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アニプレックスがノベルゲームを作る理由 ― 仕掛人は『サクラノ詩』で人生を肯定され、社内で“エロゲー大好き”をアピールし続けた元営業マン

3/30(月) 11:31配信

電ファミニコゲーマー

 数々のアニメーション作品や、その音楽を手がけているアニプレックスが、ノベルゲームの新ブランド「ANIPLEX.EXE」(アニプレックスエグゼ)を発足した。

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 アニプレックスといえばアニメだけでなく、スマホアプリゲームでも大ヒット作『Fate/Grand Order』(『FGO』)をはじめ、『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』『東方キャノンボール』など、すでにいくつもの作品をリリースしている。

 だが今回の「ANIPLEX.EXE」で対象となるプラットフォームはPC、しかもSteamやDMM GAMESでの配信になるという。

 さらに、2020年リリース予定の第1弾タイトルとして発表された2作品は、フロントウイング・枕の共同制作による『ATRI -My Dear Moments-』、そしてライアーソフト制作の『徒花異譚』と、いずれも美少女ゲームで実績のあるクリエイター陣が手がけている。

 美少女ゲーム業界のクリエイターと、アニプレックスとの関係は意外に深い。前述の『FGO』を手がけるTYPE-MOONはもともと同人サークルから美少女ゲームメーカーとなった存在だし、『魔法少女まどか☆マギカ』の脚本を執筆した虚淵玄氏も、ニトロプラス制作の美少女ゲームによってその名を知られるようになった人物だ。
 その意味で今回の新ブランド発足は、第1弾の2タイトルはいずれも全年齢対象ではあるが、アニプレックスの美少女ゲームへの“逆参入”と言うこともできるだろう。

 そして今回の「ANIPLEX.EXE」発足でキーマンとなっているのが、同ブランドのプロデューサーを務める島田紘希氏だ。
 今回、島田氏にブランド発足の経緯について伺ったところ、どうやらこの新ブランドは島田氏個人のパーソナリティによるもの……というか、島田氏自身がかなりの“エロゲーオタク”だったからこそ生まれたものだというのが明らかになってきた。

 「ノベルゲームの面白さを、世界に伝えたい」と語る島田氏の、美少女ゲームやノベルゲームに対する熱い想いと情熱を、以下のインタビューでぜひ感じ取ってもらいたい。

取材/TAITAI
文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
撮影/佐々木秀ニ

■自分がプレイしたなかで、面白い作品を作ったクリエイターさんに話を持ちかけた

──新ブランドを発表してからの反響は、いかがですか?

島田氏:
 思っていたよりは……というと語弊があるかもしれませんが、好意的に受け止めてくださる方々が多くて。
 僕としては「アニプレックスが」というところが、悪いほうに作用しなければいいなと思っていたんですが、「ノベルゲームを盛り上げていってほしいです」という声をいただけたのが嬉しかったです。

 あとは『ATRI -My Dear Moments-』にせよ『徒花異譚』にせよ、それぞれ素晴らしいクリエイターの方々が作品を手がけることに対して、コアなファンの方々がしっかりと反応してくださっているのは、Twitterなどを見ていても感じ取れましたね。

──そもそも今回の新ブランド発足は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。 

島田氏:
 ノベルゲーム、美少女ゲーム……どちらの言い方でも大丈夫なんですけど、まずは僕自身が学生時代からずっと、このジャンルのファンであるというところから始まっていて。それこそ入社面接の時も、その話だけを押して就職したみたいな経緯も、実はあったりするんです。

 今回、ブランドの立ち上げのコピーに「ノベルゲームだから、おもしろい」と掲げましたけど、まさにそのとおりで。
 僕がノベルゲームの面白さを常々感じているなかで、ノベルゲームだからこその魅力を、それを今まで作ってきたブランドさんやクリエイターさんと一緒に作品制作をすることを通して、伝えていきたいという想いがありました。
 その想いを会社の経営陣に説明して、「面白いから、じゃあやってみよう」と承認してもらったというのが、今回の成り立ちですね。

──もともとアニプレックスの社内で、新規事業を公募する動きがあったのですか?

