新型コロナウイルスで、安倍政権の対応が大きな議論を呼んでいる。
政府が新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を発表した翌日以降、安倍晋三首相が基本方針の内容を超える「大規模イベン自粛要請」、さらに全国小中高校の「一斉休校」を求めるというドタバタ対応を連発、国民への説明不足も批判されている。
新聞の論調も、批判が渦巻いている。
中国を起点とした新型ウイルス感染の大波が日本に押し寄せ、水際対策は失敗して国内感染はジワジワ広がり、また英国籍クルーズ船の船内待機では乗客・乗員の5人に1人(3700人中700人)が感染した。
政府は感染拡大を抑制すべく、2月25日に対策の基本方針を決定。
・風邪のような症状でも軽症なら外出を自粛し医療機関を受診しない
・パーティーや飲み会など感染しやすい環境に身を置くことを避ける
・特定の人から多くの人に感染したと疑われるクラスターが確認された関連施設の休業やイベント自粛
・症状がある人の休暇の推奨、時差通勤やテレワーク推進
――などを国民や企業に求めるとし、患者数が大幅に増えた場合は一般の医療機関でも患者を受け入れ、指定医療機関は重症者に優先的に対応することとした。
のちに大問題になる学校の休校については「臨時休校等の適切な実施に関して都道府県等から設置者等に要請する」と、自治体の判断に任せていた。
初動対応の遅れやクルーズ船での大量感染について政府の不手際という批判がジワジワ広がる一方、社会全体が協力して感染を抑えるのは当然、というのが世間の共通認識とはいえ、どこまで我慢すべきかの線引きがあいまいで、イベントの自粛をやんわり求める程度だった基本方針には、もっと踏み込むべきだとの立場からの政府への批判もあった。
そうした、もやもやした雰囲気の中で、突然、嵐が吹き始めた。
26日昼過ぎの対策本部の会議で、安倍首相が大規模なスポーツ・文化イベントの今後2週間自粛を突如要請すると発言し、前日の基本方針を変更したのだ。
当日夕の人気グループ「EXILE」「Perfume」のコンサートが急遽中止になり、Jリーグなどの試合中止、プロ野球オープン戦の無観客試合などが続々と決まり、社会全体が騒然する状況になった。
さらに衝撃だったのは翌27日夕方の対策本部会議で、安倍首相が全国すべての小中高校と特別支援学校に、3月2日から春休みに入るまで臨時休校するよう要請するとぶち上げたこと。
小学校低学年などの子ともを持つ共働き世帯やひとり親世帯では、親が仕事を休まなければならなくなるといった副作用が極めて大きいだけに、各方面から批判が噴出した。
文科省は28日に都道府県教委に対して休校を求める通知を出し、政府は休校に伴う休業への補助などを打ち出している。
ただ、休校については「柔軟な対応をしていきたい」(萩生田光一文科相)と、地方の判断を尊重する姿勢も示し、「一斉」の前言を翻すかのような混乱ぶり。
この時点で北海道や千葉県市川市は自主的に休校を実施済みで、逆に2日から休校しない自治体も一部にあり、政府の指示に従った自治体からも不満、批判が噴出した。
26、27日の安部首相の指示は、独断だったとされ、「頭撮り」と言われるテレビカメラも入った会議の冒頭取材で一方的にしゃべるだけで、国民に説明する場を設けていないことを含め、国民への丁寧な説明、直接の説明を求める声がマスコミで噴出するに及び、29日午後6時から、やっと首相の記者会見が開かれた。新型ウイルス問題が発生してから初めてのこと。
だが、これも原稿通りにほぼ一方的にしゃべり、数少ない記者の質問にも正面から答えず、「まだ質問があります」と声を上げるジャーナリストらを振り切り、わずか35分余りで会見を打ち切り、批判の火に油を注いだ。
新聞各紙は連日、大きな紙面を割いて報じ、社説でも、毎日のように取り上げている。特に、25日の基本方針決定から29日の首相記者会見まで、連日、紙面もヒートアップした。
「これから1、2週間が急速な拡大か収束かの瀬戸際」という政府の専門家会議の指摘を受けた安倍首相の「政治決断」が社会に緊張感を走らせるとともに、唐突さ・説明不足で安倍政権批判も一気に高まり、紙面も一段と「躍動」している。
ポイントを振り返ってみよう。
▼26日――イベント自粛要請
基本方針決定の紙面はまだ比較的粛々とした報道だったが、前日の方針を覆す26日の「イベント自粛要請」を受けた27日朝刊は、批判の色合いが強まる。
朝日が〈異例の要請は、日増しに高まる政府批判を意識したとみられるが、場当たり的な対応として野党は追及を強める〉(27日朝刊2面「時々刻々」)と書き、毎日も政治面(5面)3段相当の見出しで「政府一転 自粛呼びかけ/後手批判に危機感」として、〈感染が拡大する中で政府対応への「後手後手」との批判が出始めたことを意識し、一転して政治主導で判断したようだ〉と解説。
日経は1面記事で〈自粛ムードが広がり、経済活動の停滞懸念が強まっている〉と、経済紙らしい懸念に触れた。このほか、各紙は社会面で、イベント中止に困惑し、がっかりする人を取り上げるなどした。
