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待ちに待った江國香織さんの最新作は、今こういうときこそ読みたい小説だ!|『去年の雪』

4/4(土) 11:31配信

本がすき。

“恋愛小説の女王”と世の本読みたちが心酔する直木賞作家の江國香織さん。新作は100人以上が登場する野心的な作品です。「いろいろな人がいろいろ生きている世の中の話を書きたかった」と江國さん。読後、今、生きていることの愛おしさを感じさせてくれる小説です。

みんなが何とか生きている世の中全体を“いいなぁ”と思える小説を書きたかった

新刊『去年(こぞ)の雪』を前に、直木賞作家の江國香織さんは開口一番、こうおっしゃいました。

「本文が始まる前のところに『だけど、去年の雪はどこへ行ったんだ?』と引用したのですが、これは学生時代に読んだ詩の一節で30年以上、ひっかかっていました。昔生きていて、今は死んでいる人はどこにいったのだろう。過去はどこに行ったんだろう、と。
これとは別なのですが……’17年、東京・渋谷で開かれたソウル・ライター写真展に行ったんです。そこで、彼の写真を見ながら、ここに今写っている人はみんな死んでいる人だと思いました。写真はきれいに残っているのに、です。この2つがイメージソースになって、今回の小説は生まれました」

『号泣する準備はできていた』『きらきらひかる』『冷静と情熱のあいだ』『間宮兄弟』ーー。作品は多数ありますが、これまで江國さんは“ある家族”や“ある夫婦”“ある恋人たち”の物語を紡いできました。その物語を通して、言葉になりづらい小さな心の動きを捉えて、的確に生命を吹き込んできたのです。

「これまで私の興味はいつも個人に向かっていました。ですが、今回はいろんな人がさまざまに生きている世の中の話を書きたいと思ったんです。いろんな個人がいる世の中に初めて興味を持ったといいますか(笑)。この世からいなくなった人も、今生きている人と同じ時空間に生きていることを描きたいと考えました。私たちが生きている土地は限られていますが、同じ一つの場所にいろいろな生命体が発生しては消えていくことを、細かく説明せずに、いくつもの物語を重ねていくことで小説にできたらいい、と」

こうして100人以上の登場人物たち(なかには動物も)の日常のワンシーンが切り取られ、折り重なるようにして描かれていく豊潤な物語が誕生しました。

1人目は事故に遭った市岡謙人の話。謙人は“ああ、自分はいま死んでいるのだ”と実感しながら息を引き取りました。2人目は三保子の話。三保子は電話相手と“(電話相手の)友だちの夫の息子が亡くなった”話をしています。3人目は三保子の義理の娘・律子の話。律子は“夏レンコンの肌も皮も白い”と思いながらむき、“あちらとの交信”ができるようになった義母を心配し……。老若男女、生きている人も今は亡くなっている人も、平安時代や江戸時代の人も、時空間を超えて自由自在に行き来しながら物語は編み上げられていくのです。

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最終更新:4/4(土) 11:31
本がすき。

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