ここから本文です

失敗だらけの人生で。直木賞作家は今日も逃げ続ける

2/8(土) 11:09配信

BuzzFeed Japan

生活資金を妻と子どもに送り続け、時には友人や知人に借金をして生き延びる。小説の描写は、まさに白石、その人だ。

誇れるようなものではない過去や隠してしまいたくなるようなことすら、小説のネタにした。

「僕にとって書くことは治療行為」と白石は明かす。だから、書ける。「普通だったら書けないでしょうね」。それが偽らざる本音だ。

絶対に「逃げろ」と言葉をかける理由

『ほかならぬ人』の解説には、白石が送ったというメールの一文が引用されている。

それは、体調を崩して3カ月休職し、職場に復帰した編集者へ送ったメッセージだ。

《よくやりましたね。電車に乗れただけでも大成功ですよ。そうやってひとつひとつ、できることが増えていけばいいんです。ただ、人生には嫌なことがたくさんあります。そういうことからは、全力で逃げることです。僕はそれも生きるための勇気だと思います。

ーー白石一文著『ほかならぬ人』》

誰かが壁にぶち当たった時、多くの人はその壁を必死に乗り越えられるよう「頑張れ」と声をかける。だが、白石は違う。

「『頑張れ』という言葉をかけられて、無理して頑張ってしまう人もいる。だから、僕は絶対に『逃げろ』と言葉をかけるんです」

「誰かに相談をしている時点で、既に結構大変な状態にあると僕は思うんです。そんな状態の人に『頑張れ』という言葉をかける必要はない。だって頑張れという言葉を望んでいるなら、仮に『逃げた方がいい』と言われてもその人は頑張ることを選びますから」

無理をして頑張る、その辛さを誰よりも知っている。自分は心を病み、挫折した。でも、他の誰かが「ここまでの経験をする必要はない」。

だからこそ、逃げることも生きるための勇気と伝えた。たとえ、悔やんでも悔やみきれないことがあったとしても。

「ストレス耐性をつけることも必要かもしれない。でも、僕はちょこちょこと逃げ回った方がいいと思う。本当に」

「『あいつは腰が定まらない』と言われるかもしれない。だけど、体がボロボロになるよりも全然いいよ。気付けば、『腰が定まらない』と言っていた人が病気になったりする」

でも、それって怖くありません?

「結局のところやりたいことだけ手放さなければ、それでいいんです。お金がちょっと減ろうが増えようが、捨てる神あれば拾う神あり。これが終わったら、おしまいなんてことはありませんから」

男は今日も、逃げ続ける。

千葉雄登

4/4ページ

最終更新:2/8(土) 11:09
BuzzFeed Japan

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事