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[ルポ]「具合が悪くても仕事…母国の料理を食べて頑張る」農村移住労働者の食卓

1/26(日) 10:44配信

ハンギョレ新聞

[2020労働者の食卓](4)農村移住労働者

1日12時間、果てしない野良仕事…ビニールハウス80棟管理

月25万ウォンずつ払うビニールハウス
“冷たい床のコンテナ”が宿舎
暖房はおろか温水も出ない…“干し魚”と故郷風のカレーが特別食
素朴な晩餐準備する間にも、台所の水道はしょっちゅう止まる

 香ばしい魚の臭いが鼻を刺すと、プカー(45・以下すべて仮名)の顔が明るくなった。どれほど久しぶりに味わう「トレイチュアー」(干した魚)なのか分からない。魚をしっかり干して作ったトレイチュアーは、韓国のスケトウダラの生干しのような魚だ。プカーの故郷のカンボジアでは常備菜の一つで、塩辛いカワハギの干物(チポ)の味がする。カンボジアの市場には、どこでも糸を通して干したトレイチュアーが吊されている。8年前に韓国に移住した農業労働者のプカーが、ホームシックにかかった時のために用意しておく“ソウルフード”(心を慰める食べ物)だ。「具合が悪くても働かなければなりません。風邪を引いても休めません。病んだ時、トレイチュアーとお湯をかけて食べるご飯が一番です」。京畿道郊外のある農場のビニールハウス内のコンテナで会ったプカーが、フライパンの上のトレイチュアーをひっくり返しながら話した。取っ手のないフライパンなので、ティッシュを巻いて危なっかしそうに掴んでいた。煙を吸い込むフードは、煤煙が焦げ付いて真っ黒になっていた。

 トレイチュアーを飛行機で持ってきたのは、カンボジアに行って前日帰ってきた農場の同僚だ。農場近隣の東南アジア食料品店でもトレイチュアーを売っているが、値段は3~4倍になる。とても買おうは思えない。同僚のおかげでちゃんとした故郷の食卓ができた。囲んで座ってカンボジア式の食卓を整えたので、故郷の家にいるように笑い声があふれた。集まって座った場所が家ではなくコンテナで、床が氷のように冷たいことを別にすれば。

午前6時から12時間も農作業をしても…

 先月12日の夜、京畿道郊外のあるビニールハウスを訪れた時、プカーを含むカンボジア人8人は、しゃがんでサンチュを穫っていた。皆同じようにタオルを巻いた帽子に土まみれのダウンジャケット、トレーニングズボンを履いていた。1棟当たり横10メートル、縦100~150メートル大のビニールハウス80棟が8人の仕事場だ。1人が10棟ずつ管理しなければならない。ここでは、夏はキュウリを栽培し、冬はサンチュやホウレンソウを栽培する。ビニールハウスを60棟持っている農場主は、1年に20億ウォン(約1.9億円)ほど稼いでいるという。午前6時から午後6時過ぎまで、座る間もなく仕事をする農業移住労働者が生み出す利益だ。

 しかし、農業移住労働者の暮らしは、事実上の“召使い”に近い。移住労働者は入国する時に製造業と農業に分かれるが、韓国語の点数が低ければ農業、高ければ製造業に直行する。農業移住労働者は、農場主に呼ばれれば週末も仕事に出なければならない。農閑期に仕事が早く終れば、突然ビニールハウスの寒波防止のような追加労働もさせる。移住労働者は、事業主の不当な指示にも逆らえない。移住労働者の非専門就労ビザは、基本3年滞留に1年10カ月の延長が可能だ。韓国に再び来るためには、特別韓国語試験を受けた後、「誠実労働者」として認められなければならない。誠実労働者は、事業場を変わることなく一つの事業場で勤めてきた労働者に限定される。事業主の評価は、移住労働者が韓国に再移住する際の絶対的な基準だ。

 プカーの同僚は月給170万ウォン(約16万円)を受け取る。農場主は、給与から毎月“寮”費25万ウォン(約2.4万円)を控除する。昨年7月からは、韓国に居住する外国人が健康保険の「地域加入者」に分類され、毎月健康保険料も11万2850ウォン(約1万700円)ずつ引かれる。昨年基準で週40時間働く韓国人労働者の最低賃金は月174万5千ウォン(約16.6万円)。プカーと同僚は、一日11~12時間働く上に、週6日以上労働するので、最低賃金をはるかに上回らなければならないが、現実は法の例外状態に置かれている。韓国語の点数が低いからなのか。韓国の労働基準法は農畜産業労働者に対しては労働時間、休憩時間、休日に関して例外条項を設けている。移住労働者の支援活動をしているキム・ダルソン牧師は「私たちの食卓に上がるすべての野菜は移住労働者の手で作られている。日曜日になれば、京畿道の農村地域には移住労働者だけがいると言えるくらいだ」として「ほとんど20~30代の若々しい年齢でここに来て仕事をして、まるでバッテリーを取り替えるように5年もたたずに交替させられる」と話した。プカーのような農業移住労働者は、法務部基準で2万8千人ほど(2018年)だ。

