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【連載小説 第20回】新堂冬樹『動物警察24時』ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!?

1/24(金) 16:03配信

本がすき。

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAPーー東京アニマルポリスなのだ。

「いやーっ!」
 智美の悲鳴が、深夜の宮益坂に響き渡った。
 コンビニエンスストアの雑誌コーナーの涼太とファーストフード店の天野が、心配そうに見ていたが動く気配はなかった。
 どこで、犯人サイドが監視しているかわからないのだ。
「どうしたんですか!?」
「これを……」
 智美が震える手で差し出してくるスマートフォンを受け取った璃々は、送信されてきた画像を見て息を呑んだ。
 画像は、ミルクのときと同じように全身の被毛を剃り上げられた猫だった。
 ミルクのときと同じように、猫はケージに入れられていた。
 毛がないので種類の判別が難しいが、両耳が垂れている特徴から察してスコティッシュフォールドに違いない。
 璃々は、画像の下に連なる文字を視線で追った。
 
 指定したのは、あなたとTAPの捜査員の二人だけです。
 警察らしき人物が何人か張っているようなので、身代金の受け取りは中止します。
 本当はあなたの愛犬にさらなる制裁を加えるところですが、初回サービスとして特別に免除してあげます。
 代わりに、ストックしていた他人のペットを、生まれたままの姿に戻してあげました。
 あなたには、もう一度チャンスを差し上げます。
 明日の午前零時、場所は今日と同じです。
 万が一、今日のような裏切り行為があった場合、今度は免除しません。
 あなたの愛犬に厳しい制裁を加えることになります。
 
 追伸 「TAP」の方へ
 動物を守る職務につくはずのあなたの軽率な行為により、ペット達が次々と傷ついています。
 これ以上、憐れな被害が出ないようご協力お願いします。
 万が一、「TAP」を解雇になった場合、ウチで雇いますので遠慮なくお声がけください。

                動物虐待団体

 LINEの文面が揺れた。
 いや、スマートフォンを持つ璃々の手が怒りに震えているのだった。
 璃々は、弾(はじ)かれたように周囲に首を巡らせた。
 パッと見では、周囲に不審な人物はいない。
 
 張り込みが犯人にバレたわ。村田さんにあてがわれたスマートフォンにメッセージがきたのよ。詳しくはあとで話すから、怪しい人物がいないか周囲をチェックして。
 私は村田さんを自宅に送るから、涼太とラブ君は「TAP」に向かって「会議室」で待ってて。
 私は村田さんを自宅に送り届けてから、そっちに向かうから!

 璃々は、涼太と天野にLINEを送った。
 この時間帯なので、「TAP」に兵藤はいない。
「どうして、バレたんですか? ミルクは……ミルクは大丈夫でしょうか!?」
 半泣き顔で、智美が訊ねてきた。
「大丈夫です。気をしっかり持ってください。とりあえず、マンションに送ります。話はタクシーの中でしましょう」
 璃々は力強い口調で言うと、タイミングよく向かってきた空車の赤ランプを点(とも)したタクシーに手を上げた。

                 ☆

「どうして、バレたんですかね? 天野君、鋭い眼つきであたりを見回してたんじゃないんの!?」
 会議室――スクエアな空間の中央に設置された円卓の出入り口近くに座った涼太が、対面に座る天野に疑わしい眼を向けた。
「そんなこと、するわけないじゃないですか! こう見えて僕は、張り込みには慣れているんですから。君こそ、初めての張り込みで挙動不審だったんじゃないんですか!?」 
 憤然とした口調で、天野が逆襲した。
「初めて!? 冗談じゃないよっ。張り込みの数じゃ、俺のほうが遥かに経験豊富だから」
 涼太が、得意げに胸を張った。
「犬猫の張り込みと警察の張り込みを、一緒にしないでくださいよ」
 天野が、小馬鹿にしたように言った。
「おいっ、あんた、犬猫の張り込みをナメるんじゃないぞ!」
「二人とも、やめなさい! 内輪揉めしてる場合じゃないでしょう! 次の身代金の引き渡しは明日なのよ!? 今日、張り込みがバレたことで新たな被害猫も出て、明日も張り込みがバレてしまったらミルクちゃんの命が危険にさらされるわっ。かといってキャリーケースを渡してしまったら本物の一万円札は十枚しかないとわかってしまうから、やっぱりミルクちゃんの身に危険が及ぶのよ!」
 璃々は二人を一喝し、事の切迫性を訴えた。
「北川さん、どうするつもりですか?」
 天野が、璃々の顔色を窺(うかが)いつつ訊ねてきた。
「そうね、涼太は宮益坂下の交差点、ラブ君は宮益坂上の交差点でバイクに乗って待機してて」
「え? 指定された場所は今日と同じ郵便局前ですよね? 俺もラブ君も、五十メートルは離れてしまうので先輩と犯人の様子が見られなくなりますよ?」
 涼太が、心配そうに言った。
「君まで、ラブ君と呼ぶのは……」
「そのくらい離れてないと、また、張り込みを気づかれる可能性があるわ」
 涼太に抗議しようとする天野を璃々は遮った。
「でも、犯人の様子が見えない距離で待機するのは張り込みとは言えないですよ」
「仕方ないじゃない。今度張り込みが見つかったら、ミルクちゃんが危険なんだから。同じことを、何度も言わせないで。犯人は車かバイクで乗りつけてキャリーケースを持ち去る可能性が高いから、青山通りか渋谷駅のどちらかに向かうと思うわ。無線を使ってやり取りするしかないわね」
 璃々は、腕時計型無線が巻かれた左腕を宙に掲げた。
「車種や色を無線で聞いて、尾行するってことですね?」
 訊ねる涼太に、璃々は頷いた。
「でも、北川さんと村田さんがどこかに移動を命じられる可能性もありますよね?」
 今度は天野が訊ねてきた。
「そうね。逆に、そのほうがあなた達に逐一情報を送れるからやりやすいんだけどね。とにかく、キャリーケースが犯人の手に渡ればダミーだとバレてしまうから、すぐに取り押さえなきゃならないわ。あなた達に、ミルクちゃんの命がかかっているのよ」
 璃々は、恫喝的(どうかつてき)な響きを込めた口調で言いながら二人の顔を交互に見た。

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など

最終更新:1/24(金) 16:03
本がすき。

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