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スポーツクライミングに影を落とす、東京五輪出場基準問題

3/31(火) 7:05配信

VICTORY

 ホールドと呼ばれる突起物をつかみ、クライマーが壁を登っていく。時には遠く離れたホールドへジャンプするように飛びつき、時には天地が逆転したかのように頭が下、足が上の体勢になりながら、常人離れした動きでコースを攻略する。東京五輪で初採用されるスポーツクライミング。華やかさがあり日本勢の活躍も期待されるこの競技は、五輪本番でも大きな注目を集めるだろう。

 だが、そんな期待競技に暗い影を落としている問題がある。五輪出場基準を巡る、日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)と国際スポーツクライミング連盟(IFSC)の対立。昨年11月にJMSCAがIFSCを相手取り、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴したこの問題は、一冬が過ぎ、春が訪れた今になっても解決に至っていない。CASの判断で命運が左右される立場にある選手からは「もやもや感、ストレスは常に感じている」などと切実な声が上がっている。

■曖昧だった五輪出場基準

 問題が起きた原因は、IFSCが五輪出場基準の解釈を途中で変更したことにある。
 2019年3月、IFSCが東京で開いた総会後の記者会見。机の上には、出場基準を説明する資料が置かれていた。要点は以下の二つだ。

(1) 19年8月の世界選手権、11~12月の五輪予選(フランス)、20年の各大陸別選手権で上位に入った選手が「quota place(割当枠)」を獲得する。
(2) quota placeは選手本人に付与される。

 五輪切符には大きく分けると二つの種類がある。条件を満たした選手が個人の権利として手にする「出場権」と、その選手が所属する国・地域に割り振られる「出場枠」。出場権の場合はほぼ例外なく、獲得した選手が五輪代表に自動決定する。出場枠の場合は各国・地域がどの選手を代表にするか、選考基準をつくって任意で選ぶことになる。
 他競技の場合、(1)(2)のような記述がされていれば、ほとんどが「出場権」の解釈となる。クライミングで五輪に出場できるのは1カ国から男女それぞれ最大2人。この解釈ならば、最初の指定大会となる世界選手権で日本勢の2人が上位に入った場合、この2人が出場権を獲得して五輪代表に決定。五輪に出場できる1カ国の上限に達するため、その後の大会では出場権を獲得できないことになる。

 しかし、総会での会見で、IFSCは世界選手権などの上位者に与えられるのは出場権でも出場枠でもなく、五輪出場の前提となる資格(以下「参加資格」と呼ぶ)だと説明。このため世界選手権の優勝者であっても五輪代表には自動決定せず、3大会で「(1カ国が資格を)三つ以上獲得することも起こり得る」との認識を示した。説明にはあいまいな部分も残り、報道陣の質問は相次ぐ。混乱の中、会見は終了した。
 実はこの総会以前から、IFSCが基準の解釈を明確にしてこなかったため、JMSCAを含む各国からは確認を求める問い合わせが相次いでいた。総会で五輪代表は各国が任意で選考するとの方針が示されたため、JMSCAは5月、日本の代表選考基準を作成して発表する。この選考基準を要約すると

(1) 世界選手権の複合決勝で7位以内に入った日本勢のうち、最上位者が五輪代表に決定。
(2) 残る1枠は3大会で参加資格を獲得した選手の中から、20年5月の「複合ジャパンカップ」の結果で決める。

というものだった。
 選手に五輪への道筋が示され、迎えた昨夏の世界選手権。東京開催で地元の声援を受けた日本勢は、期待通りの活躍を見せた。五輪種目の複合で男子は楢崎智亜(TEAM au)が優勝、女子は野口啓代(同)が2位となり、日本の選考基準を満たして五輪代表に決定。男子4位の原田海(日新火災)、女子5位の野中生萌(XFLAG)は参加資格を手にし、残る2大会で同じように資格を得た選手と複合ジャパンカップで争う―。はずだった。

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最終更新:3/31(火) 7:05
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