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【医療の裏側】 参考にすべきは「災害派遣医療チーム」か

3/24(火) 14:01配信

ニュースソクラ

日本版CDC(疾病対策センター)をどうつくるか(下)

 新型コロナウイルス対策の迷走は、「政治主導」に偏った体制に起因している。

 これまでの政府の対応を、ざっとふり返っておこう。

 政府に「新型コロナウイルス感染症対策本部(本部長・安倍首相、副本部長・加藤厚労大臣、菅官房長官、本部員・すべて国務大臣)」が設置されたのは1月30日。

 国内初の感染者が出て2週間が過ぎ、政府チャーター機による中国・湖北省在留邦人の帰国が始まった翌日だった。初動が遅く、政府は中国の惨状を「対岸の火事」と見ていたのではないか。

 実際の対策は、厚生労働省健康局結核感染症課と医薬・生活衛生局検疫所業務管理室を中心とする部署、国立感染症研究所、国立国際医療センターなどに任されていた。

 そこにクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号が来航。横浜港大黒ふ頭に接岸した。

 2月5日から「検疫法」による「臨船検疫」が始まる。行政の職員は、部署をこえて対応に追われ、現場では大混乱が生じた。集団感染が発生したのはご存知のとおりだ。

 現場にどんな政治介入があったのか。大いに知りたいところだが、クルーズ船で対応にあたった橋本岳・厚労副大臣と自見英子・厚労政務官は、下船後にウイルス検査を受け、陰性と診断されたあとも2週間、国会に当院しないことになった。

 政府対策本部が医療専門家の「助言」を公式に認めたのは、2月14日とさらに遅かった。第9回対策本部会議で菅官房長官が「本対策本部の下、新型コロナウイルス感染症対策について医学的な見地から助言等を行うため、専門家会議を開催することとしたい」と発言し、了承されている。国内初の死者が出た翌日のことである。

 専門家会議は、2月17日に「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く」など受診目安を公表。24日に感染の拡大・収束について「1、2週間が瀬戸際」との見解を示す。

 25日、政府は感染拡大防止のための「基本方針」を決定。この時点では小中高の臨時休校の要請には一切触れず、27日、突如、安倍首相がこれを打ち出し、現在の混乱に至っている。

 と、経緯をたどると、政府の感染症への認識の甘さが浮かび上がる。政府対策本部の設置と同時に専門家会議はスタートさせるのが筋だろう。

 こうした体制の不備に対し、専門家は、前回のコラムでも紹介したように米国のCDC(疾病対策センター:CentersforDiseaseControlandPrevention)に倣った「日本版CDC」の創設せよ、と唱えている。安倍首相自身、2月17日の衆議院予算委員会で「CDCのような組織も念頭に置きながら、組織を強化していくことは重要な視点だ」と述べた。

 確かに「意思決定できる専門家による独立したシステム」は必要に違いない。

 ただし、職員1万5000人のCDCのような組織をゼロから立ち上げるのは不可能だろう。それに米国の感染症対策が万全かというと、そうでもないのだ。

 ワシントン大学の文化人類学者、ヘイムス・アーロン氏は、こう述べる。

 「トランプ政権で、CDCの予算は2018年から大幅に削減されています。その前年から700以上のポジションの雇用が凍結されており、私の理解では、そのまま空いています。

基本的にCDCは弱くなり、アメリカで新型コロナウイルスが流行ってもおかしくない。

しかも、新型コロナウイルス対策の責任者に指名されたのは、ペンス副大統領です。彼は温暖化・気候変動や生物学の進化論などを信じていません。2013年にインディアナ州知事に就任したペンス氏は、公衆衛生の予算を削減。貧困層の多いスコット郡でHIV感染が増えた。

専門家が医療機関での注射針の交換を勧告したところ、彼は麻薬使用につながるという非科学的理由で拒み、結果的に感染が広がりました。そんな人が新型コロナ対策の責任者です。米国が感染症対策で世界を導く資格はなくなったのではないでしょうか」

