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可児市「アーラ」英劇場と共同で新作演劇 国際結婚巡る家族の物語

2/5(水) 9:07配信

岐阜新聞Web

 独自の劇場経営で全国トップレベルの劇場として注目される岐阜県可児市文化創造センター「アーラ」。アーラが手本とし、2015年に劇場提携を結んだ英国の地域劇場「リーズ・プレイハウス(LP)」と共同制作した初の新作演劇「野兎(のうさぎ)たち ミッシング・ピープル」の公演が8日、東京・新国立劇場(16日まで)を皮切りに始まる。今月は可児・アーラ(22~29日)、3月は英国のLP(12~21日)でそれぞれ上演。日英の現代社会の課題に向き合った書き下ろしの現代劇で勝負する。

 「LPとの出会いは1998年。こんな劇場が10あれば日本は生きやすい社会になると提携を思い描いた。あれから20年以上。LPに追いつこうとやってきた」。アーラ館長でプロデューサーを務める衛紀生(えいきせい)さん(73)は、制作記者発表で感慨深く切り出した。

 LPは市民運動で誕生し、芸術性の高い作品制作と、貧困や格差、差別などで生きづらさを感じる人たちを排除しない「社会包摂」機能を備えた劇場経営で世界的に知られる。

 知名度では、アーラも負けてはいない。「芸術の殿堂より人間の家を」を掲げ、過去の優れた戯曲をリメークして全国発信するなど高水準の舞台制作と、住民の生きがいや居場所づくりを軸にした劇場経営で、2018年度の来館者数は鑑賞者や講座参加、貸館利用などを含め年間約44万人に上る。開館翌年の03年度の来館者と比べると1・8倍になる。

 「野兎たち」は、ノーベル文学賞受賞の英劇作家ハロルド・ピンター氏の名を冠したピンター新作委託賞受賞作家、ブラッド・バーチ氏が脚本を書いた。バーチ氏は来日して日雇い労働者が集まる大阪の通称・釜ケ崎や子ども食堂の活動などを取材。ロンドン暮らしで可児市出身の娘と英国人男性の国際結婚を巡る家族の物語をテーマに据えた。

 舞台は外国籍の人が多く住む可児市。娘が婚約者とその母を連れてロンドンから可児の実家に帰省する場面から始まる。一見つながっているように見えた親子は、ある問題を境に関係にほころびを見せる。本当は互いの価値観の違いを理解せず不寛容に陥り、世間体という社会的圧力につぶされ、個々が孤立している現実を描いている。

 演出は西川信廣氏とマーク・ローゼンブラット氏の2人。共同制作といえば、スタッフはどちらかの国に統一されがちだが、俳優、舞台監督などを日英混成で作り上げている点も珍しい。せりふも日本語と英語が混在するため、舞台上に字幕が表示される。

 邦題の野兎という言葉は、英国では臆病で孤独のイメージがあるという。それぞれ個別の穴に逃げ込む野ウサギたちが、孤立する登場人物たちの状況と重なり、象徴的に伝えている。

 稽古を重ねる中で、脚本は7回にわたって書き換えられた。「バーチ氏の戯曲は、いくつもの意味が複層的に組み合わさっているため、俳優に理解させて観客に伝わる芝居をすることに注力している」と、衛館長は稽古の様子を説明する。

 親の過度の期待という「一種の暴力」によって押しつぶされる子供、子供の質問をはぐらかす態度や威圧感のある言動による親の「無意識の虐待」など、今を生きる人たちの身の回りで起きている家族の問題を、演劇を通してつぶさに見つめさせられる。

 「今、自分たちがこういう世の中を生きていることを作品を通して知ってほしい。こんな社会を作った政治に対する強いメッセージも込めている」。芸術を通して社会課題と向き合い、解決策を考えようという経営理念を同じくする二つの劇場が組んで作り上げた今回の作品に、衛館長は期待を寄せている。

 可児公演(可児市主催)は全席指定で税込み一般4千円、18歳以下2千円。問い合わせはアーラ、電話0574(60)3050。

岐阜新聞社

最終更新:2/5(水) 9:07
岐阜新聞Web

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