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【論調比較・春闘】 産経・朝日・毎日・東京は経営側の「食い逃げ」に釘

2/13(木) 14:40配信

ニュースソクラ

日経社説は賃上げに言及なし

 2020年春闘が始まった。今年のテーマは、賃上げ、格差是正、日本型雇用の3つだろう。これらはそれぞれ、密接に絡むが、どこに重点を置いて見るかで立場が変わる。大手紙の論調では、日本型雇用見直しに理解がある日経、産経、読売の3紙の間でも、賃上げを含めた論調は微妙に分かれる。

 連合と経団連の労使トップ会談(1月28日)が春闘の「号砲」と位置付けられ、大企業の回答が集中する3月11日ごろを一つのめどとする論戦がスタートした。

 まず、賃上げ。連合は賃金の底上げ=ベースアップ(ベア)2%程度、定期昇給分とあわせて4%程度の賃上げを統一要求に盛り込んでおり、トップ会談で神津里季生(りきお)会長は、「賃上げのうねりが社会全体のものにはなっていない。分配構造の転換をめざす」と強調した。

 これに対し経団連の中西宏明会長も「日本の賃金水準は先進国の中でも決して高くない。賃上げを続けるモメンタム(勢い)は大事だ」と賃上げの必要性は認めている。ただ、業績にばらつきもあるとして、個別企業の事情に応じた対応を主張する。

 企業の景況感が悪化していることも強調し、大幅賃上げには慎重姿勢だ。特に、ここにきて中国発の新型肺炎が世界経済に与えるマイナスへの懸念が急速に拡大していることも、経営側のマインドを後退させているのは気がかりな点だ。

 第2次安倍政権の下の2014年からの「官製春闘」で2019年まで6年続けて2%超の賃上げが続いてきた。それでも、アベノミクスで大企業を中心に企業の内部留保が463兆円(2018年度)と過去最高に膨らむ一方、労働分配率は40数年ぶりの歴史的な低水準。持続的な景気回復のためにも賃上げで国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費を増やすことは重要だ。

 連合は非正規雇用の増加に伴う格差の是正も重視し、非正規社員にも勤続年数に応じた昇給ルールを導入することなどを求めている。4月から、正規・非正規の格差是正をめざす「同一労働同一賃金」が大企業で実施(中小企業は2021年4月)されるのを踏まえ、経営側の対応が注目点だ。

 大企業と中小企業の格差もなお大きい。2019年の春闘では中小企業労組のうち賃上げを獲得できたのは5割台にとどまった。連合は、非正規の増加も踏まえ、法定最低賃金(東京で時給1013円)を超える時給1100円以上の「企業内最賃協定」を労使で結ぶことを今春闘の要求に掲げて底上げを図る考えだ。

 経団連は日本の賃金水準が低いことを認めるといっても、「春闘が主導してきた同じ業種で横並びの集団的賃金交渉は実態に合わなくなっている」(経営労働政策特別委員会報告=経団連の春闘対応方針)として、「脱一律」の姿勢を強める。

 ここでやり玉にあがるのが「日本型雇用システム」だ。旧来の「メンバーシップ型」(終身雇用を前提として年齢の上昇に伴って上がる年功型賃金や新卒一括採用)を見直し、専門性や成果による処遇を基本とする「ジョブ型」の雇用への拡大ないし転換であり、賃上げについても「脱一律」ということになる。

 経済のグローバル化、デジタル化のなかで、業種横並びの賃金体系のままでは働きがいは高まらず、米IT(情報技術)大手などと奪い合いになっている人工知能(AI)関連など優秀な人材を集められない――まさに国際競争の最前線に立つ日立製作所の会長である中西氏の危機感を反映した方針といわれる。

 連合は、経団連の方針がもっぱら大企業の意向を反映したものだとして、格差拡大を念頭に、「我々の問題意識は日本型雇用システムの良い部分をいかに取り戻すかだ」(神津会長)と反論。セーフティーネットとして機能してきた終身雇用・長期雇用の行き過ぎた改革に慎重な姿勢だ。

 ただ、労働側の中でも、電機連合が春闘の方針で、前年と同じ「月額3000円以上」のベアを統一要求とする一方、条件付きで各社の回答にばらつきが生じることを容認、春闘の代名詞だった「同額要求・同額回答」の図式が崩れてきている。

 自動車総連は、2019年からベアの水準を示すのを取りやめ、ベア重視の連合と一線を画す。日本一儲かっている会社、トヨタ自動車の労組は、ベアに各組合員の人事評価に応じて従来よりも差がつく制度を提案し、ベアがゼロになる社員が出ることも容認するなど、経営側の「脱一律」に呼応する動きがある。

 春闘をめぐり、大手紙の社説は1月21日の経団連・特別委員会報告に合わせて東京を除く5紙が一斉に論じ、28日の労使トップ会談を受け東京も取り上げ、毎日は2回目を掲載した。

 論調を大きく分けるのは、「日本型雇用」の見直しへの姿勢だ。最も先鋭的に必要性を主張するのが日経(1月22日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54662040R20C20A1SHF000/)だ。「春闘」も「春季労使交渉」と言い換えている経済紙。ある意味、1年で最も日経らしい社説といえる。

