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「感染症の一番の防御策は正しく知ること」 “予言書”として話題の小説「首都感染」著者の高嶋哲夫さん(岡山県玉野市出身)

3/17(火) 20:17配信

山陽新聞デジタル

 新型コロナウイルスの感染が広がる中、玉野市出身の作家高嶋哲夫さん(70)=神戸市=が2010年に発表した小説「首都感染」が“予言書”として話題になっている。出版元の講談社は17日、2万部の増刷を決め、2月以降の重版は文庫版計3万4千部に達した。新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)が起き、日本政府が感染拡大を防ぐため、東京都心を封鎖するというストーリーで、高嶋さんは「感染症の怖さを訴えたかった。一番の防御策は正しく知ること」と話す。

 ―10年前に執筆したきっかけは。

 石油をつくる細菌がアフリカで発見されたという設定の作品「ペトロバグ」を書いた01年ごろ、細菌や感染症について文献で調べていると「パンデミック」という言葉が頻繁に出てきた。当時、自分にとってなじみがなかった言葉で印象に残り、いつかはこれをテーマにと構想を練っていた。

 ―09年から10年にかけ、新型インフルエンザの感染が世界中に広がっていた。

 執筆意欲を後押しされた側面はあったと思う。訴えたかったのは、感染症は怖いということ。かつて流行したスペイン風邪やペストをみると、小規模な戦争よりも多くの人が亡くなっている。本当にすさまじい威力を持っている。

 <作品では20XX年、サッカー・ワールドカップ開催中の中国で、致死率60%以上とされる強毒性新型インフルエンザが出現。東京都心でも感染者が見つかった。主人公で元WHO(世界保健機関)感染症対策チームの日本人医師のアドバイスで、政府は都心と外部を結ぶ道路や鉄道網などを封鎖し、人の行き来を遮断する>

 ―航空機で帰国した人たちのホテルへの隔離、学校の一斉休校、人気遊園地の休園など、作品に描かれた出来事が今回の新型コロナウイルスでも起こった。

 文献を調べ、想像力を働かせて書いた。感染症の拡大が起こった場合、取るべき行動は必然的に決まっており、作品にあるのは、ある意味で常識的なことばかりだ。感染症の一番の防御策は正しく知ること。恐れすぎるのも良くないが、軽く見過ぎてはだめ。今回はまだ分からないこともあるが、より冷静になり、正しい知識をもって判断していくことが大切だ。

 ―今回の感染拡大をどうみているか。

 新型コロナウイルスは感染力が強いが、致死率は決して高くない。もちろん亡くなった人もおり、高齢者や基礎疾患のある人は気を付けなければならないが、世の中全体としてはもう少し冷静に対処する必要があると思う。マスクも保菌者がウイルスを広めない効果はあるが、感染予防にはならないというのが定説であり、買い占めといった行動は行き過ぎだ。まずは感染者と医療従事者に十分に行き届くようにしなければ。

 ―作品では封鎖地区内の都民に対し、全国各地から支援物資が送られた。

 ウイルスがまん延した東京の人たちが行動を制限されて「犠牲」になる一方で、全国各地の人たちが全力で東京をサポートしようとした。今回の事態で政府は全国一斉の小中高校の休校を要請したが、感染者が出ていない県は普段通りに授業を続けるなど、地域の実情に応じた対応ができたはず。日常の生活を維持することで経済への影響も軽減できる。地域のことは地域で決められるようにするためには、地方分権の推進や道州制の導入を考えていく必要もある。


 たかしま・てつお 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の研究員を経て米カリフォルニア大に留学。帰国後、執筆活動を始め、米国で暮らす日本人の姿を描いた「帰国」で1990年に北日本文学賞を受賞。94年、米国の核問題をテーマにした「メルトダウン」で小説現代推理新人賞を受けた。「M8」「首都崩壊」など著書多数。慶応大大学院修了。

最終更新:3/17(火) 20:17
山陽新聞デジタル

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