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年金運用機構の3理事全員退任の真相・深層

3/13(金) 14:30配信

ニュースソクラ

【伊藤博敏の事件録】「プロの張り込み写真」で高橋理事長追い落としの異常さ

 公的年金の運用を一手に引き受ける年金積立金管理運用機構(GPIF)は、運用資産額160兆円の世界最大級のファンドである。その成否が、国民の将来の受給額に影響するという意味では、動静に無関心ではいられないが、3月末をもって3人の全理事が一斉に退任するという異常事態が発生した。

 「運用規模もさることながら、GPIFは(環境や社会、企業統治を考慮する)ESG投資を日本に根付かせようするなど、投資環境を主導してきた存在。継続性が必要で、一斉退任なんてありえない。まして今は、新型コロナショックで株価は大暴落。たいへんな時期だ。いったい何があったのか」(大手ファンドの運用責任者)

 3理事とは、農林中金出身でJAリース前代表の高橋則広理事長、住友信託銀行、英コラーキャピタル出身の水野弘道CIO(最高投資責任者)、厚生労働省からの出向で総務・企画等担当の三石博之理事である。

 伏線は、昨年10月18日、「役員の制裁処分の実施について」という発表だった。その結果、高橋理事長は6カ月減給の懲戒処分を受けた。

 処分理由は、「特定の女性職員と多数回にわたり会食を行うなど特別な関係を疑われかねない行為」を重ねたうえ、「内部統制上の迅速な対応を怠ったため」である。

 GPIF騒動が巻き起こるのは、ここからである。

 処分を受け、『日経新聞』が「GPIF理事長は襟を正せ」と、批判的な社説を書くなど高橋理事長への風当たりは強くなったものの、「特定の女性職員」が、弁護士を立てて「GPIF経営陣(三石氏)のセクハラに悩み、それを高橋理事長に相談していただけで、特別な関係などではない」と訴えたことで、新たな局面を迎える。

 次のような「陰謀説」が浮上した。

 GPIFには、世耕弘成・前経済産業相と親しく、その強い推挙でCIOに就いた水野氏と、農林中金の元凄腕ファンドマネージャーで、水野氏の“お目付け役”として送り込まれた高橋氏の二大派閥がある。女性スキャンダルは反高橋派が仕掛けた陰謀だった――。

 陰謀説が浮上するのは、それを裏付けるかのような、高橋氏の処分に至る経緯だった。

 時系列を辿ろう。
・18年12月から19年1月にかけて、内部通報アドレスに複数回、「女性が役職者と職場不倫をしており、風紀を乱している」というメールが送られた。
・19年8月、前記メールを放置していたところ、高橋理事長宛てに、「前職時代から特別な関係にあった女性をGPIFに採用、関係を続けるなど許されない。2週間以内に職を辞すように」という文書が2枚の「デート写真」とともに送られる。
・19年9月、これも無視していたところ、文書作成者は厚労省の年金局長宛てに「情実採用で特別な関係の女性とハイヤーを使って、公私混同のデートを重ねている」という文書を、18年12月21日付の写真6枚とともに送り付けた。
・19年9月20日、年金局長とGPIFとの間で話し合いをし、内部通報として取り扱われるようになり、監査委員が調査を開始した。

 その結果、10月18日の処分発表となった。

 筆者が、この問題に疑問を持ち、取材を始めたのは11月中旬に入ってからだが、理事長と年金局長宛ての文書
は、「氏名不詳の怪文書」であり、その文面も「高橋排斥」が狙いであることを広言するもので、GPIFがこのよ
うな怪文書で処分を行うというのなら、その内実を記しておくべきだと思われた。

 というのも高橋氏宛ての文書には「私たちは時間をかけて外部告発、週刊誌へのタレコミを準備。(それが嫌なら)自ら職を辞せ」とあり、年金局長宛てには「9月末には水野理事、三石理事が退任されるとのこと。理事長の勝手を止める人がいなくなると思い、もう迷っている場合ではない」と、記されていた。

