ここから本文です

リーグ戦初導入のVAR、開幕節から3度活躍。“日本独自”仕様には混乱も…?

2/25(火) 19:00配信

ゲキサカ

 J1リーグでは2020年シーズンから、映像を見ながら判定に助言する『ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)』の運用がスタートした。21~23日に行われた開幕節では、すでに3回の「介入」が発生。試合結果に関わる誤審を未然に防ぐ活躍を果たした一方で、混乱につながりかねない日本独自の仕様も浮き彫りとなった。

 2月21日に行われたJ1開幕節・湘南ベルマーレ対浦和レッズの後半25分すぎ、Jリーグ史上初の光景を前に、Shonan BMWスタジアム平塚の観衆はざわめいた。場内の大型ビジョンに映し出されていたのは、浦和のDF鈴木大輔がボールを右手で掻いたシーン。「手や腕を用いて意図的にボールに触れる」に該当するため、本来ならば「ハンド」と呼ばれるファウルだ。

 佐藤隆治主審は当初、ファウルの判定を行わずに試合を流した。しかし、このような「はっきりとした、明白な間違い」「見逃された重大な事象」に目を光らせるのがVAR。すぐさま別室の専用ルームから審判団に情報が共有され、佐藤主審はピッチ脇モニターで確認する「オン・フィールド・レビュー」を実施。その結果、判定が覆って鈴木のファウルが認められ、湘南にPKが与えられた。

 上記のざわめきは、この「オン・フィールド・レビュー」の最中に巻き起こった。佐藤主審が確認している映像は、場内の大型ビジョンにも同時に映し出されていたためだ。数々の国際試合や各国リーグ戦でもVARが導入中だが、リアルタイムで流されるのは異例のこと。いわば「日本独自」の運用となっている。

 場内にリアルタイム映像が共有されることにより、VAR導入における懸念の一つであった「観客の置き去り感」は払拭できる。どのような反則があったかはビジョンで一目瞭然のため、判定が覆ったとしても「なぜか」を理解しやすいからだ。また、重大な判定の行く末をみんなで見つめるというエンターテインメント性もある。

 そうしたメリットの一方、審判団や選手への悪影響というデメリットがある。観客と同様に選手・スタッフもモニターで当該場面を見ることができ、彼らにも観衆のザワザワ感がダイレクトに伝わるからだ。心理的な影響がどれほどあったかは定かでないが、湘南対浦和戦ではキッカーのFWタリクがPKをクロスバーに当ててしまい、湘南は得点の大チャンスを逃していた。

 イギリス『ESPN』によると、プレミアリーグではVARの介入により与えられたPKの得点率が主審によって与えられたPKに比べて著しく低い(それぞれ53.8%、81.2%)というデータがある。アンフィールド(リバプール)やオールド・トラッフォード(マンチェスター・U)など場内ビジョンを持たないスタジアムもあるため、スタジアムに映像を流すという運用は一部では行われていない。それでもVARがもたらす独特のムードが影響を及ぼしているということだ。

 そうした混乱を避けるためか、国際試合や各国リーグ戦では、VARによる映像をリアルタイムで流すのはテレビ放送に限定し、スタジアム向けには「判定の結論が出てから場内ビジョンに流す」という運用が一般的だ。またVARの介入でPKが与えられた場合は、PKが行われたのちに、PKのリプレーと同じタイミングで流している例もある。こうしたやり方であれば、場内映像のメリットを損なうことなく、リアルタイムのデメリットを解決することができそうだ。

 また日本独自の運用では、そもそも全ての事例で場内ビジョンに映像が流されるわけではない。VARの助言のみによって当該場面の再確認を行う「VARオンリー・レビュー」がその例外だ。ラインの内外、オフサイド、カード対象など、客観的事実が誤っていた場合に行う手続きで、主審はモニター確認を行わずに判定を覆すことができる。

 J1開幕節ではオン・フィールド・レビューが1回だったのに対し、VARオンリー・レビューは2回行われた。22日の川崎フロンターレ対サガン鳥栖戦ではFWレアンドロ・ダミアン(川崎F)のゴールがオフサイドで取り消され、22日の横浜F・マリノス対ガンバ大阪戦では反対にオフサイドとされていたMF矢島慎也のゴールが認定された。

 これら2つの事例では、いずれもスタジアム内に当該場面の映像が流れることはなく、レビュー中を示す画像が表示されるのみだった。映像の再確認はVARルーム内でのみ行われるため、「主審と同じ映像を流す」という手続きが発生しないためだとみられる。しかしこの運用では、観客が判定の流れを把握できないというデメリットが生じる。筆者が取材した横浜FM対G大阪の一戦でも、ゴールが認められた瞬間のムードはやや控え目なものだった。

 こうした問題を解決するためにも「判定の結論が出てから場内ビジョンに映像を流す」という他国リーグの運用に従うのが有効になりそうだ。オン・フィールド・レビューも同様の運用に統一すれば、共通の手続きでピッチ内の混乱を一定程度防止でき、観客にも情報を提供することが可能になる。

 昨季のルヴァン杯、J1参入プレーオフでのテスト導入を経て、いよいよ本格的に到来した“VAR時代”。開幕節では大きな混乱も見られず、国際サッカー評議会(IFAB)が適性頻度とする「3試合に1回」基準も満たしたJリーグだが、さまざまな場面で質の向上が進んでいくことにも期待したい。

【VARの助言で判定が覆った例/J1第1節】

①2月21日 湘南対浦和(PKに関わる判定)
 後半25分、ドリブル突破をしかけたMF石原広教(湘南)をDF鈴木大輔(浦和)がゴールライン際で止めるも、鈴木はピッチ外に出そうなボールを「手で掻き入れる」ような形で処理。主審はファウルを取らずに試合を流したが、プレーが切れた際にVARの助言を聞き、オン・フィールド・レビューを経て、湘南にPKを与えた。

②2月22日 川崎F対鳥栖(得点に関わる判定)
 後半4分、MF家長昭博(川崎F)のシュートがDF宮大樹(鳥栖)にブロックされるも、このボールにFWレアンドロ・ダミアン(川崎F)が反応し、右足でゴールに押し込んだ。担当副審は当初、オフサイドフラッグを上げなかったが、ビデオ確認の末に家長のシュート時点でL・ダミアンがオフサイドポジションにいたことが分かり、VARオンリーレビューでゴールが取り消された。

③2月23日 横浜FM対G大阪(得点に関わる判定)
 前半34分、GK東口順昭(G大阪)のロングキックが左サイド裏に通り、MF倉田秋が突破。折り返しを受けたMF矢島慎也がゴールに流し込んだが、担当副審はオフサイドフラッグを上げた。ビデオを確認すると、G大阪の複数選手がオフサイドポジションにいたが、抜け出した倉田はオンサイド。VARオンリーレビューでゴールが認められた。

最終更新:2/25(火) 19:00
ゲキサカ

こんな記事も読まれています

スポーツナビ サッカー情報

海外サッカー 日本人選手出場試合

あなたにおすすめの記事