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[書評]新自由主義の尖兵、IMFの反省文

2/9(日) 15:38配信

ハンギョレ新聞

国際通貨基金幹部「不平等が成長を阻害」 金融のグローバル化など新自由主義政策を批判 資本課税を通した基本所得など 社会セーフティネットの強化方案を提示…韓国右派の論理に“警鐘”

『IMF、不平等に対抗する』 
ジョナサン・D・オストリー他著、シン・ヨンホ、イム・イルソプ、チェ・ウソン訳/思索の力・1万8000ウォン

 2010年12月、チュニジアで起きた民衆デモが、アラブ全域で経済的平等の拡大を要求する「アラブの春」につながり、大西洋を渡り米国で「ウォール街を占領せよ(オキュパイ・ウォールストリート)」運動に広がった時、ワシントンDCの国際通貨基金(IMF)の建物ではIMF総裁が主宰する高位幹部会議が開かれた。総裁は尋ねた。「なぜ私たちはこれを予測できなかったのか?」「そして私たちはこの問題にどのように対応すべきか?」

 IMFの現職幹部が書いた『IMF、不平等に対抗する』(原題:Confronting Inequality)は、総裁の質問に対する返答の性格を帯びている。本は質問の主人公が誰なのかは明らかにしていないが、時期と脈絡から推し量れば、クリスティーヌ・ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁だと見られる。彼女は2011年7月から2019年9月までIMF総裁を務めた。

 この本は、1980年代から新自由主義の尖兵の役割をしてきたIMFの反省文と見られる。チャン・ハジュンのように比喩が派手だったり、トマ・ピケティのように新出の分析があるわけではないが、IMFの現職幹部が数十年間守ってきた自分たちの政策基調を批判したという事実だけでも注目に値する。

 タイトルからわかるとおり、この本のキーワードは不平等だ。「2014年オックスファム(Oxfam、貧困解決のための国際機構)は、驚くべき統計を表題に提示した。世界上位の金持ち85人が、およそ35億人に及ぶ人類の下位半分より多くの富を所有しているというものだった」。資本主義一極体制が完成された過去30年間に不平等が深まったことは自明の事実だが、この本の関心事は不平等自体ではない。正確に言えば、不平等と成長の関係を明らかにすることがこの本の目標だ。IMFの各種の新自由主義政策、例えば「金融のグローバル化」と呼ばれた資本の自由な移動、財政健全化という肯定的イメージで覆われた財政緊縮プログラム、改革という名前で強要した構造調整が、不平等に及ぼした影響を統計で立証する。

 この本はまず、英国、米国などの先進国と、ブラジル、カメルーン、チリ、ヨルダンなどの新興国と開発途上国の成長パターンを分析する。英国と米国のグラフは、あたかも丘を登るようにたゆまず右肩上がりだが(もちろん小さな上り下りはある)、新興国と開発途上国では成長が永く停滞したり断絶したりもする。その理由を著者は不平等に求める。成長期の持続の有無と所得不平等を表す指数のジニ係数の相関関係を分析してみると、「不平等が激しいほど、成長の持続期間も短い傾向がある」ということだ。不平等と再分配が成長に及ぼす効果を分析した結果を見れば、「再分配が表面上は成長に影響を与えない一方で、純不平等は明らかに成長に否定的影響を与える。(…)再分配が総合的に成長親和的効果を出すウィン・ウィン状況にあるというのが分析の平均的結論」とこの本は主張する。

 今、韓国でも論議が続いている財政健全化(財政緊縮)政策と不平等の関係を調べるために、著者たちは1978~2009年までの財政健全化措置を講じた経済協力開発機構(OECD)17の加盟国の経済統計を分析した。財政健全化措置とは、公企業を売却したり歳出を減らすなどの方法で国家負債を縮小する行為をいう。これらの国の健全化規模は、平均的に概略国内総生産(GDP)の1%だった。「過去から得られる証拠は明白だ。典型的には、財政健全化は所得を減少させ失業を増やす短期効果を出す。GDP1%規模の財政健全化は、2年以内にインフレーション調整を経た所得を約0.6%減少させ、失業率を約0.5%引き上げ、その後には若干の回復傾向を見せる」。その結果、ジニ係数は健全化措置以後に1年に約0.1%、8年で約0.9%上がったと見られると著者は主張する。