島田氏:
 社内募集といった形で何かしら明確な契機があったわけではなく、何もないところから始まったという感じですね。

──では今回一緒に作品作りを行うクリエイターさんや、美少女ゲームブランドというのは、どのようにして選定されたのでしょうか? というのも、いったいどのあたりに勝ち筋を見出したのかなと。

島田氏:
 個人的嗜好が9割5分ですね。もちろん、紺野アスタさんだったら『ころげて』(『この大空に、翼をひろげて』)が、あくまで推定値ですけど、Steamで良い感じの売り上げを記録していたり、フロントウィングさんだったら『グリザイア』シリーズが素晴らしい成果を残されていたりと、バックボーンとなるものはもちろんあったりするんですけど。
 でもそれよりは本当に単純に、個人的なゲーム体験の中で「この人たちとこういうものを作ったら、日本でも海外でも受け入れられるんじゃないか」というのを、すごく直感的にご相談していったので。

 だから勝ち筋がどうのというよりは、そもそも僕の中では、美少女ゲーム、ノベルゲームというものに対して全幅の信頼があって。
 そこで面白いものを作れる人たちと一緒に作品を作ったら、それがある種、自然と勝ち筋になっていくんじゃないか、ぐらいの感じですね。

──ということは、まず枠組みが先にあって、それに沿ってクリエイターさんを探していったのではなく、そもそもこの人とこういうことをやりたい、この会社とこういうことをやりたいという形だったと。 

島田氏:
 そうですね。まずノベルゲーム、美少女ゲームをやりたいというのがあって。
 その中で僕自身が今までやってきたゲームの中で、この人の作品は面白かった、このブランドの作品は面白かったというのを踏まえた上で、そのクリエイターさんやブランドさんに話を持っていったのが、全体的な経緯ですね。

──ビジネス的な枠組みから攻めていったのではなくて、フロントウイングさんとかに対して、狙い撃ちで声をかけていったわけですか。

島田氏:
 『ATRI』の成り立ちを言うと、まずはシナリオの紺野アスタさんに話をしに行ったんです。
 紺野さんは『向日葵の教会と長い夏休み』という枕さんの作品で参加されていて、僕自身、枕さんの作品が大好きだったので、その流れがあるならじゃあ、枕さんとも話をしましょうと。

 ところが紺野さんがフロントウイングさんに所属することが決まったので、じつはこのお話が一回、白紙になりかけたんです。ただ、ケロQ/枕のSCA-自さんのご厚意もあって、フロントウイングさんをご紹介していただいて。
 そこで改めて、フロントウイングさんや枕さん、その周辺にいるクリエイターのみなさんと紺野さんでやっていこうということになったのが、『ATRI』の成り立ちなんです。

──そういった意味ではブランドですらなくて、紺野アスタさんというクリエイター個人からスタートしているわけですね。 

島田氏:
 そうですね。だからビジネス的な部分は本当に、そこから固めていったという感じではあります。

──では『徒花異譚』の成り立ちは?

島田氏:
 『徒花』は、ご縁のあったシルキーズプラスさんからご紹介いただいて、ライアーソフトさんのところに話に行ったのが、いちばん最初ですね。
 美少女ゲーム業界においてずっと、唯一無二の独特な作品を作り上げてきたライアーさんの作品制作の姿勢が、僕はもともとすごく好きだったので。

 加えて言うと、僕は大石竜子さんのイラストがめちゃくちゃ好きで。大石さんはライアーソフトさんで、直近でいうと『フェアリーテイル・レクイエム』という作品の原画をやられているんですけど、そのシナリオを手がけられていた海原望さんも、非常に素晴らしいシナリオを書く方だなと、作品を遊んでいて思っていたので。

 そこでライアーさんに話に行った時に「大石さんと海原さんで何かやっていきましょう」と。そういう経緯でできあがっていったのが『徒花異譚』という作品です。だからこちらはクリエイターさん先行でありつつ、ライアーソフトさんとも会社として話していった形ですね。

■日本のノベルゲームの魅力を、Steamを通じて世界に発信していく

──各クリエイターさんやブランドさんとの間では、具体的にはどのようなことを話し合われたのですか?

