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羽生結弦の忘れ難き思い出『Origin』 見る者の心を揺り動かす“原点”の続きは来季へ…

3/27(金) 19:07配信

REAL SPORTS

2020年の世界フィギュアスケート選手権は、残念ながら中止となった。出場を予定していた選手たちもさまざまな想いを口にしながら前を向いており、ファンもまた同じ気持ちだろう。世界選手権の名場面を振り返り、美しい記憶に身を委ねながら、新たなシーズンへと想いを馳せる連載の第4回。

突き上げた手は、まるで天にまで届くかのようだった。会場の空気を支配し、熱気を醸し出す。まさに奇跡を目の当たりにしたような感覚だった。2019年の世界選手権で演じた『Origin』、それは羽生結弦が自らの“原点”を取り戻し、新たに挑み続ける物語のプロローグだ――。

(文=沢田聡子)

2019年の世界選手権、羽生結弦が見せた魂の『Origin』

記者席はリンクレベルよりかなり上だったが、羽生結弦の滑りを目の前で見たような感覚が今も残っている。通常はプレスの立場上、拍手もスタンディングオベーションも自重しているが、この時ばかりは背筋がぞくぞくするような『Origin』が終わると、自然に立ち上がっていた。総合2位に終わった羽生自身は達成感よりも悔しさが勝っただろうが、それでもあえて書きたい。2019年世界選手権(さいたま)のフリー『Origin』には、数字では表せない価値があった。

日本開催のこの世界選手権で、羽生には常に熱い視線が注がれた。2018年11月に行われたロシア杯の公式練習で右足首を負傷した羽生にとり、約4カ月ぶりの実戦ということもあっただろう。会場のさいたまスーパーアリーナは、練習用のリンクでも羽生が出てくるたびに熱気に包まれていた。 

ショートプログラム『秋によせて』で、羽生は4回転を予定していたサルコウが2回転になってしまったためジャンプ1つ分の得点を失い、3位スタートとなった。この失敗について羽生は、ミックスゾーンで「好調がゆえに落とし穴に入ったのか?」と問われると、「外的要因なので、しょうがないといえばしょうがないんですけどね」と答え、言葉を継いだ。

「そこをうまく対処できなかったのには、自分のメンタルの弱さとかシミュレーション不足とか、そういうことがあると思います。本当にいい経験になりました」

羽生の言う「外的要因」とは、氷の状態だろう。世界選手権の会期は3月20~24日で、1日ごとに気温が乱高下する春先特有の気候が、氷にも影響したと思われる。競技終了直後に出演したテレビ番組で、羽生は「まず(ショートとフリーでは)会場の温度が全然違っていて」と説明している。

「今日(フリーの行われた23日)は外もすごく寒くて。ショートの日(21日)は外がすごく暖かったので、エッジ系ジャンプ(エッジ[スケート靴の刃の部分]を使って踏み切るサルコウ・ループ・アクセル)が結構はまりにくかったんですよね。だから、その感覚がちょっと難しかったです」

ショート後「とにかく、この悔しさをフリーに向けてうまく使いたいと思います」と誓った羽生は、2日後に行われるフリーまでの練習で、鍵となる4回転ループを繰り返し跳び続ける。練習終了後もリンクサイドに残り、動画での確認作業を続けた。フリー終了後、羽生は「周りからどういう目で見られようと関係なく、自分が絶対に納得できるまでやろうと思いました」と振り返っている。

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最終更新:3/27(金) 19:28
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