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アニメーション映画『音楽』監督・岩井澤健司×太田役・前野朋哉対談「“俺、もう人生最後の作品でもいいや”って思ったくらいです」【インタビュー前編】

2/18(火) 20:00配信

超!アニメディア

 漫画家・大橋裕之が2010年に発表し、漫画ファンのみならず、音楽ファンやバンドマンにコアな人気を博したバンド漫画『音楽』。この名作がついに今月公開される。71分にわたる本編すべてが、手描きのロトスコープ(実写映像をトレースしてアニメーションにする技法)である。総作画枚数は40,000枚を超えるこの大作を、個人制作で完成までこぎつけた監督・岩井澤健治と、太田役を務めた、自身も映画制作の経験のある名バイプレイヤー・前野朋哉に、制作の裏話と、見どころを聞いた。今回はインタビューの前編を紹介。

――まずは本作を制作することになった経緯を教えてください。

岩井澤 僕はもともと個人制作で短編のアニメーションを作っていて、作品を通じてたくさんのアニメーション作家さんと知り合い、刺激を受けてきましたが、世の中では短編アニメーションはなかなか観てもらう機会がなく、広く観てもらうためには長編にしなければならないと思うところがありました。ただ、長編に挑戦するのってかなりハードルが高いんですよね。

――そのハードルはどのように解決したのですか?

岩井澤 本作でプロデューサーの松江哲明さんは、ふだん監督業をされていて、2012年に監督された『フラッシュバックメモリーズ 3D』という実写ドキュメンタリー映画に、僕もアニメーションパートで参加していたんです。その編集作業中に松江さんに「次はどんな作品をやりたいんですか?」と聞かれた際に、長編アニメーションをやりたいのだけど、原作は『音楽』はどうかなと話をしたんです。そうしたら、松江さんがすごくのってきて「やろうやろう!」って、その場で原作者の大橋さんに電話されたんですよ。それで、その5分後には大橋さんの快諾をえて、制作が決定しました(笑)。10分ぐらいのあっという間の出来事でした。それが2012年の6月のことですね。

――長編アニメの原作に『音楽』を選ばれた理由はなんですか?

岩井澤 2010年に自主制作で、大橋裕之さんの『山』という短編漫画を原作に9分のショートアニメを作っていて、また大橋さんとやりたいなという気持ちもあったんです。『音楽』は、もちろん内容がおもしろいのもそうですが、普通のアニメの作り方では企画は通らないだろうなと思ったので、個人制作で僕自身が作るしか、この作品を長編アニメとして世に出すことはできないだろうと思っていたんです。劇場版の長編アニメは、どうしても求められているニーズから作るというイメージがあって。もう少しバラエティーに富んだ作品があってもいいんじゃないかと思っていて『音楽』のような挑戦的な作品を作る意味はあるだろうと考えていました。

――大橋さんとは制作にあたってどんな話をされましたか?

岩井澤 『音楽』というマンガは、盛り上がりそうなところで盛り上がらなかったり、ちょっと外してくる展開も結構あったり、個人的には好きなんですけど、エンタメとすると「あれ?」って思うようなちょっとひねくれた感じがあったり。もちろん、その原作の持つエンタメとアートの境目のような、ふわっとした部分が好きなんですけど。映画ではさらに間口を広げたいと思ったので、僕にとってのエンタメの部分をたしました。全体のストーリー構成とか、画のわかりやすさとか。とはいえ、ロングショットですごく長く見せたり大胆でアート寄りなことはやっているんですけど(笑)。

――最初から全編ロトスコープで考えられていたのですか?

岩井澤 最初は演奏シーン以外は考えてなかったんですけど、テスト的に動画を描いていくなかで、日常の芝居も含めて全編にわたってやる方がバランスがいいかなという結論になりました。それからロトスコープならひとりでも頑張ればなんとかなるんじゃないかと思っていたので。

――なるほど。それでは前野さんの出演の経緯は?

前野 まず、原作の大橋さんとの出会いが2012年に放送された『エアーズロック』という実写TVドラマなんです。僕が大学を卒業して上京したてのころにキャストとして呼んでもらって。そのドラマのキャラクターデザインをされていたのが大橋さんでした。イベントで大橋さんとたまたまテーブルが一緒になって、それがきっかけで大橋さんのマンガを読むようになりました。それからちょっとして、ぼくがTVドラマの演出と企画を手掛ける機会がありました。大橋さんの短編のなかに、超能力研究部の女子高生のお話があって、それをぜひ映像化したいと連絡を取ってみたんです。そうしたら大橋さんが「それ山下敦弘さんの企画も動いてるんだよね」って言われて。山下敦弘監督というのは映画『リンダ リンダ リンダ』や、TVドラマ『深夜食堂』シリーズを手掛けた、僕の大学の大先輩。僕らの世代からしたらレジェンドなんですよ! で、おそるおそる山下さんに「ぼくも大橋さんの原作でやりたいんですけど……」って連絡したら「まだ脚本まではできてない状況だから、前野君は前野君でやったらいいよ」と言ってくれて。おかげで2014年の2月に、念願の大橋さん原作の『ねんりき! 北石器山高校超能力研究部』という実写ドラマ作品を完成させることができました。そのときに大橋さんと密に作品作りについて話ができて、非常に楽しかったです。
(編集部注:山下監督もその後2014年12月に『超能力研究会の3人』というタイトルで実写映画を公開)

――そういうなれそめがあったんですね。

前野 それからしばらくたった2019年の1~2月に、大橋さんから連絡がありました。「『音楽』の声優、どうかな?」って。『音楽』が制作中だってことは知ってたんですけど、まさかそれに出られるとは思っていませんでした。「まじすか!?」って興奮しちゃって「俺、もう人生最後の作品でもいいや」って思ったくらいです。「絶対やります!」って震えながらオファーを受けました。

――7年にもわたる制作をふりかえってみてどうですか?

岩井澤 スタートは2012年の6月で、そこからシナリオはなしで、いきなりコンテを切り始めました。その年の末ごろにコンテが上がって、それを大橋さんやプロデューサーに見せてやり取りをしつつ、次はテストシーンに手を付けていきました。ロトスコープで描きながら、全体的にどんな動きになるか考えながら、さぐりさぐりテストを重ねました。ロトスコープって、世間的には実写をそのままなぞるっていうイメージがあると思うのですが、『音楽』では、少しデフォルメを加えて、映像から動きを抽出して、キャラクターに置き換えるイメージで進めました。試してみると「この感じでいけるな」って手ごたえはありました。

後編へ続く

PROFILE
【いわいさわ・けんじ】
 実写映画の現場から映像制作を始め、アニメーション制作も行っている。手がけた主な作品はアニメーション作品『福来町、トンネル路地の男』ほか。

【まえの・ともや】
 1月14日生まれ。岡山県出身。ブレス・チャベス所属。主な出演作はTVドラマ『時効警察はじめました』安田社長役、『バンドリ!ガールズバンドパーティ!』CMほか。俳優と並行して映画監督としても活動。

【作品情報】
アニメーション映画『音楽』
全国劇場で公開中

(C)大橋裕之/ロックンロール・マウンテン/Tip Top

高橋健太

最終更新:2/18(火) 20:00
超!アニメディア

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