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ウイルス克服を演じ、国際アピールする中国

4/6(月) 15:02配信

ニュースソクラ

【経済着眼】一党独裁が危機に強いと自賛するが、抑制の優等生は台湾、韓国

 コロナウィルス感染者数をみると、米国が124,316人と中国の81,439人を抜いて世界のトップに立っている。トランプ大統領は「徹底して検査を続けているため」と釈明している。しかし、ニューヨーク州の1日あたりの感染者数は5日間で倍増して3月26日には6千人を超えた。

 一方、中国では習近平国家主席が3月10日にコロナウィルスの発生源となった武漢を初めて訪問するとともに「感染拡散の勢いをすでに阻止している」と宣言した。たしかに2月11日から2週間の間は、感染死者数が1日あたり100名を超えていたが、次第に減衰して2月25日以降は100人未満に、3月19日以降は10人未満、そして3月26日には武漢を含む湖北省の死者数がゼロとなった。

 当然のことながら、中国政府は徹底的な感染対策の効果だと自画自賛している。いまや中国は、12月から始まったコロナウィルス感染を当初、隠蔽していたこと、初動対策のミスを棚に上げて、コロナウィルスの撲滅において国際的に貢献したいと積極的に支援を拡大している。

 2008年のリーマンショックの際に4兆元の景気刺激策を果敢に実行して世界経済を救ったのと同様にコロナウィルス危機を中国の威信向上の絶好の機会と捉えているようだ。

 中国は3月11日に感染拡大が続くイタリアに医療チームを派遣して、イタリア国民から感謝されている。ちなみにイタリアはG7の中で唯一、中国の「一帯一路」を承認している友好国である。イタリアはコロナウィルス感染で9千人以上の死者を出して、中国を上回る規模に達している。

 中国はイタリアに対して近隣の欧州諸国よりも早くマスク、通風装置を送り、さらに300人の医師団を派遣した。イタリアのマイオ外相は「この困難な時期に我々を助けてくれた恩人のことは忘れない」と最大の謝意を示した。ちなみにイタリアでは感染者数が92,472人、死者数が10,023人と感染者数で米国に次ぐ第2位、死者数でも中国に次ぐ第2位となっている。

 イタリア以外をみても、セルビアのヴチッチ大統領は「中国の同胞の支援がなければ、セルビアはコロナウィルス感染への対処ができない」との支援要請を示した。スペインでも、サンチェス首相との電話会談で習近平主席は「中国は支援供与に最善を尽くす」と約束し、最後に「嵐の後に陽光がさす」との例えで両国が感染抑止対策の終わった後も協力関係を強化する方針を示した。

 このほかにも、国営の新華社通信は、ジャック・マー財団(アリババの創設者であるマー氏が設立した財団)がアフリカ諸国54か国に対して各国当たりテストキットを2万台、マスク10万枚、防御服1,000着を寄贈したと伝えた。

 世界中の人が中国をその隠蔽工作と初動ミスでコロナウィルス世界中に蔓延させた張本人と非難している。それにもかかわらず、3か月に亘るコロナウィルスとの格闘の末、中国経済は世界の中でいちはやく回復しそうである。第二四半期の実質GDPは、前期比8%と急回復すると、オックスフォードエコノミックス社は予測している。

 中国国家統計局が発表した景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)は52.0と三ヶ月ぶりに節目となる50を超えた。前月比では16.3ポイント上昇の急回復である。
 
 生産、消費指数などはまだ明らかになっていないが、景気回復の兆しを示しているとみられるのは、不動産販売、発電所における石炭消費量、都市部における交通混雑の回復、などである。とはいえ、輸出セクターは、コロナウィルス感染の下で欧米や日本など世界中の経済活動が停滞しているため、内需を主体とした景気回復になるであろう。

 それを見越した国際的な資金移動が始まっている。成長予想に加えて米国に代わって安全資産への資金逃避を受け止める場ともなりつつある。非居住者による人民元建て国債は3月に入って急増、過去最高の2.3兆元に達している。

 コロナウィルス感染がピークを越えた中で、中国はコロナウィルス感染で苦しむ諸国に医師の派遣、マスク、人工呼吸器の贈与などの人道支援に力を入れている。習近平政権は、恐れていたコロナウィルスの発生源として非難されることを回避しつつ、対外的な威信の向上にもつなげる、したたかなソフトパワー戦略の展開を始めているとみられる。

 同時にそのソフトパワー戦略に隠された意図として各国に対する政策介入の余地を広げることがあるのも当然である。本来、国際的支援を主導すべき英米がポピュリズムで自国第一主義に陥っていることも中国の影響力増大につながっている。

 コロナウィルス感染の拡大は、これまでの米中二国間関係の悪化にさらに拍車をかけている。両国の首脳は、どこからウィルス感染が始まったか感染拡大の責任はだれにあるのか、に子供っぽく口角泡を飛ばしている。

 トランプ大統領は「米軍関係者が武漢に滞在している時に持ち込んだ」とする中国外務省などの発言に激怒して、「中国の隠ぺいと初動ミスが世界的感染につながった」としてコロナウィルスを「中国ウィルス」と発言して中国サイドを罵倒した。いま必要なのは協働して感染防止策に動くことであるのは自明であるにもかかわらず、中国も米国も大人げない行動が目立っている。

 中国が今月、米国のメディア三社(ウォールストリートジャーナル、ワシントンポスト、ニューヨークタイムス)を北京から追放したことはコロナウィルス感染の抑制に両国が共同して行動することを益々難しくした。米国と中国との関係悪化は1989年の天安門事件以来の危機的水準にあるとも言えよう。

 いずれにせよ、中国側がコロナウィルス感染の発生源でありながらその後の素早い抑止策を自画自賛して国際的非難をかわそうとしているのは自明である。

 中国は、民主主義体制よりも共産党の一党支配という専制政治システムが(強権で都市封鎖などを命令できるなど)抑制に適しているとすら喧伝している。

 中国が人道的支援のジェスチャーにより栄誉を得ても、初期の隠蔽と初動ミスの数々から逃れられるものではない。もし中国が透明性のあるシステムと報道の自由があれば、最初の段階で世界的な感染の爆発を未然に防ぐことができたであろう。

 中国が一党独裁の政治システムが危機に当たって能力を発揮すると自画自賛しても、海外の多くの人々はそうした考え方に賛同はしまい。台湾や韓国などの民主主義国家は中国よりもはるかに効率的にウィルス感染を抑制してきたのである。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:4/6(月) 15:02
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