ったのは、「自分の人生のために闘った」からだというアゼベドさん。「新しい歯ができた時、りんごをかじっただけで素晴らしかった」「彼ら(アポロニアス・ド・ベン)が私に与えてくれたものは、想像以上に深く、意味のあるものだった」と語った。

 映像前半は治療を受けたロシャさん、2019年9月撮影。後半は取材に応じたアゼベドさん、2019年10月撮影。(c)AFPBB News

最終更新:1/18(土) 13:02
AFPBB News

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