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【尊厳ある介護】高齢者の恋愛の行方

3/5(木) 12:12配信

ニュースソクラ

生きがいに通じる恋愛なのに、子供たちが反対する例も

 施設見学時のことです。

 「男性と2人でこの部屋に入所してもよろしいでしょうか」と、元井梅子さん(仮名72歳)は、お尋ねになりました。相談員は「こちらの部屋は1人部屋なので、2人で入所することはできません」と、お断りしました。

 希望は叶いませんでしたが、それでも元井さんは1人で施設に入所されました。

 元井さんは若くに夫を亡くされ、苦労して立派にお子さんを育てましたが、お母さんを訪ねて施設に来ることはありませんでした。全ての面で自立している元井さんは、それによって施設での生活に支障が出ることはありませんでした。

 いつもはお子さんのことについて触れることはありませんでしたが、ふとした時「私は子どもたちにとって良い母親ではありませんでした。恥の多い人生でしたから」と、珍しく胸の内を明かされたことがありました。

 ですが、表面的には施設のクラブ活動にも積極的に参加され、周りの入居者と距離を取りながら、マイペースに暮らしていました。

 ある日、「明日の朝には帰りますから」と言って、赤いルージュを引いた元井さんが外泊届けを提出されました。そして、高齢の男性が運転する車に乗ってお出かけになりました。

 その後、定期的に外泊されるようになりましたが、突然そんな姿を見かけなくなったのです。それからは無口になって表情がなくなりました。動作も緩慢になり、身なりもかまわなくなって外出も減りました。

 ご家族との交流のない元井さんにとって、男性は孤独を忘れさせてくれる心の拠り所だったのでしようか。時間が経過しても、以前のような元井さんに戻ることはありませんでした。

 このように、女性だけが異性との交際で、心身に影響を受けるわけではありません。

 海田富士夫さん(仮名84歳)は、妻を亡くされてから物忘れをするようになり、興奮してご家族に辛くあたるようになりました。そこで、気分転換を図るためデイサービスを利用することになりました。

 そして、やはり夫と死別した遠山久美子さん(仮名79歳)と知り合いました。お2人はお互い伴侶をなくした淋しさもあって、デイサービス以外の日も外で会うようになったのです。
 
 海田さんは足の弱っている遠山さんの手をつないでリードし、散歩をするのが日課となりました。

 私たちはそんなお2人を微笑ましく思っていました。なぜなら、海田さんは前向きな発言が増え、穏やかになったからです。遠山さんも不安感が減り、笑顔が増えました。

 ところが、ご家族はお2人の交際に反対したのです。世間体からでしょうか。それとも、資産家だったからでしょうか。いつしか、お2人の手をつないで歩く姿を見ることはなくなりました。

 ほどなくして、海田さんが逝去されたことを知りました。異性の存在は若者だけではなく、高齢者にも大きな影響を与えます。実は、異性を好きになってドキドキすることは、脳を活性化し認知症予防や緩和につながることがあります。

 しかしながら、家族の反対、病気やケガ、突然の離別もあるので、高齢者が恋愛を成就するのは稀有です。むしろ、そんなストレスから認知症を発症するリスクさえあるのです。
  
 それでも、異性を愛することを誰も止めることはできません。高齢者は若い人と違って残された時間がないのです。死を身近に感じるからこそ、その恐怖や淋しさを埋めようとして、最期の力を振り絞って誰かを愛するのかもしれません。たとえ、それが刹那的に終わると知っていても。

 だからこそ、そっと見守って欲しいのです。

 人生100年時代、高齢者の恋愛が当たり前になる時は、もうそこまで来ているのかもしれません。

(注) 事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。

■里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「

最終更新:3/5(木) 12:12
ニュースソクラ

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