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【書評】父の子殺し、子の父殺し。私が演じるのは果たして 『赤い髪の女』

2/20(木) 12:45配信

婦人公論.jp

◆ノーベル賞作家の最新長編は

〈あなたがたも私と同じように父と子の神秘に魅了されるだろう〉。そんな印象的な言葉で語り起こされる、ノーベル賞作家の最新長編。

全体は3部構成だ。第1部では1986年に起きた出来事を語り手の〈私〉が回想する。当時高校生だった〈私〉はイスタンブル郊外の「高台の土地」で、繊維工場の井戸を掘る仕事を手伝った。ある日、高台下にある街で出会った移動劇団の女に強く魅せられ、やがて関係をもつ。その翌日に不注意が原因で起こした事故で、井戸掘りの親方を見殺しにしたのではないかと〈私〉は思い悩む。

第2部では成人後に建設業者となった〈私〉が、イスタンブルの市街地に飲み込まれた高台を開発するため、この地を運命的に再訪する。第3部では女自身が語り手となり、〈私〉をめぐる真実が明かされる。

この物語の主題として冒頭で告げられる〈父と子の神秘〉は、二つの側面から語られる。一つは西洋を象徴するオイディプスの神話、もう一つはトルコの民族的伝統を象徴する、父ロスタムと息子ソフラーブの神話だ。

よく似た構造をもちながらも前者では子が父を、後者では父が子を殺す。〈私〉は果たして、そのどちらの役を演じることになるのか。(〈私〉が営む建設会社の名は「ソフラーブ」である)

代表作『雪』など他の作品にもみられる演劇的な要素が、本作ではいっそう重要な意味をもつ。西洋と東洋の文化が混淆するこの地で、近代国家をつくりあげたトルコ。その国を代表する作家ならではの問いに対して、父でも子でもなく、その妻であり母でもある「赤い髪の女」が答えるところに本作の妙味がある。

パムク文学への入り口としてお薦めしたい一冊。

『赤い髪の女』
著◎オルハン・パムク
訳◎宮下 遼
早川書房 2300円

仲俣暁生

最終更新:2/20(木) 12:45
婦人公論.jp

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