拡大する新型コロナウイルス禍にあって、3月の大相撲春場所が無観客ながら15日間完遂されたことは、ミラクルの形容がふさわしい。日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)が初日と千秋楽の協会あいさつで触れたように、静かな館内で黙々と力士が四股を踏み、取組を務める姿は、大相撲の神事的な側面を再認識させた。場所後には26歳の朝乃山が新大関になった。今回の昇進劇はいつにも増して、単なるスポーツではない、伝統文化としての大相撲を感じさせるストーリーへとつながっていた。
3月25日午前、昇進の使者を迎えた朝乃山が「相撲を愛し、力士として正義を全うし、一生懸命努力します」と伝達式で口上を述べた。テレビのニュースやワイドショーなど、メディアにも多く露出した。会場となったのは、高砂部屋の春場所宿舎でもある久成寺(くじょうじ)だ。実は37年前、朝乃山の師匠、高砂親方(元朝潮)も同じ久成寺で大関昇進の伝達式を行っていた。師弟が時代を超え、歴史ある同じ場所で看板力士になることを宣言するという奇跡的な一幕だった。
「大ちゃん」の愛称で親しまれた師匠は現役時代、巨体を生かした馬力を武器に活躍。愛嬌のある風貌もあり、人気を博した。2002年に高砂部屋を継承してからは朝青龍を横綱に育て上げたが、朝青龍が暴行問題の責任を取る形で2010年に電撃引退した出来事もあった。逆境に陥りながら、親方はその後「定年までにまた横綱、大関を育てたい」と目標を掲げていた。今年の12月に65歳となり、日本相撲協会の定年を迎える。後述するような確かな指導法を貫き、ラストイヤーに朝乃山の昇進で見事に夢を実現させた。
伝達式のシーンで、部屋の奥に多くの手形が押された掛け軸が存在していたのにお気づきの方がいたかもしれない。部屋関係者によると、これは元横綱朝潮で先々代に当たる5代目高砂親方から、久成寺の先代住職に贈呈されたもの。第42代の鏡里から第60代の双羽黒まで、存命していた歴代横綱17人の手形が記されている由緒ある代物だ。土俵の鬼と呼ばれた初代若乃花や大鵬、北の富士、千代の富士らそうそうたる日下開山たちのものが集まっている。これまで未公表だったが、晴れの舞台ということもあり、特別にお披露目となった。貴重なものがさりげなく飾られている点は、高砂部屋の懐の深さを象徴している。
最終更新:4/8(水) 7:06
VICTORY






























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