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異議あり「石炭悪玉論」 今は資源の総動員を

2/9(日) 7:17配信

SankeiBiz

 間もなく東京電力の福島第一原発事故から丸9年になるが、再稼働にこぎ着けた原発はわずか9基に留まり、全電力の約6%。80%は化石燃料による火力発電で、天然ガス、石炭、石油は全量海外からの輸入。しかも原油の90%は中東からの輸入で、エネルギー自給率はわずか11%程度。現下の一触即発の中東情勢を考えると日本の台所はまさに綱渡り状態だ。(エネルギー戦略研究会会長・金子熊夫)

 このような厳しい状況では、日本はエネルギーをえり好みしている余裕はなく、あらゆる資源を総動員しなければならないが、再生可能エネルギーがまだ力不足な現状において、最も頼りになるのは火力と原子力であることは自明だ。原子力については、安全性を大前提に再稼働を急ぐべきで、これについては今さら多言を要しない。当面の問題は石炭火力である。

 ◆環境相は真意を率直に伝えよ

 ところで、昨年12月にスペインの首都マドリードで開催された国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)では、例によって、最大の二酸化炭素(CO2)排出源である石炭がやり玉に挙がった。そして、石炭火力が増えている国として特に日本に批判が集中し、環境保護団体から「化石賞」なるものを授与された。

 この会議に出席した小泉進次郎環境相は記者会見で、日本の石炭火力削減のための具体策を聞かれ、曖昧な答えに終始し、腰が引けた印象を世界に与えた。環境相としては所管外の事項とはいえ、もう少し積極的な姿勢を示すべきではなかったか。

 確かに、福島事故後、日本の石炭火力は大幅に拡大したが、それはいわば緊急避難的な政策で、やむを得ないことだ。日本は決して温暖化問題に不熱心なのではない。今後、原発再稼働が進み、正常な電力供給体制(ベストミックス)が復活すれば、石炭消費は減少するだろう。今は辛抱のときだ。小泉環境相としては、もっと毅然(きぜん)と、かつ率直に日本の真意を訴え、世界の理解を求めるべきであったと思う。

 ドイツなどは、脱原発政策を掲げ、地球環境の守護神のように振る舞っているが、実際には石炭や、石炭より悪質な褐炭を大量に燃やし続けている。そのドイツでも、2022年の原発全廃を目前にして、脱原発と脱石炭の同時達成は無理なので、どちらを優先すべきかの議論が起こっている。環境先進国と目されるスウェーデンでも、直近の世論調査では、原子力支持が国民の8割を超えている。さらに、従来原発に批判的だった欧州連合(EU)でも、昨年末、激論の末に、原子力を温暖化対策の選択肢から外さないという妥協的合意(いわゆる「タクソノミー」)が成立した。それだけ温暖化に危機感を共有しているということだが、各国とも自国経済への影響を恐れて、現実的な対応を迫られているとみるべきだろう。

 ◆途上国への技術移転を

 もっと深刻なのは開発途上国で、彼らにとって安価な石炭は貴重なエネルギー資源だ。温暖化防止の重要性は分かるが、石炭火力を止めるわけにはいかない。日本はそうした国々のためにも、石炭の重要性について国際的な理解を高めるべく努力すべきだ。

 その際に重要なことは、石炭をそのまま燃やすのではなく、できるだけ効率よく燃焼させてCO2排出を最小化する技術(IGCCなど)や、燃やした後のCO2を分離・貯留して大気中に放出しない技術(CCSなど)を早期に実用化させ、その技術を途上国に移転することも日本を含む先進国に課せられた重要な責務だ。

 そうした考えは政府部内にも当然あるはずだが、どういうわけか具体的な政策として明確に出てこない。福島事故後、日本の原発輸出は完全に頓挫したが、日本の原発技術に対する国際的評価は依然として高い。事故のショックから早く立ち直って、日本と世界のエネルギー安全保障と温暖化防止のために、汗を流すべきときである。

【プロフィル】金子熊夫

 かねこ・くまお 米ハーバード大学法科大学院卒。外交官として約30年間、世界各地で勤務。外務省の初代環境担当官、国連環境計画(UNEP)出向。1977年初代の原子力課長。日本国際問題研究所の研究局長、環太平洋協力委員会事務局長、外務参事官などを歴任し89年退官。東海大学教授(国際政治)を経てエネルギー戦略研究会(EEE会議)を創設。83歳。愛知県出身。

最終更新:2/9(日) 7:17
SankeiBiz

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