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アイルランド総選挙 過激派組織が大勝した理由

2/25(火) 18:03配信

ニュースソクラ

IRAの政治部門、シンフェイン党が躍進

 アイルランドでは4年ぶりの総選挙があり、下院(定数160)において過激組織IRA(アイルランド革命軍)の政治部門であるシンフェイン党が躍進した。

 四半世紀以上前にロンドンで勤務していたころはIRAが爆破したビルがそのまま残っていて、IRAの怖さを実感したものだ。

 まず選挙結果を簡単に見ていくと、バラッカー首相率いる統一アイルランド党が12議席減らして35議席で第三党に転落、野党で9年ぶりの政権奪還を狙った共和党も8議席減らして38議席ながら第一党となった。

 シンフェイン党は一挙に15議席増やして37議席で第二党になった。

 シンフェイン党の得票率は25%でトップであったが、42人しか立候補しておらず、もし大量立候補していれば第一党に躍進していたはずだ。アイルランドでもフランスやドイツと同じく中道の二大政党による政権交代という伝統が崩れたと言えよう。

 いずれにしても連立政権の組成に数か月の時間を要するとみられており、連立工作が失敗すれば再選挙の実施もあり得る。

 当然のことながら共和党もアイルランド統一党も、過激なIRAの政治組織であるシンフェイン党との連立には尻込みしている。シンフェイン党も今回躍進した緑の党(グリーン)や労働党との連立工作に走っている。

 しかし、25%の得票率を得て、第一党になりえたシンフェイン党を除いた形での連立政権は、民意を反映していないと言える。

 そもそも、なぜシンフェイン党が躍進したのかを探ってみたい。

 党首であるマクドナルド女史は有名なジェリー・アダムスの後継者として早くから目を付けられていた。リーダーシップに富む彼女の存在も大きい。

 それと注目されるのは年齢別支持率だ。35歳以下では1/3がシンフェインを支持する一方で、IRAの過激な暴力行使の歴史をよく知っている65歳以上では12%しか支持されていない。

 アイルランド自体は昨年も6%近い実質成長を遂げて、EUになかで最高の成長を遂げた。しかし、今回の総選挙の出口調査では63%の人が経済成長の恩恵を感じていないと答えている。

 特に住宅問題は深刻である。アイルランド中銀の調査によれば2011年から2019年までの間で平均所得が14%しか伸びていない中で家賃は40%も高騰している。この間の新規住宅建設も人口7人の増加に対して1軒しか増えていない。

 シンフェイン党は財政緊縮を方向転換して、公共住宅の大幅な供給増、家賃の凍結、銀行に対する住宅ローン金利の抑制指導強化などを公約として掲げた。

 これにより銀行、不動産株が急落した一方で、憤懣やるかたない若者はシンフェイン党のスローガンに共鳴した。これが、シンフェイン党の躍進をもたらした最大の要因だ。

 アイルランドは1990年代から「ケルト民族の虎」と呼ばれた高度成長期を迎えた。筆者も90年代央に大蔵省や中央銀行を訪ねて法人税率を40%から10%へと引き下げて外資の流入を図ったことや、ハイテク・IT分野の育成を図ったことが高成長につながっているとの説明を受けた。

 しかし、実際には民間銀行の不動産向けなどの過大な貸出で浮かれていた側面も大きい。確か和平が成立してベルファストの不動産価格が前年に比べて4割も高騰して欧州一の上昇率となったのもその証である。

 その反動で2009年の世界的な金融危機では、アイルランドは一転して金融システムの瓦解寸前まで追い詰められた。銀行を救済するため、財政から多額の公的資金注入を余儀なくされた。

 その赤字財政を立て直すため、緊縮財政を続けて公的住宅の建設や医療・教育分野、公共輸送システムなどに資金が回らず、大衆の怒りを買った。

 今回のアイルランドの総選挙は「金融危機のコストを納税者に負わせ続けてきた」との国民の反発が依然として強い中で、大衆迎合的な公約を繰り返すシンフェイン党に票が集まったというわけだ。しかし、シンフェイン党が政権を取ってもバラマキ公約を実際に行うのは困難であろう。

バラッカー首相は、ブレクシットに関しては、アイルランドの国益擁護に懸命に尽くし、EU当局からも信頼が厚い。バラッカー首相は選挙戦を通じてブレクシット問題を争点として強調してきたものの、一般の関心は低く、総選挙の出口調査ではブレクシットが重要と答えたのは僅か1%に過ぎなかった。

 過激組織IRAに対する疑念一方で1998年のベルファスト合意以降、ほぼ20年以上も平和な生活が続き、IRAの暴力に対する懸念も薄らいでいる。

 たしかにアルスター6州のプロテスタントや英国に対する憎悪でIRAが血なまぐさい歴史をたどってきたのは動かせない事実だ。しかし、シンフェイン党が急拡大したとはいえ、武装解除したIRAがそれを梃子に武力闘争でアイルランドの統一を図るようなことは考えにくい。

 ただシンフェイン党はナショナリスト(南北アイルランドの統一)の代表格であり、マクドナルド党首も住民投票で統一の是非を問うように主張している。

 もともと、人口動態から見て北アイルランドの6州でもナショナリストがユニオリスト(プロテスタントで英国との関係を重視)を近々上回るという予測もある。英国のもっとも古い植民地であったアイルランドも、いずれ英国から離れてEUとの関係を重視する方向に向かうような事態もありえよう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:2/25(火) 18:03
ニュースソクラ

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