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【門間前日銀理事の経済診断】 売り上げ急減業に 過分を恐れず所得補償を

4/6(月) 11:31配信

ニュースソクラ

国債100兆円出しても、コロナから経済守れ

 新型コロナウイルス感染症が世界的大流行となり、世界経済はリーマンショック級の難局を迎えつつある。

 少なくとも短期的な落ち込み幅は、リーマンショックをはるかにしのぐ可能性が高い。米国4~6月の実質GDP成長率は、前期比年率-20%、-30%というような予測が増えている。

 ちなみに、リーマンショック時の米国経済は、最も急速に落ち込んだ2008年10~12月でも-8%だった。

 米国の新規失業保険申請件数は、3月前半まで毎週20万人台で推移していたが、3月21日週には一気に328万人に増えた。リーマンショックの際の最も多かった週が66.5万人であり、その5倍という驚くべき水準である。

 ただし、リーマンショックとコロナショックには性格の違いも存在する。リーマンショックは、それまでの経済成長が持続可能ではない不均衡を抱えていたことに由来するショックであった。過去は否定され、そこには永遠に戻れない。新たな経済成長の源泉を探り当てる、という困難な作業を伴うため、リーマンショック後の経済の回復には長い時間を要した。

 一方、コロナショックは過去の経済構造の否定ではない。

 もともと健全だった経済の活動が、感染症の拡大抑制のため一時停止を余儀なくされているだけだ。感染が収束すれば元に戻ることができる。落ち込みはリーマンショック以上に大きくても、その後は元の成長トレンドに戻る、というのが少なくとも理屈としてはコロナショックの基本的な性格である。

 米連邦準備理事会のパウエル議長も、3月26日の異例のテレビ出演で、米国経済のファンダメンタルズに悪いところはどこもなく、年後半に回復する、と述べている。

 ただし最大の問題は、「感染が収束すれば」という条件が簡単には満たされそうもないことだ。

 ワクチンや治療薬などの対処法が確立されるまで、経済の完全な正常化は難しいだろう。それは数年という単位ではないとしても、数か月で済むわけでもなさそうだ。

 その間に失われる企業や家計の所得は膨大である。かつこの所得ショックは、国民に広く一様に降りかかるわけではなく、一部の企業や雇用を一気に存亡の危機に追い込むという極めて偏りのあるショックだ。打撃の大きい部分に早急に所得補てんを行わなければ、経済の悪循環が止まらなくなり、戻るべき経済を結局失ってしまう。

 現在策定中の政府の経済対策にも、売上や所得が急減している企業や家計への支援措置が盛り込まれる模様だが、重要なのは、届くべきところへ十分な支援を確実かつ早急に届かせることである。

 所得制限や支援対象の絞り込みに慎重を期すあまり、支援の規模が不十分であったり、手続きに時間がかかり過ぎたりしてはいけない。確かにこの種の支援は基準や線引きが難しいが、それを今、徹底的に詰めている時間はない。事態の異常性・緊急性を考えれば、まずは多めかつ広めに支援を届け、実態に照らして結果的に多過ぎた分は、確定申告等で後日調整すればよい。

 もちろん、
  (1)必要なところに十分な支援
  (2)絞り込みすぎるよりは広め大きめの支援
という二つの原則を重視すれば、少なくとも一時的には膨大な規模の財源が必要になるだろう。

 感染症の動向次第では、さらに追加的な支援が必要になる可能性もある。真水で20兆、30兆というレベルでは済まないのではないか。

 この非常事態においては、国債の大幅増発をためらう必要はない。日銀はネットで年間80兆円の長期国債を買うことを基本方針としているが、必要ならそれを超えていくらでも買う用意がある。そもそも今年2月までの1年間は14兆円しか買っていない。50兆円や100兆円の国債増発は十分可能である。

 ただし、緊急の局面を乗り切った後は、中長期的な財政の持続性を確保する努力が改めて課題になる。その際に十分認識しておくべきなのが、今回の国難は国民に一様に降りかかっているわけではない、という先述の点である。

 そもそも人の移動や集まりの制限は、感染の急拡大を防ぎ国民の命を守る手段として行われているものであり、その便益は国民全体に広く及ぶ。

 他方、そのコストは宿泊・飲食・娯楽関連など、一部の関係者に極端に偏る形で担われてしまっている。その意味では、今起きているショックには、大規模自然災害にも似た側面がある。ほとんど傷ついていない人々も大勢いるのである。

 東日本大震災の時は、復興財源に充てるため、復興特別税が導入された。コロナショックも国難である以上、最終的にはその痛みを国民で広く分かち合う、負担能力の高い人々には相応の負担を求める、という考え方を基本に据えるべきであろう。

 そこまで最終財源のあり方を視野に入れておけば、短期的にはいくらでも国債を増発して十分な所得支援ができるはずである。それは、「被災者」を見捨てないという意味で社会正義にかなうし、元の健全な経済構造を壊さないという意味で経済政策として正しい。

 そして何より、経済活動の制限に所得支援を遅滞なく並行させていくことが、感染拡大防止策の効果的な実行には不可欠である。

■門間 一夫(みずほ総合研究所 エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。

最終更新:4/6(月) 11:31
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