【企業深層研究】前田建設(上)
ゼネコン準大手の前田建設工業は3月13日、グループ会社・前田道路に対する敵対的TOB(株式公開買い付け)に成功し、前田道路を連結子会社にすると発表した。買い付け上限を上回る応募があり、前田道路株2181万株を861億円で買い付けることが決まった。前田道路株の保有比率(議決権ベース)はTOB前の24・68%から51・29%に上昇し、取締役の選任権限を得る。子会社化後も上場は維持する。
しかし、徹底抗戦した前田道路との溝は大きい。親子ゲンカの経緯を振り返っておこう。
前田建設は1月20日、インフラの更新需要の取り込みには連携強化が必要として、持ち分法適用会社の前田道路へのTOBを表明した。TOB価格は1株3950円。発行済み株式の51%の取得を目指す。ほぼ同時に、前田道路は、前田建設が保有する前田道路の株式を取得し、資本関係を解消すると発表した。TOB「ノー」という意思表示だ。建設業界のみならず、M&A(企業の買収・合併)の世界でも注目される“事件”となった。
親子ゲンカとなれば前田建設が断然有利だ。前田道路の株式の4分の1を握る筆頭株主として、前田道路の首根っこを押さえているからだ。前田建設から株式の過半の取得を目指す敵対的TOBを仕掛けられた前田道路の経営陣は追い詰められた。
前田道路の取締役会では、TOBに対抗するためのホワイトナイト(友好的な買収を行う第三者)選びや、逆TOB、MBO(経営陣が参加する買収)などが検討された。だが、前田建設のTOBを阻止するためには4000億円以上の巨額の資金が必要なことがわかった。投資ファンドを陣営に加えたとしても、逆TOBに要する資金のほとんどは前田道路の借金として残る。結局、断念するしかなかった。
■大規模増配という奇手
万策尽きかけていた。そこで、最終的に選択したのが大規模増配という奇手だった。前田道路は2月20日、今期配当の約6倍に相当する総額535億円の特別配当の実施を、4月14日に開催する臨時株主総会に諮る、と明らかにした。窮鼠猫を噛む図である。
総資産の2割に当たる535億円もの特別配当をすることによって、前田建設にTOBを撤回させることを狙った。TOBの条件に「前田道路が資産の10%に当たる203億円超の配当をする場合、撤回する場合がある」と記されていたからである。配当という形で手持ち資金が社外に流出すれば前田道路の企業価値が目減りして、1株3950円で買収するのに見合わない会社になる。「減損リスクが高まれば、TOBを撤回するかもしれない」と前田道路は密かに期待した。
前田道路の策は「焦土作戦」と呼ばれる買収防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産(保有株式や不動産)や事業部門を手放し、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないようにするため、領土を焼き尽くす軍事上の戦術に由来する。
それでも、前田建設は矛を収めなかった。前田建設は2月27日、TOBの期限を3月4日から同月12日に延長した。すると、同じ日に前田道路は、TOB阻止の二の矢を放った。記者会見を開き、「同業のNIPPOとの資本業務提携の交渉に入った」と大々的にぶち上げた。
NIPPOは石油精製最大手JXTGホールディングス傘下の道路舗装業最大手。空港や高速道路など官庁の大型工事に強みを持つ。前田道路は業界2位で民間の小型工事を得意とする。業界トップのNIPPOと組むことで、前田建設の動きを牽制しようとした。
前田建設はTOBを継続するのか。いったん撤回して戦略を練り直し、新たなTOBに進むのか。
■抗争が残した深い爪痕
前田建設は強行突破を図ることにした。TOBの目的を「総合インフラ事業を目指すため」と説明している。今後、高速道路などの改修・補強工事は目白押しだ。インフラの更新需要を取り込むには、親子一体となった受注活動が必要不可欠となる。財務リスクが高まるからといって、手を引くわけにはいかないのだ。
前田道路は戦いに敗れ、前田建設によるTOBは成立した。前田建設は勝利したものの、抗争が残した爪痕は深い。関係の修復は可能なのだろうか。親子ゲンカはなぜここまで、エスカレートしたのか。次回はそれを検証する。
(有森隆/ジャーナリスト)
最終更新:4/8(水) 9:26
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