氷のように冷たい15坪のサンドイッチパネル宿舎

 15坪(49.6平方メートル)ほどの寮は、ビニールハウス内にサンドイッチパネルで作ったコンテナだ。プカーをはじめとする女性5人、男性3人がここで暮らす。5坪のワンルーム3つを繋いだ構造で、2~3人で部屋を分けて使う。火災に脆弱なことはもちろんで、いつでもビニールハウスから出動できるように農場の端に作られているため、彼らは田畑と一体になって暮らしている。三つ葉、ホウレンソウ、サンチュ、フダン草の箱が数百個、そして軍手が山のように入口の両側に積まれている。

 東南アジアで生まれて育った彼らにとって、韓国の京畿道北部の冬はひときわ寒いが、組立式の仮設建物には暖房がない。部屋の床が氷のように冷たい。温熱器だけがぽつんと置かれている。暖かいシャワーさえ使えない。冷たい水さえ出たり出なかったりだ。飲料水を除けば、地下水で洗って料理するが、農作物に撒く農薬が簡単に混じってしまう構造だ。8人が暮らす寮の冷蔵庫には、最近買ってきたトレイチュアー意外には食べものも入っていない。代わりに台所の片隅には、彼らが飢えをしのいだバナナとミカンの皮が積まれていた。

 豊かに暮らそうと思って韓国まで来たが、彼らの食卓はカンボジアにいたときより貧しい。仕事に追われるうえに、劣悪な台所事情まで重なるので、まともな食事を準備して食べることは不可能だ。「カンボジアでは料理が好きで、食事には料理3品は作っていたが、韓国では誕生日にもおかず一品で食べています。仕事が大変で、調理する時間もありません」。プカーと共に仕事をするソムナン(30)が話した。

 韓国のテレビでは、一日中「グルメ番組」をやっているが、プカーと同僚は年に一度、肉料理屋に行くことも難しい。夜明けに起きて仕事に行かなければならなので、朝食は抜くしかない。30分前後の昼休みにも、調理することは難しい。だから大概はラーメンで済ませる。10年間この地域で東南アジア食料品店を営んできたある韓国人は「近くに東南アジアの食材を売る店が30カ所ほどあるが、商品の中ではラーメンが一番よく売れる」と伝えた。

 終日空かせたお腹を充たすべき夕食も、大盛りのご飯におかず一つが全てだ。ただしこの日は“特別食”のトレイチュアーがあったので2品のおかずを準備できた。プカーがトレイチュアーを焼き、カンボジア式カレーの「チャー・クダオ」を作る間にも、台所の水道は度々断水した。フライパンに油をしいて、調味料を炒め、カンボジア式魚醤のフィッシュソースを足して下ごしらえした鶏肉を入れた。赤唐辛子を薄く切って入れ「ロッティ」(タイの調味料)を入れると、チャー・クダオができあがった。プカーが「できたよ」と言って、サンドイッチパネルの壁を叩くと、すぐにクメール語のお喋りの声とともに同僚がやって来た。

それでも未来のために木を植える

 山盛りのご飯は20分で空になった。短い食事時間、故郷の家族の話を交わす彼らの顔に活気が戻った。夫と死別して韓国に来たプカーは、カンボジアの両親と弟妹を養っている。プカーは、韓国で稼いだお金で土地を買い、トロピカルフルーツの木を植える。プカーが韓国で他人の土地を世話している間に、家族はプカーの土地の世話をする。

 4年前に韓国に来たソムナンも、過労で病気になるたびに、故郷の子供と両親を思いながら耐えている。他の農場で働いているカンボジアの女性と2年前に結婚した。8カ月になる子供は、カンボジアの両親が世話をしている。

 「子供に会いたい。けれど、私たちの未来ために韓国で働き続けてお金たくさん稼ぎたいのです」。コンテナ部屋の冷気のために小さくからだを丸めていたソムナンだが、子供の名前を呼ぶ彼の顔にはしばし故郷カンボジアのカンポットのそよ風が吹いたようだった。

ペ・ジヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:1/26(日) 10:44
ハンギョレ新聞

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