島田氏:
 いちばん最初に各ブランドさんにお見せした資料に書いてあることをそのまま読むと、ノベルゲームを今まで作ってきた人たちによる新たなノベルゲームを世に送り出し、作品を通じて、クリエイターさんやブランドさんの魅力を世界へ発信する。
 Steamでやっていくことで、国内だけでなく海外にも広く周知していく試みであるというのを、まず最初にお伝えした形ですね。

──Steamで世界に打って出ていくというのを、強く意識されていたんですね。

島田氏:
 あとは、各ブランドさんがディベロッパーで、パブリッシャーがアニプレックスという区分けをしているんだけれども、具体的な制作・宣伝・販売の方向性は、常に一緒に話し合った上で進めていきしょうと。

 そういったスキームのご説明をしつつ、アニプレックスの実績として、アニメ化があって舞台化があってTVCMがあって、ライセンスタイアップであるところのコラボカフェだったり、イベントだったりといろいろやってきているので、1つの作品を作っていくことで、最大でこれぐらい広げていけるといいよね、ということもお話ししていますね。

 それで最後は、「メーカーさんとの物作りを通してヒットを生み出し、クリエイター様のお名前を広げていくと共に、ノベルゲームに関心のなかったユーザーがクリエイターとして夢を持ち、ノベルゲームを作り始める契機となればと考えております」……って、僕もこれを久しぶりに読んだなって感じなんですけど(笑)。

 でもたしかに、そういう想いもあるんです。ジャンルとしての盛り上がりだったり、魅力だったりというのが若い世代の人たちにしっかり伝われば、新たな志を持つ人もいるんじゃないかと。

 とはいえ何よりまずは、あくまで今まで良いものを作ってきた人たちやブランドの名前を広げることをやっていきたいです、という話をしました。

──ちなみに島田さんとしては、各ブランドさんやクリエイターさんとの接し方は、どういった距離感でやられているのですか?

島田氏:
 そこはまちまちというか。シナリオの海原さんと紺野さんに関しては、それぞれ密にご連絡を取り合ったりして、作品の方向性だとかを話しています。

 それに対して、たとえば『ATRI』はアートディレクターにSCA-自さんが入られているので、SCA-自さんを介してグラフィック周りの確認をしたりしています。
 ふたつの作品で、けっこういろいろ関わり方が違っていたりはします。

──では島田さんもプロデューサーとして、企画の中身に関与されているのですね。

島田氏:
 そうですね。とはいえ、僕が関わることで僕が好きだった作品やクリエイターの魅力が失われると、それは違うなというのがあるので。
 そこは適切な距離感というか、基本的にはクリエイターのやりたいことや考え方を優先した上で、それを軸にしていろいろ広げていくことを考えています。

──ソフトの流通に関して、Steamで展開されるということは、どうしても表現的な問題が出てくるのでは、とも思うのですが。

島田氏:
 そもそも今回は、美少女ゲームユーザーの方々に楽しんでいただいた上で、さらに美少女ゲームをよく知らない人たちにもクリエイターさんやブランドさんの素晴らしさを発信していくという前提があるので、全年齢の形にしています。

 エロ含めた成人向けの描写があると審査で引っかかる部分もあると思うんですけど、今回の2作品については、今のところ表現の部分で「ここはちょっと考えないと」みたいなところはあんまりないですね。
 ただもちろん、これからの審査の中で、何か指摘されることはあり得るでしょうけど。

──特にSteamの場合は、日本国内ではあまり意識していない部分が、インターナショナルな視点で問題になったりするという話も聞きます。

島田氏:
 そうですね。世界を舞台に展開するプラットフォームなので、表現の部分でいろいろ起こり得ると思ってはいます。
 ただ、あくまで作品として面白いものを、いちばん良い形で出していくのが大前提なので、表現についてそんなに縮こまらずにやっていきたいと思っています。

■新入社員を紹介する社内報の時点から“エロゲー大好き”をアピールしていた

──島田さんはプロデューサーの役職に就かれていますが、もともとは営業職だったとのことなので、特にプロデュースの経験やノウハウがあるわけではないですよね?

島田氏:
 ないです(笑)。新卒でアニプレックスに入社してから7年ぐらいずっと、営業をやってきた人間なので。企画制作という意味ではほぼ経験ゼロです。

──今回の企画を最初に会社へ提出した時に、アニプレックスの社長である岩上敦宏氏の反応は、どんな感じだったのでしょうか?

