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『ミッドサマー』恐怖から“共感”への悪魔的誘導――自我を消し去るラブストーリー

2/22(土) 7:02配信

CINEMORE

「わかりやすさ」が傑出した長編第2作

恐るべき映画だ。観るだけで自我が乗っ取られる。
周到に仕掛けられた共感の“餌”……そして、蠱惑。
あろうことか、救われてしまった。

 2018年、無名の映画監督が世界に衝撃を与えた。その名は、アリ・アスター。1986年生まれの若き監督は、『ムーンライト』(16)、『レディ・バード』(17)の製作・配給を手掛けた「A24」に見初められ、初の長編商業映画『へレディタリー/継承』(18)をリリースした。

 この映画はサンダンス映画祭でお披露目されると批評家から絶賛を浴び、全米公開時には、週末興行収入4位でデビュー。ホラー映画の新たな傑作として人々の脳裏に刻まれた。今や、『イット・フォローズ』(14)、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)、『ゲット・アウト』(17)など近年のホラーテイストの名作リストに、必ずと言っていいほどランクインする人気ぶりだ。

 誰もが新作を待ち望む中で、アリ監督がA24と再び組んだ長編第2作。『ミッドサマー』(19)は、あの『へレディタリー/継承』を凌駕する“進化”と“深化”が同居した一作となった。率直に言って、「たった1作でここまでレベルが上がるものなのか?」ともはや畏敬の念を抱かずにはいられない。

 設定の段階で、既に「わかりやすさ」という新たな武器が見られる。本作のストーリーは、「スウェーデンの辺境にあるコミュニティを訪れた大学生たちが、とんでもない目にあう」……ただそれだけ。食人族との遭遇を描く『グリーン・インフェルノ』(13)や、ネオナチの巣窟を舞台にした『グリーンルーム』(15)など、“異文化交流”はホラー/スリラー映画において王道の題材。奇をてらうことないチョイスに、どっしりとした安定感が見て取れる。

 さらに今回は、後ほど詳しく考察するが――ホラーではなくラブストーリーなのだ。前作の『へレディタリー/継承』は、ファーストカットから伏線が仕掛けられた知的なホラーであり、“悪魔崇拝”やオカルトの知識をやや必要とするリテラシー高めの映画だった。今回はその“ハードルの高さ”が取っ払われ、倦怠期のカップルがたどる運命を、観客自身がゼロベースで楽しめる。前作が“知識”を要する映画だったとすれば、本作は恋愛という“経験”とともに味わう映画だ。明確にターゲットが拡げられている。

 そしてここもまた後述するが、画面構成も前作と真逆。何と言っても、今回は明るくカラフル。従来の“怖い”映画はやはり「闇」を効果的に使うものが多かったが、本作では白夜の国が舞台のため、徹底して明るい。すべてが白日の下にさらされたまま、恐るべきことが起こるという「隠さない」恐怖。これも非常に斬新で、同時に入り込みやすい進化点だ。

 作品の中で「ジャンル」がグラデーションを見せていくという構造も、実に秀逸。『ミッドサマー』はサスペンス、ミステリー、ホラー、スリラー、コメディ、ラブストーリーと次々に姿を変え、観客を画面にくぎ付けにし続ける。

 ここで断っておきたいのは、本作は決して「ジャンルレス」な映画ではないということ。それぞれのジャンルの特長をしっかりと出しつつも、独自のカラーリングで魅せる。本作を年間ベストの1本に挙げるポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(19)にも通じる、極めて現代的なフュージョン・ムービーなのだ。

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最終更新:2/22(土) 7:02
CINEMORE

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