 〈目先の賃上げだけでなく、持続的に企業が成長するための本質的な議論をすべきだという経団連の考え方は理解できる。継続的な賃上げの基盤づくりにもつながる。労働組合も経団連の問題意識を真摯に受け止めるべきだ〉との基本認識を示したうえで、
 〈年功賃金や終身雇用は、経済が右肩上がりで伸び、長い目で人を育てればよかったときのシステムだ。競争環境が激しく変わるなかでイノベーションを起こせる人材を輩出し続けなければならない今は、基本的にそぐわない〉と、旧来の仕組みからの転換を主張し、
 〈ジョブ型雇用は専門性や成果による処遇が基本になる。業種や国境を越えて有能な人材を獲得するためにも、企業はこの雇用形態を積極的に取り入れてはどうか〉と、経団連の主張を支持。
 これに呼応するトヨタ労組を評価し、〈時代遅れになっている雇用制度の改革論議が産業界全体で進むことを期待したい〉と訴える。

 日経に次いで日本型見直しに前向きなのが産経(主張=社説に相当、24日、https://www.sankei.com/column/news/200124/clm2001240002-n1.html)で、〈企業が持続的に成長するには雇用制度の改革が欠かせない。成長がなければ賃上げ原資の確保も難しい。硬直的な雇用慣行を見直すのは理解できる。……職務を明確化して成果で報酬を決める雇用体系への移行が求められる〉と、日経同様に見直し支持を強調する。

 もちろん、抜本的な改革には春闘だけでは無理な話。〈通年で協議する場を設け会社の将来像を含め議論を深めるべきだ〉(日経)、〈時間をかけて継続的に協議する仕組みも考えたい〉(産経)と、2紙は長期的な取り組みを求める。

 読売(24 日、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200124-OYT1T50013/)も〈(経団連が)日本型雇用システムについて、「課題も顕在化してきている」と指摘した……問題意識は理解できる。……(賃金体系で)業績評価の部分を大きくすれば、能力のある若手・中堅社員らの働く意欲を高めよう〉と、肯定的だが、論じ方は淡白だ。

 日経は今春闘の最大の課題とされる賃上げや格差是正など、全体の底上げに直接言及してアップを求めるような記述はないのが目立つ。

 一方、産経は、日本型見直しと賃上げの関係に注目する点で日経と異なる。〈改革を従業員の待遇を切り下げるリストラの口実にしてはならない。……春闘交渉がそうした改革論議に埋もれ、肝心の賃上げが不十分になるようでは問題だ。……支払い能力のある企業は、ベアを含めた賃上げで従業員にきちんと報いるべきだ〉
 〈原則を抜きにジョブ型雇用などを拡大すれば、従業員の待遇が一律で引き下げられる恐れもある〉など、賃金抑制の口実にならぬよう、くぎを刺しているのが目を引く。

 読売も社説全体として賃上げを強く求めるが、日本型見直しと関連付ける記述はない。

 他の3紙は賃上げを第一の課題とすることで共通するが、それは後述するとして、日本型見直しについても、もちろん触れており、〈経済環境や技術の変化が、雇用のあり方にも影響するのは否めない〉(朝日24日、https://www.asahi.com/articles/DA3S14338541.html)、〈国際的な競争力を高める意味で日本の雇用について議論することに異論はない〉(東京30日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020013002000183.html)と、一定の理解は示しつつ、基本的には懐疑的だ。

 〈経営環境の激変に伴う雇用や賃金制度の大幅な見直しは、働き手の理解をきちんと得るのが大前提だ。脱「日本型雇用」を性急に進めて、働き手に「賃上げ回避」と受け取られれば、かえって企業の競争力を損ないかねない〉(毎日24日、https://mainichi.jp/articles/20200124/ddm/005/070/038000c)、
 〈「転換」を名目に、働き手への分配や処遇を軽んじることは許されない。組合側が掲げる「底上げ」や「格差是正」と誠実に向き合うことが、企業側に求められている〉(朝日)、
 〈最優先はあくまで賃上げであり雇用問題が交渉停滞の口実にならないよう注視したい。……春闘で暮らしに直結する賃金問題を二の次にすることはあり得ない判断だ〉(東京)など、先に紹介した産経と同様、経営側の「食い逃げ」を警戒し、くぎを刺している。

 賃上げ、格差是正について、日経、産経を除く4紙は以下のように、こぞって必要を訴える。

 朝日〈過去数年の賃上げの流れを断ち切ることなく、着実に積み重ねていく必要がある。……景気回復の成果が、働き手に十分に還元されたとはいえない。……経済界首脳は年始の記者会見で、五輪後の景気については政府の経済対策もあり「反動減の心配はない」と口をそろえた。一方で、賃上げを渋るようなことがあれば、経済界の言動への信頼は損なわれるだろう〉

 毎日〈春闘は今も非正規社員を含めた賃金全体の底上げを図る重要な意義を持つ。大企業と中小企業との賃金格差是正では、経団連加盟企業が下請けに対する過度な値下げ圧力をやめることが不可欠だ〉(24日)、〈非正規や中小の労働者は、「戦後最長」とされる景気回復の恩恵をまったく実感できていない。労働者の7割は中小企業で働く。……待遇改善が進まないと、日本全体にマイナスとなる。全体の4割近くに達する非正規の待遇改善も待ったなしだ〉(毎日29日社説、https://mainichi.jp/articles/20200129/ddm/005/070/087000c)

 読売は〈消費を刺激し、日本経済を力強い成長軌道に乗せるには、賃上げの継続が欠かせない。(経団連が)賃上げの勢いを維持するため、企業に対応を促したのは評価できる。……業績が好調な企業には積極的な賃上げを期待したい。……非正規社員の処遇向上は、喫緊の課題である。……非正規社員であっても能力・業務に見合った給料で報いる姿勢が、経営側には求められる〉

 東京は〈賃上げの抑制はGDPの約六割を占める個人消費の減少に直結し、企業活動全体の停滞にもつながる。負の連鎖を避けるためにも経営側はより高い視点で、労働者側はより強い危機意識を持って交渉に臨んでほしい〉

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:2/13(木) 14:40
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