島田氏:
 僕のほうから「こういうことをやっていこうと思います」というのを見せて、そこで岩上から言われたのは、「クリエイターに還元できるようにしてほしい」ということですね。

 美少女ゲーム、ノベルゲームのクリエイターさんと一緒に仕事をして、その人たちに還元していくなかで、今作っている作品だけでなくいろんな形で、それこそアニメでもなんでもいいんだけど、そういったクリエイターさんたちの力を借りられるといいね、という話はありました。
 僕が出した資料に対して、基本的に「やめろ」とかそういうのはなくて、いちばん最初のお題目として、そういったところだけ意識してくれれば、というところでしたね。

──この企画は社内でスッと通ったんですか? 何か壁にぶつかったとか、突き返しみたいなものがあったりしたのですか?

島田氏:
 それはあんまりなかったですね。もちろん個別に「これ、どうやって売っていくんですか?」といった質問はいただいたんですけど、企画の大枠に関しては、「これじゃダメだ」みたいな意見は特になかったです。

 というか厳密に言うとまず、社長の岩上と面談する機会があったんです。岩上のほうから面談の際に「最近ゲームやってんの?」みたいな話があって。「もちろんやってますよ」と。

 「こういうゲームが面白いですよ」とか「最近はSteamでも売れているノベルゲームがあって」といった話をしていて、そのなかで「自分でも作っていいですか?」と。それで企画を持っていって、みたいな感じだったので。だから本当に、ご理解いただいたって感じですよね。

──そこでパッと「やらせてみよう」と動いていくのは、すごくいい話ですよね。

島田氏:
 社内でも今回の新ブランド発足が決まってから、「好きなことをやれるんだね! 良かったね!」みたいな声をいただくことがあって(笑)。

 好きなことをやろうとする人間を応援してくれる会社だというのは、本当に有り難いです。

──お話を伺っていると、島田さんはそれこそ入社時から、アニプレックスの社内でご自身の美少女ゲーム好きをアピールされていたのですか?

島田氏:
 そうですね。ウチでは新入社員が入社する時に、社内報みたいなものが配布されるんです。
 新入社員がそれぞれ入社前に写真を撮って、自己紹介の文章を書いて、それが4月1日に全社員に配られるんですけど。

 このあいだ先輩社員に「最初にお前の写真を見た時、“うわっ、こいつはないな”と思った」と言われて(笑)。僕の写真は美少女ゲームの箱を自分の横とか後ろに積んでいたので(笑)。

──その写真はぜひほしいですね、記事として(笑)。

島田氏:
 そう思って持ってきたんですよ、絶対に何かの機会で話すだろうと思って(笑)。

──それにしても、新入社員の自己紹介でこれをやるのは、かなりの強者というか。

島田氏:
 学生時代からずっとそうなんですけど、こういうことをやっていると、知らない人が興味を持ってくれるんですよ。「そもそも美少女ゲームって何なの?」みたいなところから始まって。

 僕がそういう時に紹介するのはたいていelfさんの『ボクの彼女はガテン系』ってゲームなんです(笑)。とりあえず名前だったり、そういうところから興味を持ってほしいなと。

 それはともかく、自分でこの写真を振り返ってみて思ったのは、昔からずっとこうだったんだなと。変わらず美少女ゲーム好きで、ずっと好きだと言ってきたところが、自分のバックボーンとしてあるんだなと思いました。

──軸の強さというか、ブレなさみたいなものがあるわけですね。

 これまでいろいろな会社さんを見てきた感じだと、社員に新規事業を担当させるパターンにはいくつかあって。もちろん優秀な人にやらせるパターンもあるんだけど、ピーキーなヤツにやらせてみるというのも、往々にしてあるんですよ。で、意外とそのほうがヒットすることが多いんです。ピーキーであるがゆえに軸が固いというのがあったりして。

島田氏:
 僕自身の自己認識で言うと、自分はたぶんピーキーではないですよね。死ぬほど保守派というか。いつもスーツ着てますし。

──たしかに、ここでお話を聞いていると違和感を覚えませんでしたけど、音楽系の会社であるSMEさんのビルだと、いつもスーツを着ているのはたしかに珍しいですよね。

島田氏:
 入社して最初の仕事が営業職だったので、営業内の慣習として「この期間はスーツを着てね」というのがあるんです。逆に言うとそれ以降は個人の自由なんですけど。
 でも僕は先輩に「一人前になるまではスーツを脱ぐな」と冗談交じりに言われて、いったいいつが一人前なんだろうと思いつつ、ずっと脱がずにいるんですけど(笑)。

