新型コロナウイルスの脅威に世界が直面しているさなかに起きた、もう一つの危機がある。
「シリア難民に国境を開放しよう」。2月28日、トルコ政府はEUに対し再三警告してきた言葉を実行した。それと同時に、難民の集団が一斉にギリシャ、ブルガリアの国境に向かった。両国政府は国境検問所を封鎖、警察と軍を送り、催涙ガスや放水車で対峙した。EUからは「難民を利用した脅し」など一斉にトルコを非難する声が上がり、世界的な注目を浴びたEU国境だが、ここ最近の欧州におけるコロナウィルス旋風で、難民の話題は3週間も経ずに吹き飛ばされた。
そもそもトルコはなぜこのタイミングで国境を開放したのか。10年目に入ったシリア難民問題を、トルコとEUとの関係から考えてみたい。(近内みゆき)
トルコに国境開放を決断させたのは、今年2月末、シリア北西部のイドリブ県で、ロシア軍とアサド政権軍による攻撃を受けトルコ兵士30人以上が死亡したのがきっかけだった。
かねてからトルコ国民の間で「なぜシリア人のためにトルコ兵士が死ななければならないのか」という不満が出ており、国民のシリア難民に対する不満が一気に爆発しかねない状況を察知しての政府の判断だったとみられる。また、トルコの「これ以上の受け入れは無理」という度重なる訴えを前に、「深刻な人道危機」と言いながらも積極的に関与しようとしないEUに対する「ショック療法」の意味合いもあった。
紛争が続くシリア隣国の中でも、トルコは910キロという最も長い国境線を接する。2011年のシリア内戦ぼっ発以降、戦火を逃れてきたシリア人を、国境開放政策のもと受け入れ続けてきた。トルコに身を寄せるシリア難民は、いまや360万人。シリア以外の難民を入れると410万人に上り、2014年以降、トルコは世界最大の難民受け入れ国だ。
イドリブ県が陥落すればさらに100万人以上が流入すると見積られている。たとえ流入なくしても、難民の出生率は高く、人口はどんどん増えていく。トルコ国内で生まれたシリア人の子供は過去9年間で52万人に上る。
■試行錯誤のシリア難民支援
トルコは東西の十字路に位置するがゆえに、歴史的に多くの難民や移民を受け入れてきた。古くはコーカサスやバルカンから、80年代以降はイランやイラク、アフガニスタンのほか、最近ではアフリカからも受け入れている。
そんなトルコでも、年に100万人単位での難民の流入はかつてない経験であり、試行錯誤しながらの支援を続けてきた。「シリア難民」と呼ばれるが、トルコではヨーロッパから難を逃れてきた人のみを「難民」という定義にしているため、シリア人は難民条約に基づく正式な「難民」ではない。だが、シリア人に対しては「一時的保護」という特別の身分を与えることで、教育や医療などのサービスを無料で受けることができる制度を整えた。
当初は国内20か所以上に難民キャンプを作り収容してきたが、難民数の増大から、今や難民の98%がキャンプ外で、トルコ全土の様々な地域に居住している。シリアに近い南東部地域では13年以降、シリア人の急激な流入で、アパートの家賃は3倍に跳ね上がった。病院には無料で診察を受けられるシリア人の長い列ができた。こうした中でも、トルコの人々は、隣人の苦境を不憫に思いつつトルコ社会に受け入れてきた。
シリアでイスラム国(IS)が台頭した14年以降は、難民に交じりテロリストもトルコ国内に流入、15年、16年には、国内でテロが相次ぎ400人以上が命を落とした。テロリストは一般人にまぎれており、どこに潜んでいるかわからない。シリア難民支援は、トルコの人々にとって、いわば命がけの人道支援でもあった。
最終更新:3/31(火) 15:40
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