【ドクター和のニッポン臨終図巻】
新型コロナウイルスの情報に日々、てんてこまいです。感染症病棟は戦場と化しており、その他のニュースへの関心が薄くなっています。しかし、神奈川・津久井やまゆり園殺傷事件の植松聖被告の弁護人が、一審の死刑判決を不服として控訴したことには、被告本人が「控訴をしないと言っていた」こともあり、複雑な思いで受け止めました。(3月30日に本人が控訴取り下げ)
何度も繰り返し報道されてきた、植松被告のあまりにも身勝手な「障害者不要論」。医師として許しがたい気持ちになります。彼がやったことは安楽死でもなんでもない。歪んだ認知の下に行われた、恐るべき殺戮です。もしもこの男が、〈ねむの木学園〉で働いていたのなら、何かが変わっていたのではないだろうか、とふと思いながら、宮城まり子さんの本を読み返したこともあります。
日本にまだ、社会福祉の概念が希薄だった(今もなお、根付いたとは言い切れませんが)、1968年。我が国初の肢体不自由児のための養護施設〈ねむの木学園〉が、静岡県に設立されました。障害を持つ子供たちの芸術の才能に注目し、絵画や音楽の指導を重視したことで、世界的に注目された施設です。
その設立者であり、女優や歌手としても活躍した宮城さんが3月21日、くしくも93歳のお誕生日に亡くなられました。死因は悪性リンパ腫との報道です。
悪性リンパ腫は、血液細胞の白血球の一つであるリンパ球ががん化する病気です。昨年末にフリーアナウンサーの笠井信輔さんがこの病気を公表したことで国民の関心も高まりました。我が国では今、年間3万人が診断されていますが、がん細胞の性質によって70種以上にも分類され、診断に苦慮するがんの一つでもあります。
症状として多いのは、鼠径部や脇の下、首などに出来るしこりです。痛みは伴わない場合がほとんどです。発熱や体重減少、寝汗、全身の痒みやむくみなどを感じる人もいます。気になるしこりがある場合は、まずはかかりつけ医に相談してみてください。
宮城さんは2年前に悪性リンパ腫と診断されたようですが、平均寿命を超えてからの発症ですから、積極的な治療は望まなかったのかもしれません。2月に間質性肺炎で入院されましたが、亡くなる数日前まで、子供達のことを気にかけていたそうです。
〈ねむの木学園〉の名付親は、宮城さんが長年一途に愛したパートナー、作家の故・吉行淳之介さん。学園設立にあたり、宮城さんは吉行さんと3つの約束をしました。「愚痴を言わない」「お金がないと言わない」「やめない」。最期までこの約束を守り続け、吉行さんの元に旅立った宮城さん。恋にも仕事にも完全燃焼の人生でした。
■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。
最終更新:4/7(火) 16:56
夕刊フジ






























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