 ただスーツというのは、外の世界においてはある種、没個性の象徴みたいな感じになっていますよね。それが社内に入った瞬間に、転じて個性みたいになるっていうのは、面白いなと思っています。

──それは、ピーキーな人の物の考え方のような気がしますよ(笑)。

■『サクラノ詩』のエンディングを見た時に、自分の人生を肯定された気持ちになった

──ここまでのお話を伺っていると、今回の新ブランドが立ち上がったのには、島田さんのバックボーンが非常に大きいように思います。島田さんがいちばん最初にプレイされた美少女ゲームは、どの作品だったのですか?

島田氏:
 学生時代に友達と一緒に旅行に行った時に、その友達がパソコンを持ってきていて、そこにインストールされていたゲームが、『はじめてのおいしゃさん』だったんですよ(笑)。
 ただ、そこでガッツリ遊んだというよりは、その時は「こういうゲームもあるんだな」って。

 それと、たまたまその時に一緒に持ってきていたのが、『ひぐらしのなく頃に』のコミックだったんですね。それを読んでこれも面白いなと思って。
 どうやら、まったく傾向は違うがゲームの大きなカテゴリーとしては、『はじいしゃ』も『ひぐらし』も同じらしいと。

 そこから『ひぐらし』とか、いろんなゲームを遊び始めて。だから最初はエロよりは、いわゆるお話が面白いと言われるゲームをやっていったんです。

──ある意味、コンシューマにも移植されているような“萌えゲー”と呼ばれる作品ですよね。

島田氏:
 最初は「エロゲーって、エロはいらなくないか?」という考え方だったんですよ。それがある段階にまでいくと、「“エロゲー”なんだからエロは必要でしょ」というふうに変わっていくわけですね。
 それでちゃんとエロも描いているゲームも、いろいろやるようになっていって。それが今日にまで至っているわけです。

──ただ、世代的な話で言うと、いわゆる美少女ノベルゲームの盛り上がりがピークだった時期というのは、島田さんがプレイされるようになった頃よりも、少し前だと思うんです。

島田氏:
 まさにおっしゃるとおりで。2004~06年ぐらいやそれ以前も含めて、あのあたりの面白い美少女ゲームが出ていたというタイミングを、僕はリアルタイムには生きられなかった人間なんです。

 リアルタイム感って、すごく大事だと思っていて。
 当時の盛り上がりを経験してきた人たちは往々にして、「オレたちはあの時代を生きてきたぞ」みたいな感じがするじゃないですか。『ガンダム』をリアルタイムに見てきた人たちが、『ガンダム』を語る若者たちにもの申す、みたいな(笑)。

 そういう意味で僕はやっぱり、リアルタイムを生きられなかったし、そのあたりの時期の美少女ゲームを後追いでやっていった人間なので、それ自体は悔しいなと思うところがあったりします。
 でも逆に言うと、2000年代後半から現在も続いている、今のリアルタイムをしっかり見てきたという自負もあります。世間では「昔のほうが面白かった」と言う人もいるんだけど、僕としては「いや、そんなことはないよ」と。

 この2、3年を見渡しても素晴らしいゲームはいっぱい出ていますから。直近でいうと、たとえばOVERDRIVEさんの『MUSICUS!』だとか、Qruppoさんの『ぬきたし』(『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?』)とか。

 それ以外にもいろんなゲーム作品が、それも大きなブランドさんだけじゃなくて、小規模なブランドさんに至るまで、本当に面白い作品が出ているので。そういうリアルタイムに生きられているのは、僕としては嬉しいなと思っています。

──島田さんがノベルゲームや美少女ゲームに対して、ここまで入れ込むきっかけとなったタイトルはあるんですか?

島田氏:
 先ほど申し上げた流れで言うとまず、『はじいしゃ』や『ひぐらしのなく頃に』との出会いがありつつ、自分にとって決定的だったのは『CROSS†CHANNEL』っていう、田中ロミオさんがシナリオを書かれたFlyingShineさんの作品で。これをやった時にもう、人生が決定づけられました。

──ちなみに、コンシューマの移植版ではなくて、PC版ですか?

