ここから本文です

#MeToo運動の前、小児性愛を公言する作家がもてはやされていた、フランスの現実

4/5(日) 11:34配信

GLOBE+

『Le Consentement(同意)』は、フランス文学界に爆弾を投げ込んだ問題作である。著者ヴァネッサ・スプリンゴラ(48歳)が、著名な作家「G.」に出会ったのは13歳の時だった。両親の離婚後、超リベラルな母に育てられた少女は、出版社で働く母に同伴した席で「G.」の視線を感じて戸惑う。作家は学校の前で少女を待ち受け、文学的な手紙攻撃でその心をつかみ、少女を学校や家庭から引きはがして愛人とした。一体、50歳の魅力的なおとな、しかも有名作家が周到に用意したわなにはまらない13歳の少女がいるだろうか。

「G.」とは、作家のガブリエル・マツネフ。マツネフは定期的にフィリピンへ買春旅行に出かけるような自他ともに認める小児性愛者で、それを題材にした作品で知られる。#MeToo運動を経た今から見ると信じられないことだが、当時は文学なら、芸術なら、何をしても許される風潮があった。

マツネフは1990年、人気文学番組『アポストロフ』にも招待され、もてはやされる。ゲストで唯一、彼の行為を非難したカナダ人女性作家ボンバルディエは、当時の仏インテリ層から袋だたきにあった。

15歳まで関係が続いた後、スプリンゴラは惨憺(さんたん)たる精神と肉体を引きずって放浪の歳月を送った。追い打ちをかけるように、マツネフは彼女との関係を克明に記した「日記」さえ発表。2013年にはフランスの名誉ある文学賞ルノドー賞に輝く。作家が一方的に紡ぐ「物語」に抗して、自分がどう生きたのか、「同意」していた自分を責めるのをやめて真実を「本に閉じこめる」力を得るまで、長い時間がかかった。

映画界でも、同様の動きがある。被害を受けた者たちが大人になり、声を上げるようになった。外部の者は、なぜ今さら?と思う。その問いの立て方は間違っている。今だから、ようやく語れるようになったのだ。

スプリンゴラの作品に復讐(ふくしゅう)の怨念は感じられない。むしろ、書くことで人生を自分の手に取り戻すことを選んだ女性の勇気と聡明さが清々しい。

現在、フランスで15歳前の子どもに性的行為を働いた者は、その子どもの「同意」の有無を問わず、有罪となる。本書の出版を機に、老作家は未成年者への強姦容疑で予備調査の対象となっている。

浅野素女/朝日新聞社

最終更新:4/5(日) 11:34
GLOBE+

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事