3月、この卒業の季節に、新型コロナウイルス感染防止のため、多くの学校で卒業式の規模が縮小されたり、実施が見送られたりと、大きな影響が出ています。校庭に間隔を空けて椅子を並べて実施したり、動画配信で卒業証書や式辞を読み上げたりした学校もあり、卒業生はもちろん、教職員や保護者、在校生らにとっても、いろいろな意味で忘れられない3月となりました。
この間、取材でお世話になっている有名高のトップが、卒業する教え子らに向けて語った内容に胸打たれるものがありました。日々、事態が悪化する感染症との闘いの中で、次世代のリーダーたちに贈った言葉をシェアしたいと思います。
私立中高一貫校の男子校・武蔵は今月18日、高校の卒業式を行いました。卒業生と教職員だけに規模を縮小し、時間も短縮しての実施でした。杉山剛士校長は、「それでも、数ある学校の儀式の中で、卒業式はなんとしても実施したいという強い思いがあった」と言います。最後に卒業生たちに伝えたかったこと、それは杉山校長が式辞で述べた「自調自考の精神」と、「公共心の大切さ」でした。
同校では、建学の精神の中でも、とりわけ「自ら調べ、自ら考える力」を重視してきました。杉山校長は、卒業後に続く長い人生の中で、この力を「本物」にしていってほしいと言います。まさに今回の新型コロナウイルスのパンデミックのように、先行き不透明な時代には、自分の頭で考え続けることが何より大事ということです。
そして、学校という同質的な世界から、価値観も育った環境も異なる他者と協働し、対話を重ねていくには、「公共心」が不可欠だと言います。「多様で異質な文化が共生するグローバル社会においては、弱い人たちの立場に共感できる『人としての優しさ』や『寛容』がますます大切になってきます」
最後に、杉山校長が締めくくりに贈った言葉は、「おいあくま」。 怒るな、威張るな、焦るな、腐るな、負けるな、の頭文字をとっています。「中でも怒るな、威張るな、は特に忘れずにいてほしい。今後、もし彼らが逆境にあった時には、それを乗り越えるために、この『魔法の言葉』を思い出してほしいと、卒業アルバムにしたためました」
卒業式の翌日、杉山校長に会いに同校を訪れると、生徒たちのいない校内は静まりかえっていました。武蔵の名物講座「やぎの研究」のヤギ小屋も、住人たちの「疎開」でがらんとしています。
自身も武蔵OBである杉山校長の就任は昨年4月。今回が初めて送り出す卒業生でした。時々ふと、「自分の人生の基盤はやはり中高時代、10代にあった」と思うそうです。年を重ねた後、肯定的に振り返ることができる学校である、というのが母校の大事な点だと話します。
「『自利利他』を併せ持つ人になってほしい。仏教用語ですが、自分のためにやったことが人の喜びになり、人のためにやったことが自分のためになる。そんな生き方ができれば、とても幸せだなと思うのです」
校地内を横切るように小川が流れる自然豊かな校舎を後にしながら、出口の見えない感染症の脅威の中、「自利利他」の言葉の重みを私自身もかみしめました。
最終更新:3/31(火) 13:00
朝日新聞EduA

































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