島田氏:
 PC版ですね。
 本当に『CROSS†CHANNEL』はもう筆舌に尽くしがたいというか。ゲーム全体をプレイし終わった時のあの感覚は、忘れられないですね。

──『CROSS†CHANNEL』以降にも、そういった作品との出会いはありましたか?

島田氏:
 色々な素晴らしい作品に出会ってきましたが、今回の企画の関連でいうと、2015年の『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』という、SCA-自さん、枕さんが作られたゲームは衝撃的でした。

 全部で6章、すごく長い時間プレイして、最後にエンドロールが流れて、一枚絵が出てきて終わるんですけど。それをやった後に、「自分は美少女ゲームを続けてきて良かった」みたいな、そういう幸福感、自分の人生を肯定された感じがすごくあったんです。

 なにしろその足で、『サクラノ詩』をもう1本買いに行きましたからね。
 すでに買って、さっきまでプレイしていたにも関わらず(笑)。「ありがとう」みたいな気持ちが込み上げてきて、いてもたってもいられなくなるわけですよ。
 この感謝の気持ちをどうすればいいんだ、と思って、もう1本買いに行って。おかげで手元には、未開封のパッケージが1個あるわけですけど(笑)。

 だから、遊び続けているあいだに「やってて良かった」と思える作品に出会えているというのが、今までノベルゲームを続けてきていることの1つの理由だと、自分では思います。

■ノベルゲーム固有の面白さは、自分自身で物語を進めた先に得られる“読後感”にある

──最近はあまり語られなくなりましたけど、ノベルゲームって漫画やアニメと比べて何が面白いのか? みたいな話って、今の世代の人はどういうふうに考えているのかな、と思うんです。

島田氏:
 基本的には10年前だろうと20年前だろうと、ノベルゲームの面白さって、あまり変わらない普遍性を持っていると思っていて。
 ノベルゲームにはテキストがあり、イラストがあり、音楽があり、それらが一緒くたに物語を構成していくなかで、そこに対する没入感が生まれるというか。
 あとは物語を自分で進めていく行為ですね。それは選択肢を選ぶということだけじゃなくて、クリックする動作も含めて、自分で物語を展開させていくところの面白さがあるんだろうなと。

 で、この2つはあくまで過程であって。ノベルゲーム固有の面白さって、そういった没入感や物語体験をした後に、エンディングを見た後にやって来る「読後感」なんじゃないかと、個人的には思っています。それを今の若い世代の人たちが、どのように感じているのかは分からないですけど。

──その「読後感」は、たとえばアニメのTVシリーズを最後まで見終わった感動とは、何が違うと思われますか?

島田氏:
 それぞれに違った面白さや魅力がある前提ですが、「観て楽しむ」アニメと違ってゲームは自分で進めなきゃいけないんですね。もちろんオートモードでやる人もいると思うんですけど。
 自分で物語を能動的に動かしているというのが、体験として絶対的に違うのかなと。

 ノベルゲームでは物語の進行に対して、プレイヤーにある種の裁量みたいなものが任せられていて。だからこそ、自分で読み進めていった先に得られる読後感は、映画やアニメといった「観る」作品とはまた違うのかなっていう気がしています。

──島田さんにあえてお聞きしますが、今のノベルゲームの「最先端」は、どのようなものですか?

島田氏:
 2月にTOKYOTOONというブランドさんが、『マルコと銀河竜 ~MARCO & GALAXY DRAGON~』というゲームをリリースされましたが、カートゥーンのアニメーションを取り入れつつ膨大なCG量で展開していくのはすごく新しいと思いました。

 それ以外にも、『ネコぱら』や『きまぐれテンプテーション』で使われている「E-mote」とか、いろんなブランドさんがいろんな演出にチャレンジされていて。
 「最先端」がどのようなものか? と言われても、本当にいろんなやり方があるように思える、という感じですね。

 ただノベルゲームの基本はやっぱり、立ち絵があってビジュアルがあって、自分で物語を進めていくという、その形式だと思うので。すべての演出はそこからどう派生していくか、ということだと思います。

──以前、ビジュアルアーツの馬場隆博社長にお話を伺った時の言葉で印象的だったのは、“萌えゲー”になぜ感動するかというと、女の子と触れあうパートが10時間とか20時間とかあって、そこでずっと触れあっていた女の子が酷い目に遭う。だから感情移入するんだと。