ただ、この時点では、イベントの一定の自粛はやむを得ないという空気が勝り、朝令暮改への違和感中心の報道といえる状況だった。
▼27日――一斉休校要請
空気が激変したのが一斉休校だ。首相の表明が27日の夕方と遅かったこともあって、唐突感は前日より強く、首相の独断専行、これまでの政府の対応への批判が噴出することになった。各紙、28日朝刊1面トップ、2、3面、社会面まで大々的に紙面展開したのは言うまでもない。
大ニュースでは、1面の「本記」に解説記事を並べ、問題点を指摘するのが新聞ではよくある報道手法。
日ごろ安倍政権支持の論調が目立つ読売は、1面本記の腹に抱えるように「拡大阻止へ異例の決断」との3段見出しで政治部記者の解説記事を載せたが、〈イベント自粛要請に続く新たな一手だ。ただ、……ドタバタ感は否めない。政府の対策は後手に回っているとの批判が強まっており、挽回したいとの思惑も見え隠れする〉と、珍しくきつい書きぶり。
3面「スキャナー」でも「『後手』批判 首相踏み込む」の見出しで、一斉休校に至る経緯を書く中で〈突然の方針転換に、専門家会議のメンバーからは「事前に相談はなかった」「感染者がいない地域でやっても効果があるのか疑問だ」と困惑の声が上がっている〉などと珍しく否定的な声ばかり並べた。
朝日は1面本記脇に「視点」を置き、医療担当記者が〈子を抱えながら働く親はどうすればいいのか。子育て中の医療者が休み、ドミノ倒しで職場に影響すれば、ぎりぎりで踏ん張る医療体制が崩壊しかねない〉〈思い切った政策が必要なのは理解できる。……だが、強力な政策は副作用も大きい。納得のいく丁寧な説明が欠かせない〉と指摘した。
毎日は1面本記の中で〈(後手批判を受け)政府として拡大防止に向けた「強い意志」を示す狙いもあるとみられる〉と書いた。
その他の関連記事も、各紙、厳しい。
安倍政権支持の産経までも、3面で「異例の決断/感染封じ込め 『過剰』批判も」と、批判意見もきっちり書き込み、北海道の小中学校の休校で多くの看護師が子の面倒を見るために出勤できず一部休診になった病院のケースを囲み記事で紹介、社会面でも「子供が心配 『仕事休むしか』」と横凸版見出しを張った。
このほか、翌29日を含め、各紙社会面などの主な見出しを拾うと、「突然の『休校』混乱/試験は 入試は 卒業式は」(朝日28日社会面)、「保護者『仕事休めず』年度末 教諭ら対応苦慮」(東京同)、「急な休校 大混乱」(日経29日社会面)といった具合。
29日朝刊ではそれぞれ、首相の方針転換の経緯を検証。首相側近といわれる萩生田文科相の反対を押し切ったとして、毎日は〈首相サイドが首相の指導力を強調する「強いメッセージ」にこだわ〉ったと書き、朝日は、今井尚哉首相補佐官の進言を重く見て決断したもので、〈菅義偉官房長官は直接、関わることはなかった〉とした。
また、「即断『休校』与党も驚き/野党『場当たり的だ』」(読売29日4面)、「休校『身内』も困惑/麻生氏『共働きはどうなる』」(毎日29日3面)など、与党内にも困惑や批判があることを報じた。
▼29日――首相会見
次に29日の首相会見。3月1日の各紙朝刊は1面本記、2、3面に受けの記事といった展開。
毎日は2面受け記事で「対策列挙 具体性欠く/休校根拠も曖昧」と厳しい見出しを立て、〈独断で休校要請に踏み切った首相だが、対応は後手に回っている〉。
朝日が「唐突な休校要請 釈明/『ご理解』『お願い』繰り返す」の見出しを掲げた3面の受け記事で、会見を回避してきたことに〈公明党からも批判が出ていた〉と指摘。会見が35分で打ち切られ、〈その後、まっすぐ帰宅した〉ことにも触れた。
読売は2面で「首相、対策迷走に危機感/『大きな責任 先頭で果たす』」と、首相の意気込みに見出しではエールを送りつつ、「揺らぐ安倍政権の新型肺炎対策」との時系列の表を載せたうえで、記事の前文では〈今後の政権の命運は、感染拡大に歯止めがかかるかどうかに大きく左右されそうだ〉とかつてなく辛口だ。
産経だけは会見を受けた3面の記事で「首相、危機回避へ決意示す」との見出しで、〈国民の耳目を集めやすい土曜の夜に記者会見を開いたのは……政府の覚悟を示すとともに、一人一人に協力を呼びかける狙いがある〉と、前向きな評価をした。
▼論調比較
社説でも、産経の「主張」(社説に相当)と他の5紙はトーンに差が出た。
産経は2月27日に逸早く「小中一斉休校 北海道の決断を支持する」(https://www.sankei.com/column/news/200227/clm2002270002-n1.html)を掲載していただけに、全国一斉休校要請を受けて、29日(https://www.sankei.com/column/news/200229/clm2002290001-n1.html)でも〈基本方針にもなかった異例の対応であり、社会に与える影響は極めて大きい。新型肺炎の流行を抑制するため、必要かつやむを得ない措置を政治決断したものといえる〉と評価。
それでもこの時点では一般紙面での問題点の指摘に歩調を合わせ、〈問われるのは、この措置についての説得力のある説明だ。流行に関する現時点の見通しはもちろん、なぜ今、一斉休校とし、これを春休みまでとしたのかという理由も聞きたい。休校するかどうかで抑制効果がどれほど違うのかも示すべきである〉と説明責任を明快に求め、「後手の対応を立て直せ」との小見出しも立て、この間の対応への不満も織り込んだ。
