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首都封鎖に現実味、自粛解禁はまだまだ早い

3/30(月) 19:08配信

ニュースソクラ

【医療の裏側】侮れない小池知事発言、今後3週間は要注意

 小池百合子東京都知事が、ついに「ロックダウン(都市封鎖)」を口にした。

 3月23日、東京都は「新型コロナウイルス感染症に関する対応方針」を公表。小池知事は、記者会見で4月12日までの3週間が「オーバーシュート(爆発的な感染者増加)」が発生するか否かの大切な分かれ目とし、「事態の推移によっては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置を取らざるを得ない状況が出てくる可能性がある。そのことを何としても避けなければならない」と語った。この発言は、極めて重要な警告だ。

 ロックダウンとは、市民の外出を大幅に制限し、不要不急の行き来を禁じることを指す。すでに米サンフランシスコでは、3月17日から3週間のロックダウンが行われており、食料調達や不可欠な仕事、必要な医療受診など以外の外出はできない。ガソリンスタンドや薬局、食料品店、銀行、持ち帰りできる料理店などは営業し、公共サービスも提供されてはいるが、街は火が消えたようだ。

 はたして東京も封鎖されてしまうのか……。

 首都東京で大規模クラスターが発生すれば全国に波及してしまう。都は、ロックダウンの回避に向けて4月12日まで大規模イベントの自粛を継続した。そのうえで喫緊の課題は、患者増を見越した医療体制への「転換」である。

 厚生労働省クラスター対策班(西浦博・北海道大学教授、押谷仁・東北大学教授)は、東京都が現状の対策のままなら3月25日までに51人、3月26日~4月1日の7日間で159人、4月2日~8日の間で320人の患者が発生(合計530人)。そのうち重篤者が41人と推計。

 さらに初期の武漢発の感染第一波とはけた違いの数の感染者が今後海外から入国し、「1~2週間以内にこれらの入国者を起点とするクラスターが形成される可能性が高い」と分析した(3月21日付「現状分析・推計」)。専門家の見立ては非常に厳しい。

 現在、感染症法に基づき、新型コロナウイルス感染症と確定診断された患者は、重症であれ、軽症であれ、都立駒込病院や都保健医療公社荏原病院などの感染症指定医療機関に入院している。これは感染のまん延防止が目的なので行政の入院勧告・措置であり、治療費はもとより入院中の食費まですべて公費負担だ。

 しかし、新規の患者が増えれば、全患者の入院は物理的限界に突き当たる。

 そこで都は、新たな対応方針で、重篤・重症向けのICU(集中治療室)や感染症病床などを当面100床~最大700床。中等症患者の入院には一般病床を当面300床~最大3300床。それぞれ確保を目ざすと掲げた。民間病院を巻き込んだ病床の調整は簡単ではないだろうが、乗り越えねばならないハードルだ。

 注目すべきは、軽症者への対応である。都は、確保する病床数を示さず、一般病床のほかに自宅、宿泊施設での療養を検討と打ち出した。軽症者の自宅療養が現実味を帯びてきた。軽症なら入院せず、一般の診療所で診てもらう。訪問看護ステーションの在宅ケアを受ける。あるいは高齢者施設内で隔離して療養をする、といった場面が浮かんでくる。

 受診する側からみれば、新型コロナ感染症の一般化といえるだろう。つまり、もしも新型コロナに感染しても、ふつうのインフルエンザのようにかかりつけ医に診てもらい、少々の発熱なら自宅で休んで治す。途中で悪化したら入院する、といったプロセスをたどることになる。これは口で言うのは簡単だが、実行すればさまざまな軋轢が生じるだろう。

 そもそも一般の診療所で感染防御をしながら診療できる体制が整えられるのだろうか。

 医師や看護師が感染し、医療機関でクラスターが発生すれば、北イタリアの二の舞になる。新型コロナ患者の診療を拒否する医療機関が出てきたらどうするのか。新型コロナ患者が自宅で療養していることが周囲に知れたら、冷酷な差別のまなざしを向けられるのではないか、と不安は募る。

 そうした事態を避けるためにも、感染拡大を防ぐ「行動変容」の徹底が求められる。クラスター対策班の西浦教授は、学校再開で何となく自粛の「解禁ムード」が漂っていることを強く戒める。医療従事者向けのサイト、@m3.comの3月23日付の「オピニオン」で、こう述べている。

 「今は2月よりも厳しく、今からこそイベント自粛とハイリスク空間を避ける声を保健医療の皆さんから届けていただけるよう、助けてください。新型コロナウイルス感染症の流行対策のメインストリームは『屋内の接触を断つこと』です」

 西浦教授は、改めて専門会議が示した3条件「密閉空間・密集場所・密接場面」がそろう場所での屋内接触の自粛を訴え、中国の都市封鎖と外出禁止令が湖北省を中心に奏功していると分析。

 「しかし、3月19日に少しでも良いニュースが伝わり、小中学校などの休校が解除される方針が伝わったことで、市民の間で『解禁ムード』が広がってしまっていることを大変危惧しています。行動がいつも通りに戻ってしまうと、アメリカや欧州各国で見られるような爆発的な感染者数の増大が懸念されるためです。特に大規模イベントを流行地域で再開してひとたび大規模流行が発生すると、流行が制御不能になります」と、感染制御のプロの言葉には悲壮感すら漂う。

 東京ロックダウンが杞憂に終わってくれるのを祈るばかりだ。

 感染防御の第一線で医療従事者たちの壮絶な戦いが続く裏で、世界の医薬品メーカーは治療薬やワクチンの開発にしのぎを削る。近年、ウイルスを含む微生物の遺伝資源をめぐって先進国と途上国がバトルを展開している。知的財産権を盾に遺伝資源を利用する先進国と、遺伝資源を提供する途上国の溝はなかなか埋まらない。


■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。

最終更新:3/30(月) 19:08
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