 “萌えゲー”が大人気になった理由として、やっぱりそういった「発明」みたいなものがあったと思うんです。だとすると、今のノベルゲームでそういう発明だとか、これが今までの手応えとは違うという「最先端」は何だろうと。

島田氏:
 共通ルートの中で彼女たちと過ごす時間の積み重ねが、個別に分岐されたルートでより鮮明に感情移入を起こすというのは、おっしゃるとおりだと思います。
 一方で、たとえば、ぱれっとさんの『9-nine-』というゲームは、パッケージを1章、2章、3章、4章と別にして、それぞれが完結したストーリーとして、各ヒロインのお話を描いているんです。

 今までであればワンパッケージの中に分岐があって、ヒロインごとのお話に進んでいくというものだったんですけど、それをパッケージごとに分けて、この巻ではこのヒロインのお話が展開されますよという形です。最近はそういったリリースの形態をとられているブランドさんもいらっしゃいますね。

 20時間から30時間、或いは50時間以上といったプレイ時間を必要とするフルプライス作品だけでなく、10時間以内で終了するような作品も増えている印象です。
 どちらもそれぞれの魅力があると思います。

──やっぱり今の傾向として、ちょっと短めのところに、演出なり表現なりをギュッと詰め込んだテンポ感みたいなところがあるのかなと。アニメも今、テンポが速くなってきているので。

島田氏:
 そうですね。でもたとえば、OVERDRIVEさんの『MUSICUS!』では、キャラのセリフが画面のいちばん上からいちばん下までずっと続いている描写が多いんですが、短いセリフの応酬で作り出すテンポ感とはかけ離れているのに、それが読んでいて圧倒的に心地良いんです。
 時代の流行や傾向とは違うのかもしれませんが、恐ろしいほどおもしろかった。

 この作品は、『SWAN SONG』や『キラ☆キラ』などを書かれている瀬戸口廉也さんがシナリオを手掛けられているのですけど、クリエイターが持つ独自の色で、流行や傾向とは全く別軸のおもしろさを実現している例もいっぱいあると思います。

──ちなみに今回の2作品に関しては、ボリュームはどのぐらいなんですか?

島田氏:
 ライトノベルでいうと、それぞれの作品で2か3冊分ぐらいの分量です。
 プレイヤーの皆さんの読む速度によって異なりますが、両作品ともにプレイ時間の目安としては5時間~10時間くらいになると思います。
 『ATRI』の方が『徒花異譚』よりテキスト量が少し多い形ですね。

■このタイミングでノベルゲームに触れた人が味わえる“今のリアルタイム”を作っていきたい

島田氏:
 あと、最近の潮流であるとすれば、物語やヒロインとの関係をものすごく丁寧に描く作品が増えているかもしれないですね。ヒロインと付き合うまで、ではなく、付き合ってから恋人として過ごす時間もしっかり描写したり。

 それから昔と今とでは、主人公像がけっこう違うかもしれないです。2000年代前半の作品では前髪が長く目が隠れている主人公が多かったと思うのですが、顔やボイスと共に自分の個性を出していく主人公がある時から増えたんじゃないでしょうか。

──お話を伺うと、島田さんご自身としては、スタンダードなノベルゲームの形式に対する思い入れが強いように感じました。 

島田氏:
 僕もなにぶん、どちらかというと古いほうに寄ってる人間なので(笑)。ことさら今の時代の新しい何かというのを意識していないんです。

 今回ブランドを立ち上げるにあたっては、アニプレックスというアニメ会社として取り組むのだから、作品の中にアニメをいっぱい入れたりとか、そういう動的演出を予算をかけて入れていくのがいいのでは? と迷った時期もあるんです。
 もちろん、それが面白さを演出しているゲームもいっぱいあるんですけど、でも僕は必ずしもそれで美少女ゲームやノベルゲームを好きになったわけではなくて。
 あくまでノベルゲームの一般的なあの文体で描かれる物語が、やっぱり好きなんだというところから、自分でも作っていこうというふうになったので。

──ノベルゲームで、もっと広く言うとアドベンチャーゲームで得られる感動って、小説や映画やアニメにはない感覚で。それをある世代以降の人たちはみんな、何かの作品で味わってきていると思うんです。
 それは僕らの世代だともっと古いので、『Ever 17』とかになるし、もっと若い人だと『シュタインズゲート』とかになるし。

