新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、疫病退散に御利益があるとして、江戸時代に登場した妖怪「アマビエ」が注目を集めている。ツイッターではコロナ終息を祈願し、自作のイラストなどを投稿する動きが広まる。さっぽろテレビ塔は、非公式キャラクター「テレビ父さん」とのコラボ商品を扱い始めた。
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妖怪研究で知られる福井県文書館の長野栄俊主任司書によると、アマビエは刷り物「瓦版」に描かれ、長い髪とくちばしのような口、うろこ状のもので覆われた体と3本足が特徴。肥後(熊本県)の海に現れ、「今年から6年間は諸国で豊作が続くが、病も流行する。早々に私の姿を写して人々に見せよ」と語り、海中に去ったとされる。この瓦版には「弘化三年」(1846年)と記されている。
当時は「豊作と疫病」を予言し、転写することで疫病を防げると告げる妖怪が複数見られ、アマビエもその一つという。長野司書は「アマビエは子供向け妖怪図鑑に採録されることもあり、妖怪好きには知られた存在だった」と話す。
ツイッターでは2月末ごろから「疫病退散」「コロナが早く終息しますよーに」といった言葉と共に、自作イラストを投稿する人が増えた。
道内でも動きがある。1日に営業を再開した「さっぽろテレビ塔」は、「テレビ父さん」がアマビエになったらという発想で描かれた「テレビエ父さん」のトートバッグやミニタオルなどの関連商品を販売する。
こうした人気について、妖怪に詳しい小樽出身の直木賞作家京極夏彦さんは「(描き写して)『複製する』という能動的行為は、一種の精神的安寧を与える仕組みがある。数ある『予言する怪物』の中でアマビエがチョイスされたのは、魚とも鳥ともつかぬデザインに解釈の幅があり、アレンジしやすいことなどが要因では」と分析する。「新型コロナウイルスに物理的効果は望めないことを理解した上で、多くの人が(アマビエの拡散に)取り組んでいることこそが文化なのだと思う」と話している。
妖怪「アマビエ」がSNSなどで注目されていることについて、小樽出身の直木賞作家京極夏彦さんが寄せてくれたコメント(全文)は以下の通り。
怪物が災厄を予言し「自らの姿を書き写せ」と告げるというスタイルは類型的なもので、アマビエはそのたくさんあるパターンの中のひとつにすぎません。
こうした”幻獣”は信仰として土地に伝わる民俗ではありません。また現れたという記録は残されているものの、実際に現れたことはないものと思われます。
現れたという情報だけが定期的に流布し、記録されるのです。刷り物が一般化し画像の複製が容易になったことも、こうした言説が流行した一因でしょう。
それらは土地に伝わる伝承ではなく、メディアが伝える情報なのです。
予言する怪物は最初から”ビジュアルを含む情報”です。しかも”複製する”という能動的行為を通じて一定の精神的安寧を与える仕組みになっています。
SNSでアマビエが次々に複製されていくことは、ですから至極あたりまえのことだと思います。要はメディアが変わった、というだけのことだからです。
数ある”予言する怪物”の中からアマビエがチョイスされたのは、それがそうした一連のトピックの最後尾に連なるものであること、デザインに解釈の幅があったことが要因でしょう。
オリジナルはたぶん猿なのですが、魚とも鳥ともつかぬビジュアル(たぶん意図的なものではないのですが)は、実に多様なアレンジが可能だからです。
もちろん、こうしたものが流行する背景には日常生活に対する不安や恐怖があります。ですから一概に良いこと、おもしろいこととしてしまうことには抵抗を感じます。
当然、物理的な効果はは望めるものではありません。効果を信じて油断してしまうことは危険なことです。
しかし「効果がないからやらない」のではなく、「知っていてやっている」のであれば、それは心の問題ですし、百年前、二百年前の人々も、それは充分知っていたはずです。
ならばそれこそが「魔除け」ですし、それは文化なのだと思います。
北海道新聞
最終更新:4/7(火) 12:51
北海道新聞






























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