 同封された写真の粒子は荒いものの、二人の親密な様子がうかがえる。明らかに、素人ではなくプロの業。張り込みを何日したかにもよるが、数十万以上、100万円を超えてもおかしくはない。

 それだけの経費をかけてまで高橋氏を排斥する狙いは何なのか。怪文書にあるように、9月末で任期が来ていた水野、三石両氏の続投を望むものだったのか。

 いずれにせよ、「探偵写真」で160兆円の運用トップが刺され、辞めないまでも20年3月末の任期で退任するのは異常である。

 こんな仕掛けで人事を操れるなら、今後、スキャンダルをネタに、運用に注文をつけて儲けようとするような「輩」が出てこないとも限らない。筆者は、その警告も込めて11月21日配信のネット雑誌で記事化した。

 それに対しては、水野氏から「自分が関与しているような書き方だ」と、代理人弁護士を通じて抗議をもらった。ただ、後述する三石氏への取材でも明らかにしたことだが、筆者が問題にしたのは、「探偵写真を使った高橋排斥の陰謀」であり、それに水野氏が加担した、などというつもりは全くない。

 以降の経緯を辿ろう。

 筆者などの報道を受けて水野氏は、高橋氏に経緯を説明するように迫り、高橋氏は<当初から9月末の退任を希望していた水野さんに、私自身が何回も「後、半年間、一緒にやってくれ」とお願いした>という趣旨の文書を提出している。「居残り工作などなかった」というわけである。

 水野氏へは、今回、同氏の弁護士を通じて取材を申し入れたが、取材には応じてもらえなかった。

 筆者の記事には、三石氏も同様に反発した。水野氏が理事長に頼まれて残ることになり、三石氏も一緒に残った、とのことだった。

 三石氏は取材に応じ「私は、厚労省の官僚で、出向でGPIFに来ているだけですから、居残り工作をしなければならない理由はありません。なんで謀略なんて話になったのか。写真の元になる動画を撮影した人間が誰で、何のためにそんなことをしたのかは私にはわかりません。セクハラに関しては、彼女と飲食をしたのは2年半前の二度だけ。最初は歓迎会で、次の2回目はランチで、彼女の職場上の相談を聞きました」と語っている。

 三石氏は、女性の弁護士が11月11日付けでGPIFに提出した文書が「内部通報」と、見なされたことにより、監査委員の2か月以上の調査を受けている。

 「私も監査委員によってセクハラに関するヒヤリングを受け、彼女と交わしたメールなどを提出、調査を受けました。その結果、高橋理事長から処分も注意も何も受けておらず、セクハラはなかったということだと理解しています」(三石氏)
 
 その後、小康状態が続いたものの、『週刊文春』(20年2月20日号)が、インテリジェンス・レポートとして取り上げ、「GPIF理事長を退任に追い込んだ禁断動画」と題し、「写真」のもとになったのが動画であることを明かし、その鮮明な画像写真も出して、顛末を報じた。

 文春は、動画をどこから入手したのか。それは高橋理事長排斥の「陰謀」を仕掛けた人物なのか。

 週刊文春の編集長は、「取材源について、明かすことはできません」という。3理事退任が決定された後の報道なので、誰かに肩入れして人事を左右しようとした、というわけではなさそうだ。

 沈黙を貫く高橋理事長については、知人が次のように代弁した。

 「いろいろ言いたいことはあるでしょうが、理事長、CIOの人事が決まるという大事な時ですから発言は控えています。いずれにせよ厚労省の意向に沿っているだけで、喧嘩両成敗的な処分になったのも厚労省の意向です」

 その後任人事は、大詰めを迎えており、近く発表される。誰が理事長、CIOになるにせよ、「探偵動画」という陰湿な仕掛けで、160兆円ファンドの理事長が退任したという過去は、忘れてはならず、その真相は明かされるべきだろう。

伊藤 博敏 (ジャーナリスト)

最終更新:3/13(金) 14:30
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