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羊文学 急速に支持が広がるなか、“彼女たちの今”はいかに音楽化されたのか?

2/5(水) 10:01配信

エムオンプレス

昨年7月にリリースした5曲入りEP「きらめき」の好評を受けて8月に行われた東名阪ツアーは3会場ともソールドアウトを記録。さらに、12月にリリースされたクリスマスシングルCD「1999/人間だった」もスマッシュヒットとなり、いよいよ注目度が高まっている羊文学から、ニュー・アイテムが届けられた。5曲入りというサイズは「きらめき」と同様だが、その内容は「きらめき」以前の羊文学サウンドを深化させた奥行きと味わいを感じさせる仕上がりだ。
ここでは、メンバー3人にその5曲の感触を話してもらいながら、現在のバンドの音楽作りの様子と彼ら自身の羊文学に対する手応えを明かしてもらった。

【写真】羊文学 メンバーの撮り下ろしショット

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史

◆(前作「きらめき」とは)対照的な作品になったと思います。
ーー 前回のインタビューで「次に出すものと2つセットにして、という話があったけど無くなった」という話がありました。タイトルを見ると前作と2つで一つなのかなという気がしますが、どうなんでしょうか。

【塩塚モエカ(Vo,Gt)】 2つで一つというわけではないんですけど、対照的な作品にはなったと思います。

ーー 制作自体は、どんなふうに始まったんですか。

【塩塚】 前作ができた後に「次は冬に何か出そう」という話があって、それに向けて作っていきました。

ーー アルバムとかミニアルバムとか出す形は決めずに、とにかく1曲ずつ作っていくという進め方だった、と?

【塩塚】 何か出そうという話の時に、最初はアルバムという話もあったんですけど、これくらいの曲数のほうが言いたいことが伝わりやすいんじゃないかということになって、それで候補になった曲のなかからこの5曲を選びました。

ーー いろんな形ですでに発表されている曲も含まれていますが、皆さんにとって一番古い曲はどれですか。

【塩塚】 「サイレン」です。自主盤に入ってた曲なんですけど、『ゆうなぎ』という映画に使いたいと言われたので、それで新しくレコーディングしました。

ーー 自主盤当時のバージョンから何か手を加えたところはありますか。

【塩塚】 細かいところは各パートでちょっと変わってるからもしれませんけど、基本的には同じです。

ーー ゆりかさんは、「サイレン」を最初に聴いた時の印象は憶えていますか。

【ゆりか(Ba)】 最初に聴いたのは前の音源で、広いところに登場人物が一人でいて、全体的にテンションが低くて、みたいな。その感じは残しつつ、ベースは自分らしさというか、自分なりのフレーズを足して、今回レコーディングしました。

ーー フクダさんは、「サイレン」を最初に聴いた時の印象で何か憶えていることはありますか。

【フクダヒロア(Dr)】 僕の好みのシューゲイザーとかポストロック的なサウンドで、わりと静かな感じだったので、ダークな感じの音になるように機材を揃えて、ハイハットの刻みもうるさくないようにしたりして、それから塩塚が「広い自然の中みたいなところに…」

【塩塚】 自然というか、野球場みたいなところね。

【フクダ】 そう。そういうところに一人でいる、みたいな壮大なイメージという話もしてたので、そういうことも意識しながら演奏しました。

ーー 塩塚さんの中での、「サイレン」についての最初のモチーフは、今フクダさんが言ってくれたようなイメージだったんですか。

【塩塚】 そういうのもありましたけど、フクダがずっと「シューゲイザーとかポストロック的なものをやりたい」と言ってて、当時の私はそういう音楽があまりよくわかってなかったんですけど、とりあえず暗い曲を作ってみようと思って(笑)。それに、みんなで一緒に歌うところがあるのも好きだったので、そういうふうに声を入れるところを作りたいということと、当時初めてディレイを買ったので、それを使いたいという気持ちもあって、そういう気持ちが合わさってできたのが「サイレン」です。

◆(「祈り」は)弾き語りで最初に聴いたんですけど、そのまま3人で合わせて、最後まで自然な感じでやれたのを憶えています。
ーー この5曲のなかで「サイレン」の次にできたのはどの曲ですか。

