世界一のタイムトライアリストとしてその名を轟かせてきたカンチェラーラが、完全体へと進化を遂げたのは、2010年の春だった。
2004年ツール・ド・フランスの開幕プロローグ。いまだ線の細かった23歳の若者が、自身にとって初めてのグランツールの初日で、鮮やかに最速タイムを叩き出した。生涯を通して個人TTで10度のナショナルタイトル、史上最多4度の世界タイトル、2度の五輪タイトルを手にすることになる大チャンピオンの、それはデビューにすぎなかった。
その高い独走力を活かして、2008年にはミラノ~サンレモをさらいとる。ティレーノ~アドリアティコとツール・ド・スイスで総合優勝さえ飾り、一時はグランツールライダー転向の可能性も囁かれた。マイヨ・ジョーヌは最終的に、通算29日間も身にまとった。
ただしカンチェラーラが最も強烈な光を放ったのは、間違いなく、石畳の上だ。
最高のライバルもいた。2006年4月に初めて、カンチェはルーベの石畳トロフィーを天高く突き上げた。この年に力づくでねじ伏せた「フランドルの獅子」トム・ボーネンに、2年後は苦汁を飲まされた。
2010年、カンチェは恐るべき逆襲に出る。ボーネンが史上最多5勝を誇るE3プライス・フラーンデレン(現E3ビンクバンククラシック)では、残りkmで宿敵を振り払い、翌週のツール・デ・フランドルでは、カペルミュールでの伝説的「ワープ」で一騎打ちを制した。ルーベ前夜のボーネンは、王者の誇りをかなぐり捨て、こう宣言したものだ。「明日はひたすらカンチェラーラに張り付く。1mmでも先にフィニッシュラインを越えれば、僕の勝ちだ」
しかしこの春のカンチェは、まさに無双。まずはアランベールの一本道で軽い揺さぶりをかけた。そこからボーネンが2度、3度と加速を仕掛けるも、悠々といなす。そして残り50km。10人ほどにまで小さくなった集団の中から……ボーネンが後ろにちょっと下がっている間に……カンチェは前に出た。「ボクが10m先に行けば、ライバルたちが怖がるはずだ」と。決してアタックではなく、あくまでも「様子見の加速」のつもりだったのだ!
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最終更新:3/30(月) 13:16
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