岡城千歳。1990年代、20代前半で米プロ・ピアノレーベル初の専属アーティストとして鮮烈なデビューを飾ったピアニストです。驚異的なテクニックと独特な解釈によるシューマンやドビュッシー、スクリャービンの個性的な演奏は、世界的に大きな話題となり数々のディスク賞を受賞しました。
【動画】岡城さんの演奏を聴く(YouTubeより)
その後、ワーグナーの管弦楽曲やマーラー、チャイコフスキーの交響曲のピアノ編曲版、ビートルズや坂本龍一作品などのCDでも注目されましたが、2000年代半ばに表舞台から姿を消します。それから15年あまり。新しい録音のリリースとともに演奏活動を再開すると知り、来日中にインタビューの機会を設けてもらいました。(氏家英男)
ーーピアニストとして生きていこうと思ったのはいつですか。
岡城:大学1年のときですかね。フルトヴェングラーが指揮するワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」のレコードにはまってしまって。学校から帰ると一番に聴いては、毎日ひとりでずっと泣いていました。
ーー毎日ひとりで、ですか。
岡城:ええ、ひとりで(笑)。いま聴くとだいぶ印象は変わってるんですけど、あのころはあれが究極のワーグナーだと思ってましたね。ああいう世界ができるんだったら、音楽にまさる芸術はないなと思いました。そこまで人の心を動かせるってすごいなと。
小さいころからピアノを弾いてはいたけど、ああいう力が音楽にあると思ってなかった。肩をつかんで揺さぶられる感じ。解決しない和音が延々と続いて、地べたを引きずり回されるような。「こんなことができるのなら、私はこの世界を本気で追求したい」と思ったんです。
ーークラシック音楽といえば、日本ではベートーヴェンが圧倒的人気ですが、解決しない和声が好きということは……。
岡城:苦手ですね、ベートーヴェン。ジャン! バンバン! だから何? って(笑) 名曲だとは思うけど、なんか入っていけない。(親しいピアニストの)ディックラン・アタミアンさんにも、なんで弾かないのって言われるけど「だって、ジャンジャンで解決するの嫌いだもん」って。やっぱり漂ってるのがいい。
ーー漂い系の作曲家は、ほかには。
岡城:ドビュッシーですね。でもドビュッシーは、みんな弱音でしか弾かないでしょう? バアンとか弾くと、何でそんな大きい音で弾くんだとか言われちゃうんだけど。「スタイルが違うだろう」って。スタイルって何? スタイルを守るって何? コピーするってことですよね。「印象派」って呼び名もよくないと思うんだけど。
ーー先生の顔色をうかがっているような演奏は多いですからね。でま岡城さんは若いころから堂々としていました。
岡城:ドビュッシーって本当に和声が微妙で。右手をモヤモヤ弾いてて、左手もモヤモヤだったら全体がモヤモヤで和声が見えない。「ここのモヤモヤを出すためにここをはっきり書いた」と思ったら、やっぱりはっきり弾きたい。
それに、ゆっくりした曲でも必ず高揚点ってのがあって。最初は微妙な色合いで始まるけど、それが向かう点が必ずあるわけですよ。で、その到達した和声をバアンと出したいなって。全部モヤモヤ弾いちゃったら、色がなんにもなくなっちゃうじゃんと思う。
例えば「前奏曲集」だってものすごい不協和音のところとかもあるわけで。そこを弾くんだったら、やっぱり音のぶつかりを出したいなと思うとバアンっと出したい。でも、そうすると「この人、何か変」「音、間違えてる」とか言われてしまう(笑)。
最終更新:3/26(木) 20:11
DANRO































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