【塩塚】 「祈り」かな。この曲は、一昨年の年末に嫌なことがあって泣いたんですけど(笑)、そのことを書きました。

ーー フクダさんは、「祈り」については、どんな印象を持っていますか。

【フクダ】 エモーショナルな感じの曲で、最後は爆音になるんですけど、バンド感が強いというか…。

ーー そのバンド感が強いという感触は、塩塚さんが最初に聴かせてくれたデモがそういう感じだったんですか。

【フクダ】 いや、そういうわけじゃなくて、みんなでアレンジを詰めていったりライブでやったりしているうちに、そういう感じを強く感じるようになっていきました。

ーー ゆりかさんは「祈り」については、どういう印象ですか。

【ゆりか】 「きらめき」がわりとポップな感じでしたけど、その次に持ってきたのが「祈り」だったので、「きらめき」の前の羊文学にまた戻ったのかなという印象はありました。この曲は、弾き語りで最初に聴いたんですけど、そのまま3人で合わせて、最後まで自然な感じでやれたのを憶えています。

ーー 二人の話は、この曲が3人で合わせると気持ちが自然と高まる曲だということを語ってくれたように感じましたが、その最初のモチーフは泣いたことを書いた曲なんですよね?

【塩塚】 ちょっと言葉が足りなかったかもしれないですけど、夜に一人で泣いてた経験があって、誰も見ていないところでは、泣くことがすべての人にゆるされているということに気づいた、という曲です。

ーー 悲しいことがあって泣いたという経験は、こういう曲ができたことで受け取り方が変わったりしましたか。

【塩塚】 気づいてから書いたので、ずっと同じです。気づいたことを忘れないように形にして置くことはできました。

◆「きらめき」を出したおかげで、今の羊文学の発展した感じがより際立つんじゃないかなと思っています。
ーー 「夕凪」は、さっき話に出た『ゆうなぎ』という映画に向けて作った曲ですか。

【塩塚】 はい、そうです。人と人が、それぞれのきっかけですれ違って、しばらく経って、また小さなきっかけがあった時に、お互いが少し変わって再びわかり合えるようになっていく、という感じの映画です。

ーー 「夕凪」は「きらめき」のポップな感じを経ての曲調という印象があるんですが、テンポやアレンジに関して何か意識していたことはありますか。

【塩塚】 ありません。この曲調は、例えば「Step」みたいな曲もあるように、元からすごく得意な感じだと思っていました。

ーー 「人間だった」とはどういうふうに生まれた曲ですか。

【塩塚】 「人間だった」が“自然と人間”みたいなテーマの展示を見に行って、それで去年起こったいろんな災害とか政治とか、そういうことについて自分なりに思ったことを書きました。

ーー そういうきっかけがある時に、“だったら、こういう曲調にしよう”みたいなことは考えるんですか。

【塩塚】 いや、考えないです。普通に曲を作ってて、自分から出てきた言葉をそこに乗っけた時に、“私はこういうことが言いたかったんだな”とは思うんですけど。

ーー この5曲を選んだのは、何か共通するテーマみたいなものを感じたんでしょうか。

【塩塚】 テーマというようなものは今回は特にないんですけど、この5曲は色みたいなことでしょうか。4曲目までを先に選んで、「あともう1曲どうしようか?」というところで「恋なんて」を選んだんですけど…。「きらめき」の後になるので、原点回帰的なこともちょっと意識したかもしれないですね。

ーー メンバーの皆さんには、原点回帰的な感触もこの作品にはあるんですね。

【塩塚】 「きらめき」がなかったら、もしかするとずっと同じような音楽をやってるように受け取られたかもしれないですが、「きらめき」を出したおかげで、今の羊文学の発展した感じがより際立つんじゃないかなと思っています。

ーー 僕は、4曲目までの4曲には共通した空気があるように感じました。それは、5曲目だけは“私とあなた”の世界の歌だけで、それまでの4曲はもう少し広い関わりの世界に主人公が身を置いていることが意識された歌だなと思うんです。

【塩塚】 そうかもしれないです。

ーー そして、その広い関わりの世界については、何か決定的な終わりが来て、その先のことを考えているような空気を感じます。

【塩塚】 「人間だった」は確かにそういう曲ですね。

ーー 「夕凪」の“旅人たち”は、いつか来るだろう終わりに向かって進んでいきますよね。

【塩塚】 その“終わり”というのは、死ぬということや別れということだと思っていて、人生を歩いていくと途中で失敗しちゃったりしますよね。『ゆうなぎ』という映画でも人と解け合うことをせずに過ごしてきてしまった時間を風が止んで凪いでいる状態に喩えていて、それがまた風が吹いてくることで進んでいくっていう。そういうことを歌詞にしました。