 当然、これに伴う苦痛は均等に分散されはしない。「財政健全化は、賃金所得者に渡るパイの大きさを減らす。GDPの1%規模の財政健全化ごとに、インフレーション調整された利潤と地代はせいぜい0.3%減るのに対して、インフレーション調整された賃金所得は典型的に0.9%減少する。(…)総合すれば、財政健全化はすでに十分苦痛を味わっている人々-長期失業者-の苦痛を倍加する」。不平等が深まるということだ。

 1979年、英国のマーガレット・サッチャー首相が火を点けた「資本の自由な移動」についても同じ方式の検証を試みる。著者たちは、経済学者ダニ・ロドリックを引用して「危機リスクが高まったという点でコストは高いのに反して、資本アカウント自由化の便益に関する証拠は見出しがたい」と主張する。ロドリックは、資本が全世界を舞台に自由に移動するよう許容することは、「ロンドン、フランクフルト、ニューヨークの20代半ば、せいぜい30代のアナリストの気分と好みに経済を担保としてすっかり任せること」と批判する。1980年代以来、資本流入が急増した新興経済150カ国のうち、約20%が金融危機を体験し、韓国もその一つだった。

 中央銀行の通貨政策と所得不平等の関係に対する分析も興味深い。「政策金利を予想外に100bp(1%)引き下げれば、ジニ係数を短期的に約1.25%、中期的には約2.25%低くする。(…)労働所得分配率は増加して、上位10%、5%、1%に渡る所得持分はすべて低下する。要約すれば、私たちが得た結論は外生的な通貨政策の緩和が不平等を減らすという明白な証拠を提示する」

 本の結論は、5点に整理できる。第一に、所得不平等は経済成長を妨害する。第二に、今までの成長政策(平均所得増加政策)は不平等を高めてきた。第三に、再分配は成長に害となる影響を及ぼさない。むしろ成長に役立つ傾向がある。第四に、再分配を通じた不平等の解消努力が労働意欲を阻害するという恐れは誤りだ。そして最後に、社会の不平等度は、政府が選択した政策に大きく影響を受ける、ということだ。

 代案は「包容的世界化」だ。「グローバル化の逆転」現象を緩和できる各種の再分配政策を施行しなければならないということだ。医療や教育など公共財投資の拡大をはじめとする「事前分配」政策、米国の勤労奨励税制(EITC)プログラムのように所得格差を減らすことができる方案を不平等緩和の対策として提示する。著者たちは、これを「トランポリンとセーフティネット」と呼ぶ。また、資本の移動を統制し、金融のグローバル化にともなう利益が資本に集中しないよう、租税回避を防ぐための世界的な協力も必要だと明らかにする。

 注目すべき点は、これらの代案の中に「基本所得」が含まれている点だ。ロボットの導入拡大により生産量は増えるが、労働が経済に占める比重が少なくなることにより、賃金は下がらざるをえないので、購買力強化のために基本所得による保障が必要だということだ。財源は資本に対する課税を通じて用意しなければなければならないと著者たちは話す。

 韓国では一部の左派の非現実的主張のように言われる基本所得制を、IMFが導入しようと提案する現実は、とても超現実的に感じられる。だが、この本の目的が資本主義体制の安定的成長にあるという点を忘れてはならない。西欧の基準では、基本所得が右派的主張でありうるという事実を改めて確認する瞬間だ。資本主義体制の安定性を脅かすほどに、現在の不平等水準が深刻であるか、または深刻化しかねないという意味に解釈できる。

 しかし、韓国の保守右派は、相変らず成長と分配を白黒論理で分けて、すべての分配政策を左派的だと非難するのが現実だ。自分たちが偶像のように持ち上げてきた機関は、すでに10年前から方向を変えたにもかかわらず、韓国の保守右派は相変らず過去の理念にしがみついている。彼らの悪口と呪いによって、所得主導成長を始めとする文在寅(ムン・ジェイン)政府の「包容的成長論」は、ほとんど満身瘡痍になっている。この本の著者たちが、韓国の保守に会ったならば、このように言うのではないだろうか。「問題は成長だ、愚か者め!成長のためにも分配は必要だ!」と。

イ・ジェソン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:2/9(日) 15:38
ハンギョレ新聞

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