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【インターハイPlayBack】男子短距離に“世界”を感じた2015年和歌山の特別な夏

3/27(金) 17:31配信

月刊陸上競技

 今春、多くの陸上トップ選手たちが大学を卒業した。トップアスリートとして挑戦を続ける者もいれば、ひと区切りして社会人として巣立つ者もいる。

 この世代が高校3年時のインターハイは、人々の心に深く刻み込まれている。SNSやニュースで彼らの卒業の知らせを見ると、あの時の記憶が呼び起こされ、2015年のインターハイを今一度、振り返り、刻みたいと思った。

大嶋VSサニブラウン 0.01秒決着

 和歌山の夏はアツかった。連日、猛暑日となり、湿度も高く身体中の汗と体力を奪っていく。紀三井寺陸上競技場の裏手にスーパー「オークワ」がある。高校生や保護者たちはドリンクや氷を求め、何度も何度も往復していた。

 大会2日目。それほど大きくないメインスタンドに、人、人、人。注意をうながされても、立ち見も仕方ないほどの数。主役は当時高校2年生のサニブラウン・アブデル・ハキーム(城西高)だった。前年の甲府インターハイ200mで1年生ながら2位。15年は6月の日本選手権100mと200m2位に入っていた。

 今大会の直前に行われた世界ユース選手権(18歳以下、コロンビア)では100mと200mを大会新記録で2冠を達成した男。あの“ウサイン・ボルト”の記録を破ったことで、その注目度は陸上界の枠を超越していた。インターハイのあとには、北京世界選手権200mに史上最年少での出場を控えていた。

 予選から威風堂々とスタートラインに立つ「世界一」の姿を、同じ高校生たちはスタンドから食い入るように見つめる。優勝は間違いない。あとは記録をどこまで短縮するか――そんな注目のされ方だった。

「実は世界ユースよりインターハイのほうがレベルは高いんですよ」

 和歌山入りの直前、サニブラウンは公開練習でそう報道陣に答えた。その意味を理解している人はどれだけいただろうか。

 喧噪をよそに、静かに心身を研ぎ澄ませて和歌山に入った選手たちがいる。

 大嶋健太もその一人。前年、100mで2年生優勝を果たした名門・東京高のスプリンターには、史上6人目の連覇が懸かっていた。しかし、同じ東京地区のサニブラウンと大嶋は、都大会が常に激突。大嶋はこの1年一度もサニブラウンに勝つことができずにいた。

「来年も勝てるだろう」。そんな甘い考えを持っていた1年前。負け続けることで不安も募るディフェンディング・チャンピオンに、「絶対に勝てる」と先生方は声をかけ、奮い立たせた。

 蝉の鳴き声が響き渡る。ブロックを合わせるガチャッ、ガッチャッという音が鳴る。16時25分。静寂から8人が一気に飛び出した。

 抜群のスタートを切った大嶋が先行する。肩がほとんど上下しないフォームで加速していく。その外から怒濤の勢いで影が迫る。サニブラウンだった。歓声はフィニッシュラインに近づくにつれて波打つように大きくなる。若きスプリンターたちの誇りが濃縮された10秒間。

 大嶋がトルソー(胴体)を倒し、サニブラウンも上体を突き出す。どちらが勝ったか、目視では判断できなかった。

 決着は、わずか0.01秒差――。

 大嶋が高校歴代7位タイ(当時)の10秒29(-0.8)で、6人目の連覇を達成した。先生から部旗を受け取ると、顔にかけて涙を隠した。

「マジか・・・」。そうサニブラウンはつぶやいた。悔しさとともに、楽しそうな表情が浮かんでいた。

「全体として、これまでで一番の走り。とにかく楽しかったです」。大嶋は充実感と安堵感を漂わせる。

 インターハイ史に残る激闘だった。

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最終更新:3/27(金) 20:12
月刊陸上競技

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