ところが、首相の会見を受けた3月1日の「主張」(https://www.sankei.com/column/news/200301/clm2003010003-n1.html)は、同欄で前日に指摘した疑問に首相から十分な答えがなかったにもかかわらず、首相の説明責任はスルーし、〈安倍首相は……「政治は結果責任だと言ってきた。逃れるつもりはない」と語った。緊急事態に臨むリーダーとして、当然の心構えであろう〉と称賛。
〈一斉休校には批判もあるが、約1300万人に及ぶ子供たちを守るための措置である。感染の広がりを抑え、子供たちと暮らす高齢者や基礎疾患のある弱者を守ることも期待できる〉と、一斉休校を支持する姿勢を鮮明する一方、批判や問題点の指摘は姿を消した。
産経以外の5紙は厳しい論調が目立つ。
唐突な一斉休校については、朝日(2月28日(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14382477.html?iref=pc_rensai_long_16_article)は〈首相の表明はあまりに唐突で、かえって混乱と不安を招きかねない。現実的なリスクを、どんなデータに基づき、どう判断したのか。……なぜ急転換したのか。……国民が納得・安心できる対策をすみやかに示す必要がある〉
毎日(29日、https://mainichi.jp/articles/20200229/ddm/005/070/085000c)も〈対応が「日替わり」で迷走していないか。……保護者側の負担の大きさも改めて指摘したい。……また、医師や看護師、消防士といった職種の人が一斉に休めば、市民の健康や安全が脅かされかねない〉
東京(29日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020022902000149.html)は〈どういう根拠にもとづく施策かも説明不足だ。生じる混乱の責任は国が負わねばならない。……根拠(エビデンス)がはっきりしない方針が次々打ち出されると、目指す方向性が見えにくく、国民の不信は増すばかりではないのか〉
読売(2月28日、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200227-OYT1T50338/)は〈全国一斉休校という異例の措置は、危機感の表れと言える。……各自治体で独自に休校の動きが広がる中、政府として、統一的な考え方を示す必要に迫られた面もあったとみられる。ただ、一斉休校に伴う様々な混乱も予想される〉と指摘したうえで必要と考えられる施策を列挙して対応を求める。
日経(28日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56194850Y0A220C2SHF000/)は〈子どもがいる家庭の働き方への影響は大きい。……文部科学省は休校期間について「地域や学校の実情を踏まえ設置者の判断を妨げない」とややトーンダウンした通知を出したが、当然だろう〉
首相の会見を受け、朝日、毎日に加え、読売の社説も辛口だ。
朝日(3日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S14387256.html?iref=pc_rensai_long_16_article)〈感染者が確認されていない県まで一律に対応する根拠は具体的に示されなかった。首相は予算委でも「専門家の意見をうかがったものではない」と、科学的な知見に基づくものではないと認めた。……記者会見にしろ、国会答弁にしろ、首相は準備された説明を繰り返す場面が多く、自らの言葉で国民の不安に丁寧に向き合おうという姿勢はうかがえない〉
毎日(3月1日、https://mainichi.jp/articles/20200301/ddm/005/070/047000c)〈遅きに失した会見である。……首相がこれまでの対応をどう総括し、感染防止へどんな具体策を説明するかが注目された。だが、会見はこうした要請に応えたものではなかった。……疑問にもっと正面から答えるべきだ〉
朝、毎は首相の姿勢にズバリ、異を唱えたものだ。
読売(1日、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200301-OYT1T50019/)は〈新型コロナウイルスは未解明な部分が多いとはいえ、安倍内閣のこれまでの対応は戦略性を欠いていたと言わざるを得ない。……唐突な方針転換で、学校関係者や保護者に混乱が広がった。……急務なのは、学校の休校で影響を受ける保護者らに対し、十分な支援策を講じることだ〉とくぎを刺した。
長谷川 量一(ジャーナリスト)
最終更新:3/9(月) 14:31
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