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そのとき、何を思い、何をしましたか? 第1回 劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたちが語る

4/21(火) 19:00配信

ステージナタリー

2020年2月上旬。ステージナタリーで初めて、「新型コロナウイルスの影響による公演中止」のニュースを出した。そこからほぼ連日、多いときは日に十数公演の中止や延期のニュースを、編集部は書き続けている。

【写真】上田誠(メディアギャラリー他19件)

そして4月7日。政府の緊急事態宣言の発令を受け、劇場が“休止要請対象”になって以降は、舞台はまるで長い眠りに入ったかのように、ぱったりと息を潜めてしまった。毎日あれほど舞台をにぎわせていたクリエイターや俳優、そして劇場を支えるスタッフたちは、今、どのような思いを持ち、どのような日々を送っているのか。そして、劇場に詰めかけていた観客たちは?

この記事では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、さまざまな決断をすることになった、全国の舞台人たちの声を数回にわたって紹介。“自粛”要請の中、公演続行か中止かで苦悩した人たち、緊急事態宣言により初日目前で中止を余儀なくされた人たち、稽古さえできずにいる人たち、この状況下で新たな表現の形を模索する人たちなど、それぞれ異なる事情を抱えた舞台人たちに、「そのとき、何を思い、何をしましたか?」と問いかけ、思いを語ってもらった。

第1弾では、劇作家、演出家、俳優らがアンケート形式で寄せたコメントを紹介。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大状況が舞台界にどんな影響を与えたのかを考える。

舞台へ熱い思いを寄せる彼らと、また劇場で再会できる日を、楽しみにして待とう。

■ 【舞台人たちが思いをつづる】
17名の舞台人たちが抱いた、それぞれの思いとは。

□ 上田誠(劇作家・演出家 / ヨーロッパ企画)
稽古残り1週間のところで全公演中止になりました。東京初日が4月9日の予定だったんですが、周りの状況から、うちもそうなるかも、という思いはありました。とはいえ稽古場ではそんなこと忘れて稽古するのですが。

中止の報を受けたあとは、いつか復活公演をやりたい思いから、その布石となるようなものを残しましょう、とプロデューサーチームと話し合いました。同時にキャストたちの間でも、なんとなく今までなかったグループラインが立ち上がりました。重ねてきたことが急に断たれるのが、みんな違和感あったのかなと思います。

そして、途中経過報告コンテンツサイト「こんてにゅうや」が、初日が開くはずだった夜に立ち上がりました。連日、動画や読み物をアップしていき、作っていたグッズも販売し、東京千秋楽をやるはずだった日に、リモート生配信をキャストみんなでしました。ゲームの劇だったので、パスワードをうまく保存できたことを願っています。

□ 江本純子(劇作家・演出家・俳優 / 毛皮族・財団、江本純子)
2月下旬、今上演する内容としてこれでいいのか?と違和感が拭えず、「旅」をモチーフにした構成台本を一旦放棄。
3月上旬、小豆島にて滞在創作。出した結論は「演劇のこと、考えない」。
3月中旬より、会場の半野外のガレージで、俳優たちと共にキャンプ生活を始めた。
「演劇やってます」ではなくて。「わたしたちはここにいる」で。
今の世界状況の影響をもろに受けたうえで行っているわたしたちなりの行動を、その姿を、日ごとに提示していくのはどうだろう。半年にわたる創作の変遷を共有した俳優たちを信じて、即興で世間と対峙するための、作品。台本、ない。いいね。上演ではない。いいね。
3月下旬、東京都から週末の外出自粛要請が出されたとき、わたしたちは訪れた観客と共にガレージにいた。ロックダウン宣言があったら? 観客は1人も来ないとわかったうえで、わたしたちはその後も3月31日まではガレージにいたはず。離脱する俳優はいたかもしれないけど。
これが4月だったら? そこにいることはせず、家にいたはず。