 事実、昨年末から今年にかけて、米国ではインフルエンザに2600万人がかかり、約25万人が入院。なんと約1万4000人が亡くなっている、とCDCは推定する。国民皆保険にほど遠い米国では、悪化しても医療機関を受診できず、死亡する人が多いと思われる。

 2月中旬、CDCはショッキングな発表をした。

 「インフルエンザに似た症状が確認された患者に対し、新型コロナウイルス検査を開始する。検査対象を大幅に見直す」と方針転換を告げたのだ。

 つまり、猛威をふるうインフルエンザのなかに新型肺炎が混じっているかもしれない、と考え、検査拡大に乗りだしたのである。今後、米国で隠れコロナ感染が大量に見つかれば、トランプ大統領の政権基盤は大きく揺らぐだろう。

 ちなみに日本のインフルエンザによる年間死亡者数は、2009~18年の10年間の平均で1490人(社会実情データ図録より)。日本の総体的な医療レベルは米国よりも高い。

 ならば、CDCを参考にどんな組織をつくればいいか。

 最も現実的なのは、平時から「常設」の「感染症危機管理対策特別チーム」を置いておくことだろう。今回のように感染症が発生して時間が過ぎてから専門家会議を立ち上げたのでは間に合わないのだ。

 医療の危機管理に詳しい厚労省元幹部は、こう語る。

 「医者チームの指揮官、責任者を定めて、事務局を確定しておく。チームのコアメンバーは常勤でなくては対応できません。他の仕事をやりながら危機管理はできない。ふだんからあらゆるシミュレーションを行い、すぐに実施できるプログラムを持っておく。

感染症が発生したら、コアメンバーの下に関係部署が即座に応援に入る。チームは、『特別法』で設置する。法で指揮官、権限、組織を明確にしないと、協力しないところが出ますからね」

 通常は、事務局のコアメンバーが感染症のモニタリングや調査、分析、シミュレーショに携わる。いざ発生したら、指揮官の指令で関係部署や支援組織が一斉に動きだして緊急対応に当たる。そんなフレキシブルな組織が、はたして医療界でつくれるだろうか。

 「感染症対策とは異なりますが、『DMAT(災害派遣医療チームDisasterMedicalAssistanceTeam)』が参考になるでしょう。

 外科がメインのDMATは、独立行政法人国立病院機構災害医療センター(立川市)と、独立行政法人国立病院機構大阪医療センターに事務局を置いていて、一定の訓練と研修を受けた医師、看護師、救急救命士やその他のコメディカル、事務員たちでチームが構成されます。

 装備、食料、移動、宿泊(寝袋)など自前で、自律的に活動できる能力を備えています。現在、1400以上のチームで9000人以上のメンバーがいます。

 災害が発生したら、事務局の要請で、各地のチームが現場に急行する。感染症では、現場に勝手に入れないので、対応は違ってくると思いますが、参考にできるのでは」と厚労省元幹部は言う。

 DMATは今回のクルーズ船にも派遣されているが、感染症に特化したチームは少なかった。感染症の場合、患者の搬送や受け入れ、治療も特殊なものとなる。どのように受け皿を整えておけばいいのだろうか。

 「東日本大震災の発生後、政府の協力要請で『被災者健康支援連絡協議会(代表:横倉義武日本医師会長現在23組織42団体で構成)』が設けられました。

 医療関係団体の協議会で、大学病院も入っています。発災から数日はDMATの出番ですが、すぐに避難所の医療確保や、現地への医師、看護師の派遣に課題が移るので、そこに対応するわけです。感染症でも、学会や医療機関の協力は得られると思うので協議会的組織を考えたらどうでしょう」

 このような新しいフレキシブルな組織の設立にこそ、政治家の力が求められている。医療界の垣根や意識の壁を取り払い、まとめる仲介が必要だ。

 仮に「CMAT(ContagiousdiseaseMedicalAssistanceTeam)」とでも呼べる感染症の医療派遣チームを設けるなら、事務局は国立感染症研究所か国立国際医療研究センターに置くことになるだろうか。

 しかし、どちらも年々、運営予算を削られ、四苦八苦している。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。

最終更新:3/24(火) 14:01
ニュースソクラ

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