島田氏:
 それぞれの世代にとってのリアルタイムがありますよね。

 ANIPLEX.EXEという新ブランドを設立することを通じて、僕らが作っている作品だけではなく、他にもいろんな面白い作品があって、これからもいろんなブランドさんが面白い作品を作っていくんだというのを、改めて知ってほしいなと。
 それによって、今までノベルゲームに触れてこなかった人たちが、面白さに触れてもらうきっかけになってくれれば、これほど望ましいことはないと思います。

 もっと言うと、今の美少女ゲーム/ノベルゲームユーザーの人たちには、「自分たちは2010年代のノベルゲームを知っているぞ」と高らかに誇れるようになってほしいし、新たにノベルゲームに触れた人たちには、これから2020年以降のリアルタイムを体験していってほしいです。

 多くのブランドさんや作品が現在進行形で作っているリアルタイムに、今回の2作品も加わると良いなと思っています。

──先ほど名前の挙がった田中ロミオさんもそうですし、それこそ虚淵玄さんのように、美少女ゲームのシナリオで活躍されていたライターさんが、ライトノベルやアニメ脚本の世界で活躍される例も増えていますよね。

島田氏:
 そうですね。活躍の場を広げられるということは本当に素晴らしいことだと思います。

 個人的な想いとしては、今、美少女ゲームを手がけているクリエイターさんのなかにも面白いものを作られている方々が大勢いるので、そういう人たちにしっかりフォーカスしていきたいと思っています。

──そういった意味で今回は、フロントウイングさんやケロQ/枕さんといった、2000年代後半から2010年代にかけてすごくがんばられていたメーカーさんに対して、意識的に声をかけられたのかな、とも思ったのですが。

島田氏:
 特段、意識したわけではないですが、この時代にしっかり面白いものを作られているメーカーさんが大勢いらっしゃる中で、今回のいちばん最初の企画でお声がけしたのが、システム協力のシルキーズプラスさんも含めた、4社さんだったという形です。

──では今回の4社以外にも、今後一緒にやってきたいメーカーさんがあると。

島田氏:
 今回、第1弾として2作品を発表して、これで終了というわけにはもちろんしたくないので。今後も色々なブランドさんとぜひ一緒にやっていきたいと思っています。(了)

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 1990年代後半から2000年代前半にかけて、『To Heart』『AIR』『Fate/stay night』などの美少女ゲームが大ヒットして、大きな注目を集めた。

 『CLANNAD』『ひぐらしのなく頃に』といった一般レーティングの作品も含めて、これらの美少女ゲームやノベルゲームはアニメ化やコミック化を通じて、ゲームの枠を超えてオタクカルチャー全般へとその影響が広がっていく。

 こうしたゲームを手がけたクリエイターの多くは、アニメやライトノベルなど、美少女ゲーム以外の世界へと活躍の場を移すようになった。
 それと同時に、PCゲームの流通形態が多様化したこともあり、美少女ゲームへの注目度は2000年代後半以降、低下していく。

 だが、そうした状況の中でも美少女ゲームファンの心を捉える作品は生まれ続けていたし、その流れは今も続いているというのが、「ANIPLEX.EXE」のプロデューサーである島田氏の主張だ。
 日本でも今やPCゲーム販売の主流となったSteamを利用して、オンライン流通により最新のノベルゲームとそれを生み出すクリエイターを、世界に向けて紹介する。これまで美少女ゲーム業界の才能をアニメに起用してきたアニプレックスが自ら、今改めてノベルゲームの世界を盛り上げようとしている点も、今回のプロジェクトで注目に値するところだ。

 そしてその背景にあるのが、自身も美少女ゲームの絶大なファンである島田氏自身が、ノベルゲームの世界に「今のリアルタイム」の機運を生み出そうとする情熱である。今回のインタビューでも分かるとおり、プロデューサー自身が“エロゲー好き”なのだから、クリエイターの選択や作品作りにおいて、これほど信頼できることはないだろう。
 2020年代のリアルタイムを切り開くノベルゲームとは、いったいどのようなものなのか、作品のリリースが楽しみだ。

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電ファミニコゲーマー:TAITAI、クリモトコウダイ、伊藤誠之介

最終更新:3/30(月) 11:31
電ファミニコゲーマー

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