わたしを信じて | 江本純子 JUNKO EMOTO

□ 小川絵梨子(演出家 / 新国立劇場 演劇芸術監督)
2月、「ART」の稽古中でしたが、その頃は「公演はできるだろう」と正直に言えば事態を甘く見ていました。その後、感染がさらに拡大し事態がより逼迫するにつれ、スタッフ、キャスト、観客の方々の安全を考えても公演や稽古の続行は難しいと肌で感じました。新国立劇場では都の要請と文科省の判断があり、4月の頭に劇場閉鎖となりました。その後、劇場がこの先に向かって動いていることを見ていただきたい&自分たちもそれを感じていたいと思い、演出家のリレーメッセージと巣ごもりシアター「おうちで戯曲」を発信しました。また劇場が再開できてからにはなりますが、作り手の方々の活動の場や機会をもっと作れないか考えています。何よりも自分の弱さを目の当たりにしましたが、今回のことで、人間性や社会での演劇のあり方などさまざまな側面が顕在化されたような気がしています。不安の中で批判ばかりが目につき落ち込んだりもしますが、これから何が必要で、何を捨てるべきで、何を信じて、何を恐るべきではないのか、未来に向けてどうありたいのか日々考えます。

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□ おぼんろ
ちょうど稽古開始が3月半ば。運に身を任せて準備を始めるか、早めに中止を決断するか。直前の中止は観客も仲間も深く傷つけると思っていました。コロナの危険度について僕らは一番最悪な説を信じ込んだうえで選択をすることにしました。考えあぐねた結果、観客を劇場に呼ぶことはやめ、新たな演劇を生み出すことにしました。突き詰めると僕の演劇の定義は「同じ時間に、同じ物語の中でみんなで過ごすこと」です。

新たな手法創りに半月ばかり奔走した4月頭頃、どうやらカンパニーのみんなを稽古場や劇場に集めることすらやめるべきだと思いました。けれどもう中止の選択はありません。物語の中で待ち合わせる、観客と交わしたその約束を違えることは絶対にしまいと方法を探りました。結果、僕らも誰も会わずに上演を行うスタイルにたどり着きました。この非常事態に僕らは、物語が不滅であることを信じるという物語を紡ぐ機会を与えられたのだと思っています。

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□ 國武逸郎(ミュージカル・ユニットWAO)
劇場封鎖で俳優・スタッフが仕事場を失っています。またお客様も観劇の機会を奪われています。「演劇を作りたい」「楽しみたい」という思いは募るばかりなのに、それが叶う唯一の空間が閉ざされ、満たされずに、ネット上で叫びやため息となってあふれています。

「この2つの思いを、ここで結びつけよう」。そう思い立ち「eミュージカル」の企画を立ち上げました。ネットでの楽曲製作は過去に経験済み、俳優の方々もSNS上で独自の配信を行っており、アイデアを実行できる土壌があったことが味方しました。

外出できない苦しさは、人と直接顔を合わせる機会が減った現代に生きる私たちが、日頃から感じている寂しさ、息苦しさに似ています。だから、劇場ではなくあえてネット上という「私たちの居場所」で作品を上演することにも、大きな意味が出てくるのです。eミュージカルは演劇の代替ではなく演劇そのものだと信じて、開かれている唯一の「劇場」で上演を始めています。

eミュージカル「Hear my song」「無人島deサバイバル」 (@e_m_Hearmysong) | Twitter

□ 桑原裕子(俳優・脚本家・演出家 / KAKUTA)
5月に上演を予定していたKAKUTAの若手公演・カクタラボ「明後日の方へ」は延期になりました。4月の稽古場が閉鎖されたことから話し合いが始まり、「西山さん(作・演出の西山聡氏)の芝居は笑いが重要だけど、今は純粋に楽しんでもらえる環境を提供できない」ということが延期の決め手となりました。しかし、完本したばかりの脚本を読まずに終わるのが嫌で、予定していた顔合わせと本読みをZoomを用いてリモートでやることに。それが思いのほか面白く、劇団員と私の過去作を読み合わせして遊んでいました。そのことをSNSに書いたところ、ぜひ見たいというお客さんの声がいくつも寄せられ、戯曲公開の代わりに読み合わせ風景をアップすることにしました。今はその様子をYouTubeでライブ配信などもしています。生とは比べものにならないけれど、こんな形でも演劇に触れているとやはり、少し元気になるのです。

