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受動喫煙は「犯罪」にならないの? 「刑罰」への待望論も、「行政罰」が望ましい理由

3/17(火) 10:07配信

弁護士ドットコム

受動喫煙の防止を主な目的とした「改正健康増進法」が、4月より全面施行される。各地から灰皿や喫煙所は撤去され、全面禁煙となった飲食店もある。

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このような受動喫煙対策が進むにつれ、喫煙者に対する目も厳しくなりつつある。ある喫煙者(50代・男性)は「まるで『犯罪者』であるかのようにみられている気がする。このままだと喫煙すること自体が『犯罪』になるのでは」と不安な気持ちを語った。

そもそも、受動喫煙が「犯罪」にあたることはあるのだろうか。

●場合によっては「不法行為」を構成することはありうるが……

これまで、受動喫煙に対する被害で喫煙者に賠償を命じた民事の裁判例はある。

たとえば、ほかの居住者が喫煙をやめるよう申し入れているにも関わらず、マンションの自室ベランダで喫煙を継続した行為について、不法行為にあたるとし、損害賠償請求を認めた裁判例(名古屋地裁・平成24年12月13日判決)がある。場合によっては、喫煙が「不法行為」を構成することがありうるということだ。

では、刑法が規定する「犯罪」にあたる可能性もあるのだろうか。

厚生労働省の研究班による資料などによると、受動喫煙は喫煙者による「他者危害」であり、他人に対して繰り返しタバコの煙をふきかける行為は、刑法上の「暴行罪」や「傷害罪」が成立しうる可能性があるとしている。

●「暴行罪」「傷害罪」は成立するのか?

『条解刑法第3版』でも、煙を吹きかける行為が「暴行罪」にあたる場合があるとしている。では、「傷害罪」はどうだろうか。

園田寿教授(甲南大学法科大学院・刑事法)は「傷害罪の成立は難しい」と指摘する。ちなみに園田教授もかつては重度の愛煙家(1日に80本ほど)だった。

「傷害とは、生理的機能に障害を与えることですから、相手の健康が害された場合には傷害罪が成立します。ただ、一時的なめまいや嘔吐感のように、生理的機能の障害の程度が軽く、すぐに回復するような程度であれば、傷害罪の法定刑の下限が罰金(最低1万円)である点を考慮すると、受動喫煙について傷害罪の成立は難しいと考えられます。

もちろん、故意にタバコの煙を相手に吹きかけるといったような場合には、物理力の不快な行使がなされたとして、暴行罪(下限は1000円以上1万円未満の科料)の成立は考えられます」

●受動喫煙を「刑罰」で規制することは、なにが問題なのか?

前述したように受動喫煙を「他者危害」とする捉え方もある。

「公的な報告書などでは、受動喫煙が明確に『他者危害』であることが強調されています。しかし正確には、受動喫煙の問題性は、喫煙を無制限に放置した場合に累積的に生活環境が間違いなく悪化し、受動喫煙が人々の健康に対して悪影響を与えるという点にあります。

この点で、受動喫煙はゴミの不法投棄やタバコのポイ捨てと同じような問題性をはらんでいると言えます」

受動喫煙に対して「刑罰」を適用することについて、賛成の声も少なくない。一方で、「刑罰は行き過ぎなのでは」という声もある。

園田教授は「受動喫煙を刑罰によって規制しようとすると、別の問題が発生する」と指摘する。

「そもそも、刑罰による規制を根拠づけるのは『保護原理』と『侵害原理』です。前者は『パターナリズム』と呼ばれるもので、本人のために処罰する場合であり、たとえば禁止薬物の自己使用が典型例です(処罰より治療だという意見もあります)。

後者は、他者に対する危害行為を刑罰で禁止する場合であり、この場合は、被害が大きく、刑罰以外では有害行為のコントロールが難しいということが基本です。受動喫煙禁止は後者の場合です。

受動喫煙の場合、個別の行為(喫煙)は、単独では生命や健康に対する抽象的な危険すら認められない行為であり、非喫煙者にとって単に不快な行為でしかありません。生命や健康などに対する抽象的危険すら認められないような行為を刑罰で規制するとなると、それが不快だということで処罰することになりかねず、刑罰の基本的原理に反するおそれがあります。

このような点からいえば、受動喫煙は、刑罰ではなく行政罰の過料で対応することが望ましいと思います。改正健康増進法も同様の考えであり、4月からは、多くの人がいる施設や鉄道、飲食店などの施設は、原則屋内禁煙となります。喫煙禁止場所で喫煙した者には30万円以下の過料が科されることもあります」

●「喫煙をやめたい」悩んでいる人は医療機関に相談を

喫煙者の中には「この機会に喫煙をやめよう」と考えている人もいる。しかし、「簡単にやめられない」と悩んでいる人も少なくない。そんな人に、元・愛煙家の園田教授からのメッセージをお届けしたい。

「私は医師に相談して17年ほど前に禁煙に成功しました。ニコチンへの依存は、適切な手段を用いると思った以上に簡単に切ることができます。喫煙は百害あって一利なし。タバコを吸われている方には、医療機関にご相談されることを強くお勧めします」

【取材協力弁護士】
園田 寿(そのだ・ひさし)弁護士
甲南大学法科大学院教授(刑事法)。大阪府青少年健全育成審議会副会長、大阪弁護士会情報問題委員会委員、自治体の公文書公開・個人情報保護審議会委員を歴任、著作に『情報社会と刑法』(成文堂、2011年)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(共著:朝日新書、2016年)など。
事務所名:木村永田法律事務所

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:3/17(火) 10:07
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