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【日本アカデミー賞新人俳優賞】森崎ウィン&鈴鹿央士、映画の力を信じる『蜜蜂と遠雷』で羽ばたく!

3/4(水) 16:01配信

エムオンプレス

映像化不可能と言われながら実写化に至った作品はいくつかあるが、2019年10月に公開された『蜜蜂と遠雷』も、まさにそうした映画である。

【写真】映画『蜜蜂と遠雷』出演の森崎ウィン&鈴鹿央士

原作は、史上初の直木賞&本屋大賞W受賞を成し遂げた、人気作家・恩田 陸による傑作小説。若手ピアニストの登竜門とされる国際ピアノコンクールを舞台に、ヒロインの亜夜を中心に、4人のピアニストたちの葛藤と成長を描いて、“音楽の素晴らしさ”を文学で表現してみせた。その原作を、石川慶監督が映画的なアプローチで再構築し、今度は映像で“音楽の喜び”を謳ってみせた。

長編映画デビュー作となった、妻夫木 聡、満島ひかり主演の『愚行録』(17)で非凡な才能を発揮した石川監督は、ポーランドで映画作りを学んだ。『愚行録』では撮影にポーランド人のピオトル・ニエミイスキを迎え、これまでの日本映画にない肌触りを感じさせる映像で引き込んだ。再びピオトルと組んだ『蜜蜂と遠雷』もまた、いわゆる昨今の日本映画とは全く異なる表情を持った映画として観る者を魅了する。

ピアニストの演奏そのもので物語を綴っていく本作。こうした作品は、主人公の亜矢(松岡茉優)の語りで進められるのが通常だが、本作は違う。登場人物たちの性格、心情やその変化を、言葉ではなく、演奏そのものと、役者の芝居に担わせる。過剰な説明に支配されがちな今の映画に真正面から挑む演出に驚かされる。石川監督は、「映画の力」を信じ、「観客の力」を信じているのだ。そして絶対的に必要だったのが「俳優の力」である。主演の松岡、明石を演じた松岡桃李の上手さが全体を支えたことは間違いないが、今年度の「日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞している森崎ウィンと鈴鹿央士が彼らと並び立ったからこそ、この挑戦は成功した。

1990年ミャンマー生まれの歌手、俳優の森崎ウィンの名前を一気に広めたのは、2018年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』。世界のスピルバーグ作品で、主要キャストのダイトウに抜擢され、完璧な英語力で堂々たるハリウッドデビューを果たした。『蜜蜂と遠雷』では、名門ジュリアード音楽院に在学中で、「ジュリアード王子」と呼ばれるマサル役。本コンサートの大本命として「完璧な演奏」を武器に挑む役柄だ。

本作は演者たちが猛特訓したピアノ演奏シーンも見ものだが(実際の音はプロによるもの)、「ジュリアード王子」として、森崎は見事な説得力を伴って立った。そしてエリートだからこその苦しみを覗かせて心を揺さぶる。二次審査の課題曲「春と修羅」の後半に待つカデンツァ(即興演奏)では恩師と作曲した技巧を駆使した演奏を披露するが、そこにマサル自身の持つ情熱をにじませ、そのことで、恩師からは「余計なことをするな」と注意を受けてしまう。マサルの中に生まれる葛藤を森崎はふとした体のこわばりや、表情の変化で感じさせていく。そしてオーケストラとともに演奏するスタイルの本選リハーサルで、マサルはオーケストラと息を合わすことができず、フラストレーションを爆発させてしまう。その後の亜矢とのシーンがいい。マサルは「観客が今のポップスを聴くように楽しめる“新しいクラシック”を作り上げていくコンポーザー・ピアニストになりたい」という夢を語り、自らの音を見出していく。さらに上を目指そうとする者の苦悩を、森崎は眩しく体現してみせた。

森崎は『レディ・プレイヤー1』と同年公開の『母さんがどんなに僕を嫌いでも』で、主人公の親友で少し間違えれば嫌味なキャラクターになりかねないキミツを、また先ごろ公開された大ヒットミュージカルの映画化『キャッツ』の日本語吹き替え版で、殻を打ち破る、心優しいマジック猫のミストフェリーズを好演するなど、ポテンシャルの高さを見せている。マサルと同様、さらなる高みへとジャンプアップしていくに違いない。

そしてもうひとり、『蜜蜂と遠雷』で驚きのパフォーマンスでインパクトを残したのが、鈴鹿央士だ。2000年生まれ、岡山県出身の鈴鹿は、高校2年生の秋に『先生!、、、好きになってもいいですか?』のロケ先として使われていた母校で、女優・広瀬すずの目に留まり、スカウトされた。これをきっかけに、18年の上京とともに事務所に所属。MEN’S NON-NO 専属モデルオーディションでグランプリに輝き、今作で映画デビューを果たした。演じたのは謎の少年・風間塵。ピアノの神様と称される偉大な音楽家の故ホフマンが、「ギフトにも、災厄にもなる」とコンクールへ送り出した才能である。塵が凡庸に映れば、それこそ本作は終わりだ。鈴鹿は、この重圧を微塵も感じさせず、塵がただひたすら純粋な喜びとともにピアノに向かうがごとく、キラキラした瞳でスクリーン中を跳ねてみせる。

なかでも印象に残るのが亜矢との連弾シーンだ。ピアノの置かれた小さな工房で、ドビュッシーの「月の光」を引き始める塵。導かれた亜矢が加わる。連弾はハロルド・アーレン「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」のジャズのリズムへと変わり、やがてベートーヴェンのピアノソナタ「月光」へと流れていく。青い光に包まれ、夢の中の出来事のように美しく、幻想的なシーン。若手演技派の松岡とのガチンコシーンで一歩も引かないどころか、鈴鹿は空間を喜びで包んだ。

塵の音楽への純粋な愛を、表面的にではなく、内面から溢れさせた鈴鹿。物語のトリックスターを、愛らしさを携えながら、初の演技でやってのけたのだ。もちろんピアノも初挑戦である。本編が終わり、クレジットが流れる際、鈴鹿の名前には「(新人)」という表記が足されている。これも、製作側の自信の表れであり、演出のひとつとして機能している。本作出演後も、鈴鹿は、映画『決算!忠臣蔵』、連続テレビ小説『なつぞら』、ドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』と順調にキャリアを重ねているが、まだまだ真っ白なキャンパスでもある。塵は、輝く原石としての鈴鹿央士そのもののオーラが助けにやった役であることは間違いない。とはいえ途方もない才能を感じさせることは証明済みであり、その可能性は無限大だ。

音楽映画に真っ向から勝負した石川監督の挑戦に、伸びやかに応えてみせた若き俳優、森崎ウィンと鈴鹿央士。本作を称えるとともに、これからの彼らの期待が待ち遠しい。

なお、『蜜蜂と遠雷』は「第43回 日本アカデミー賞」優秀作品賞、優秀主演女優賞(松岡茉優)、優秀音楽賞、優秀撮影賞、優秀照明賞、優秀録音賞を受賞。まさに“お墨付き”のおすすめ映画となっている。

文 / 望月ふみ

(c)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

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最終更新:3/4(水) 16:01
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