KAKUTA | News & Topics

□ 小山ゆうな(演出家・翻訳家)
明治座「チェーザレ 破壊の創造者」演出のお話を頂いたのは3年前だった。
オリジナルミュージカルだ。惣領さんの原作を読み解くところから始まり、荻田さんの台本・島さんの音楽、キャスト・スタッフ決め等準備は長時間にわたった。
稽古が始まると、中川晃教さんはじめ豪華なキャストが集結、皆が意見を戦わせながら作品は育った。
衣装付き通し稽古が終わり
面白い作品になりそう!という手応えをしっかり残し
いよいよ作品が急成長していくというまさにそのときに
稽古は中断された。
数日後、苦渋の選択として明治座さんは公演中止を発表。「改めて本公演を」という延期の意味を含めた中止だが、
会って挨拶することも叶わずチームは解散した。
演劇は千秋楽と共に解散することが魅力の一つだが、初日も迎えていない作品が解散した。
衝撃だ。この体験をした舞台人たちの傷は深いのではないだろうか。
何年も費やされた明治座制作チームの無念の思いは計り知れない。
演劇界だけではない。
涙を飲んでいる人々がたくさんいる。まさに今、命がけで働いてくださっている方々もいらっしゃる。感謝し、祈り、劇場が再び開かれる日のために準備は進めつつ舞台芸術の未来について皆で知恵を出し合い考えていきたい。

小山ゆうな yuna koyama 2020/4「チェーザレ」明治座 (@unarou) | Twitter

□ 白井晃(演出家 / KAAT神奈川芸術劇場 芸術監督)
自身の演出作品が3連続中止になり、そのたびに身を切られるような苦しさを覚えた。3月の段階では上演は続行するべきだと主催者に主張し続けてきた。新型コロナが恐ろしいのは、病状だけでなく、人を不安にさせる感染力の強さだと感じる。普段劇場に来ない人たちが劇場は危険だと言い出し、表現する側も不安を感じ及び腰になっていく。この時点で継続は難しいと感じ始めた。4月の緊急事態宣言ですべてがアウト。そのときの心境は茫然自失、終わったと。表現者にとって、表現の場を失うことのつらさを、俳優、スタッフと共有する。今は何とか奮起して、この状況でできることをやろうと考えている。いろいろな発信手段があるし、これから劇場や演劇の考え方が変化していくのかもしれないとも思う。ただ、それは次世代に任せ、私はやはり表現者と観客が居合わせることにこだわりたいから、劇場に人が集まり再開できるまでしっかり準備して待ちたいと思っている、今は。(2020年4月15日)

□ 谷賢一(作家・演出家・翻訳家 / DULL-COLORED POP)
私の劇団DULL-COLORED POPでは、5月に予定されていた1カ月連続の演劇イベントを丸ごと中止する運びになった。中止の決め手となったのは、感染拡大への恐怖でも、観客の安全への配慮でもなく、世論の過激化、その恐ろしさである。まだ緊急事態宣言が出る前の3月末でさえ、イベント主催者や外を出歩く者は「いくらたたいても良い」ような風潮があった。同調圧力が高く、周囲に同じ振る舞いを強要するこの風潮は、日本の良さでもあり、恐ろしさでもある。善意が暴走し、圧力として人にのしかかる。こんな中で公演の宣伝や告知などできるわけがない、恐ろしい、と思って公演中止を決めた。

それから半月が経ち「圧力」はさらに増している。そしてコロナの封じ込めに関して言えば、政府はその人々が発する「圧力」に頼りっきりで、適切な補償をいまだに言い出さない。演劇だけを特別扱いせよとは言わないが、自ら進んで自粛に協力した者に対して適切な補償を施すのは当然のことではないだろうか。

□ タニノクロウ(劇作家・演出家 / 庭劇団ペニノ)
ペニノもこれまで公演の中止が続き、今夏から続く国内外の公演が難しくなりました。私はこの状況になってまず、今までお世話になって来たお客さまたちにメールを送りました。ペニノはメルマガをやっていないので、急に私からメールが届いて、驚かせたかもしれませんが、これまでの感謝と、また作品をお見せしたいという思いをただ伝えました。 庭劇団ペニノには超ハードコアなファンがいます。2000年に創設して20年間、脇目も振らずマニアックなことだけをやってこられたのはそんな方たちがいてくれたからです。そしてこれからは、今まで定期的に行っていた「俳優向けの説明会」をオンラインで続けていくことを考えています。これまでも私は演劇の本質、俳優の本質とその可能性を伝えてきました。それはこのCOVID-19が変革させる新しい社会の中でこそ、重要な捉え方だと思っています。定期的に行う予定ですのでお気軽にご参加ください。俳優じゃなくても、誰でも大歓迎です!

