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インド経済失速、GDP+4.5%に鈍化

2/4(火) 15:30配信

ニュースソクラ

【経済着眼】不況めくらましのモディ政権、不良債権問題に真剣さ欠く

 インド経済の失速が深刻になっている。アジアでは中国、日本に次ぐ第三位の経済大国だけにその悪影響は世界中で懸念されている。

 昨年7~9月の実質GDPは4.5%と6四半期連続での成長鈍化となり、13年1~3月以来6年ぶりの低成長となった。産業別にみると、製造業の低迷(前年比-1.0%)が深刻だ。モディ政権成立後では18年1~3月に8.1%と8%台を付けたのがピークであり、その後「メーク・インディア」(インドで作ろう)などの掛け声にもかかわらず、経済活動の水準は悪化をたどってきたわけである。

 さらにインド準備銀行は昨年12月に2019/20年度(19年4月~20年3月)の実質成長率見通しを従来の6.1%から一挙に5%に引き下げた。しかし、その予測ですら景気スローダウンを過小評価している恐れがある。第一次指標でみると、輸出・輸入ともマイナスで推移している。

 昨年7~9月の輸出(通関ベース)は世界貿易の鈍化から前年同期比-3.7%、輸入は産業活動の停滞を反映して同-12.6%まで落ち込んでいる。国内における消費財の生産や税収(実質ベース)も前年比1%程度の伸びに過ぎない。

 トランプ米大統領のぶち上げた貿易戦争の影響をインドも受けていないわけではない。しかし、ラジャン元インド準備銀行総裁も指摘するように経済スランプの説明要因のほとんどが個人消費や設備投資の低迷などの国内要因とみられている。

 GDPの過半のシェアを占める個人消費の低迷が深刻である。とくにインドの製造業の40%を占める自動車産業では深刻な販売低迷に直面している。昨年4~9月の自動車販売は前年比-23%の落ち込みとなった。二輪車販売は地方経済の先行指標であるが、これも前年比-16%の落ち込みとなっている。

 そのほか、多くの新興国経済にとって輸出と並ぶ二大エンジンである設備投資の低迷も深刻である。GDP統計上の総固定資本の寄与度は0.3%に過ぎない。

 経済失速は雇用の削減や所得の伸び悩みを通じて一般国民の不満を高めている。もともと、インドでは実質成長率が9~10%でないと、年間1,200万人に達する労働市場の供給増に対応できないと言われてきた。5%そこそこではレイオフや解雇が増大するのは当然である。

 特に中小規模の自家営業、立場の弱い契約労働者、農民などが経済スランプの影響を最も大きく被っている。家計部門では貯蓄の取り崩し(家計貯蓄率は2012年の23.6%から2018年には17.2%に低下)と消費者ローンの増加で生活を賄っている。

 こうした18年夏以降のインド経済の急速な悪化の主因についてはいろいろな見方がある。しかし、衆目の一致するところ、急速なクレジットクランチ(信用収縮)が主因のようだ。商業銀行の貸出増加額は昨年4~9月で1兆リアルにも達せず、前年同期の1/7にまで鈍化している。前政権時代の行き過ぎた貸出の反動が銀行、ノンバンクの不良資産問題と企業のバランスシート調整圧力を生んでいると言える。

 同時に景気循環論でいえば、モディ政権による金融緩和と財政刺激策の効果が出ていずれ景気は持ち直すことになろう。グローバル金融危機の起きた2008年以降、インドでは国営企業、基幹産業を中心に多額の借り入れにかかる利払いを払うだけの収益力に欠けて延滞が発生した。マクロ的な景気循環と違ってバランスシート危機は最初のころは目立たずに、じわじわと押し寄せてくる。

 インドの銀行では世界的な金融危機後、資産内容が大幅に悪化した。借り手別にみると、鉄鋼、電力、通信などの基幹産業・インフラ関連が中心で、とくに国営銀行に問題債権が集中した。政府・中銀も破綻法制を整備し11行に早期是正措置を発動した。

 さらに政府は国営銀行に対して2015/16年度以降、累計で2.5兆ルピーの増資を実施した。2019年度も7,000憶ルピー(約1兆5千億円)の公的資本の注入を計画している。

 しかし、モディ政権の不良資産問題に対する認識は甘く、大胆な不良資産の整理進捗、ノンバンクの整理を主張してきたインド準備銀行とことごとく対立して総裁の首を切ってきた。手をこまねいているうちに大手ノンバンクのIL&FS社が2018年9月にデフォルトを起こした。

 これを機に商業銀行、投資信託(MMF)などのノンバンク向けの貸し渋りが拡大し、ノンバンクの融資は急ブレーキをかけることを強いられた。自動車の販売の急速な減少や住宅投資の悪化もノンバンク等による信用収縮の影響が大きい。

 またモディ政権の企業腐敗防止は徹底して行われて逆にこの輸出部門、企業部門に大混乱を起こしたのが成長を止めた要因との指摘もある。2016年に行われた高額紙幣(流通高の86%)の突然の禁止も、中小の税逃れを行っていたインフォーマル企業に打撃を与えた。不動産業界も税当局の捕捉を逃れるために現金取引が主流であったので、多くの売れ残り在庫を抱えるに至った。

 GST(財・サービス税)導入も同じような効果があった。モディ改革を否定するものではないが、インドのさる経済人が指摘したように「洗濯して白いワイシャツの汚れを取る必要はある。しかし、ワイシャツを破らないように注意深くやらなければならない。」ということだろう。

 インドの株式市場はまだ事態を楽観しているし、IMFも世銀も来年度の景気回復を予測している。たしかに中長期的なインドの成長性を否定するものではない。大量の賃金コストの低い若い労働力を有している。

 人口は今後も増え続けて2025年には中国を抜き、2030年には15.1億人、2050年には16.6億人まで増加するとみられる。2050年には米国を抜いて中国に次ぐ経済大国になるという予想すらある。しかし、ここ2,3年の経済情勢は厳しいものがあろう。

 それは、景気停滞から抜け出すマクロ経済政策の有効性に乏しいためだ。インド準備銀行は2019年以降135ベーシスの利下げを実施して政策金利は5.15%となった。しかし、こうした金融緩和は商業銀行の貸し渋りによって最終顧客にまでは伝わらない。

 一方で財政政策もこれ以上の刺激策をとる余地に乏しい。中央・地方政府に国営企業を合わせた広義の財政赤字のGDP比は10%を優に超えているとみられるからだ。

 モディ政権は銀行、ノンバンクの不良資産問題や非効率な国営企業のバランスシート改善に向けての厳しい構造調整政策を迫られている。ともすると、モディ政権は国民の目を不況からそらすこと政治力を傾注しているように思われる。

 昨年4~5月の総選挙で首相再選につながったのがパキスタンを拠点とするテロ組織に強硬策を採りテロと戦う強い指導者とのイメージを与えたためだ。また現在も国民の8割を占めるヒンズー教至上主義政策でカシミールのイスラム教徒圧迫姿勢を打ち出している。しかし、真正面から経済の活性化につなげない限り、毎日の生活にも事欠く一般国民の反発を強めることになりかねない。

俵 一郎(国際金融専門家)

最終更新:2/4(火) 15:30
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