ーー 「サイレン」は、野球場のようなところで鳴るサイレンじゃなくて、もうちょっと緊急のアラートが鳴っているシーンを連想しました。

【塩塚】 「サイレン」は私が20歳くらいの時に書いたんですが、東京のグチャグチャした感じがすごく嫌になったことがあって、それをどうにかしたいというのではなくて、ただワーッとなってるっていう(笑)。だから、「祈り」を書いた時の気持ちに、近い部分もあるんですけど。

ーー とすると、主人公と、その先にいる塩塚さんの気持ちの有り様に、この4曲は何か共通性があるのかもしれないですね。最新のアーティスト写真も、この4曲について僕が感じたことと同じようなイメージを抱いている人が撮ったような気がしているんですが、カメラマンとは何か話しましたか。

【塩塚】 「きらめき」とは対になるようにしたいという話はしたと思うんですけど…。この写真を撮ってくれたカメラマンはライブもずっと撮ってもらってる人で、彼のなかの“羊文学ってこうだよね”というイメージで撮ってくれればいいなと思ってたら、ああいう写真になりました。

ーー なるほど。5曲目の「恋なんて」はちょっと色合いの違う曲だと思いますが、この曲のわかりやすい特徴として、付き合ってたんだけど別れることになってしまった男の子と女の子が交互にそれぞれの気持ちを言い合う形の歌詞になっていますね。

【塩塚】 あれは、ああいう形にしようと思って書きました。こういう歌詞の形もあるかなと思って。「きらめき」に入っている「ミルク」という曲が意外と人気があって、みんな恋の曲が聴きたいのかなと思いました。意識して歌詞の形を考えるということはあまりやったことがなかったんですけど、ここで恋の歌でやってみるのも面白いかなと思ったんです。それからE-テレのために曲を書いた時に、人と歌詞を作っていくことを初めてやったので、そこで勉強したことを入れようと思って作ったのがこの曲です。

【ゆりか】 この曲を最初に受け取った時に、歌詞がノートに書かれてるのが送られてきたんです。いつもは携帯のメモに書いたのが送られてくるんですけど。だから、ノートに書いたというところからもう、いつもとは違ってたんですよね(笑)。

【塩塚】 今回は、真面目に座って書いてみようと思って。いつもは感覚で書いていっちゃうんですけど、この曲は“文章としてちゃんと合ってるかな?”ということもちゃんと意識して書こうと思ったんです。

ーー 「ざわめき」というタイトルは、5曲が揃ってから考えたんですか。

【塩塚】 そうですね。やっぱり「きらめき」と対になるのがいいなと思って四文字の言葉を考えたんですけど、言葉の質感とかイメージもいいなと思ったし、それにこの5曲は胸が何かざわつくような瞬間のことを歌ってるような気がしたので、「ざわめき」にしました。

ーー 今日は、大阪でのワンマン・ライブを先週終えたばかりというタイミングですが、その大阪でのライブはいかがでしたか。

【フクダ】 この「ざわめき」に入っている曲も全曲やったんですが、昔からのお客さんも新しく来てくれたお客さんもみんな楽しんでもらえたと思っています。

ーー 今の羊文学のライブについては、皆さんはどんな感触を持っていますか。

【フクダ】 加入してからわりと時間が経ったので、羊文学の音楽が身についてきたなという感覚は確かに自分のなかにあって、ライブやる時にも緊張しなくなってきたなということは感じています。で、僕は前のライブのこととかあまり考えないで毎回リセットしてやるようにしているので、その時その時の感覚で毎回やってますね。

【ゆりか】 演奏はいい方向に行ってると思いますし、私自身はやればやるほどライブが面白くなってきてる感じがしています。ただ、リハ・スタでやったことをライブで全部出せるようになるには体力的な部分がもうちょっとかなと感じですね(笑)。

【塩塚】 私は、ライブについては最初はよくわからないなという感じだったんですけど、いろんなところでライブして“こういうライブにしたいな”ということに気づけてからは、毎回それをクリアしようと思ってやっています。特にワンマンの場合は、さっき話に出たカメラマンもそうだし、音響も照明もヘアメイクもそうですけど、私たちが面白いなと思った人たちと一緒に仕事ができることをすごく心強く感じるから、特別な気持ちでやれていると思います。

ーー 今回の新曲とともに、ライブでもますます羊文学を楽しみたいと思います。ありがとうございました。

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最終更新:2/5(水) 10:01
エムオンプレス

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