□ 中川晃教(シンガーソングライター・俳優)
2月24日にミュージカル「フランケンシュタイン」大阪公演千秋楽を幸いにもどうにか迎えることができ、マスクをして、新幹線に乗り、感染しないように気を付けて移動しました。マネージャーからは、「あなたの代わりはいないのだから、自覚を持ち、予防を万全にし、行動するように」と言われ、はっとしたのを覚えています。
この先の舞台やコンサートに向けて万が一、自分が感染してしまったら大変なことになるという自覚を強く持ちました。予防を徹底しながら、コンサートのリハーサルと、ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」稽古などを開始。
コンサート中止を知ったのは本番の2日前。
すぐにTwitterのライブ配信機能で、何かできないかと準備を始めました。
ピアノとiPhoneさえあれば、ファンの皆さんやお客様に、歌を届けられる。そう思って、愕然としているよりも、心の軸をしっかりと持って、先を見つめていこうと思いました。
主催者、並びにスタッフ、ホールの方々、ミュージシャン、そしてお客様、それぞれの立場で、地道にできることを積み重ねていくしかない。
緊急事態宣言が続く中、劇場封鎖に伴い全公演中止が続くこの今。僕は、あらゆるものと調和していきながら、強い信念で、「感動」を届けていくことは何かを模索しながら、今一番にできることを実践していきます。

□ 野村萬斎(狂言師)
3月20日、25日に、主宰の「狂言ござる乃座」公演で、長男の裕基に「奈須與市語(なすのよいちのかたり)」初演の舞台を勤めさせる予定でした。狂言の修業における重要な演目の1つで、ほぼ相伝し終え、本番に向けての仕上げに入るという時期に、感染症が拡大し、公演開催自体について悩むこととなりました。

都内最大の国立能楽堂でも集客数は600人。3月中は対策を取りながら開催された能会もあり、裕基のモチベーションが高まっている今この時に、予定通り、狂言師としてステップアップする経験をさせたいという思いが強くありました。ギリギリまで開催する方策を考えましたが、結局3月12日に延期を決断しました。

1つには春の選抜高校野球が中止になったのが大きかったです。裕基と同じような若者に我慢をさせないといけない状況にハッとしました。また、気合の乗った晴れの舞台を、周囲に疑心暗鬼しながらではなく、集中して楽しんでいただくために、時期を改めたほうが良いという結論に至りました。

4月、さらに事態は悪化し、ますます多くの方が困難に見舞われ、我慢を強いられています。こんなときだからこそ、狂言師が常日頃感じている“笑い”のエネルギーを自ら獲得することを皆さんに提案したいと思い、「うちで笑おう 狂言の笑い」と題した動画をTwitterで発信しました。今、できることは何か。その積み重ねで能・狂言も650年つながってきたと思います。今後もできることを考えながら発信を続けてまいります。

野村萬斎@狂言ござる乃座 - YouTube

□ 平原慎太郎(ダンサー・振付家 / OrganWorks)
3月6日~8日で「HOMO」という公演を行いました。
奇しくも「絶滅する人類の三日間」を踊りで表現するもので、作品構想に1年半を費やしたものだったので奇妙な落胆がありながら、これは公演を止めてはいけないという愚かながらも個人的な意欲が起こり、すでにチケット購入したお客様の意思とカンパニーの意思を尊重させました。
創作・稽古が進むに連れて状況が刻々と変化し、公演企画者としての立場でも緊張感が日に日に増し、お客様への対応を配慮しながら公演を準備しました。
上演した公演の内容はこういうものでした。
簡略化、記号化を進めた人類は感性が著しく低下し、逆にそれに特化した新人類に個体数を譲ることになる。
新人類は人類に対して生きるヒントの共有を図るが人類はそれを拒否。
しかし、最後の1人が目の高さより高い位置にかかった虹に改めて気が付き視野が広がり、新人類の声に耳を傾けるというものでした。
今はコロナウイルス終息後の世界でどういった表現を行うか。
その準備を行う日々です。

□ 細川展裕(劇団☆新感線 エグゼクティブプロデューサー)
2月26日。その日、日本のライブエンターテインメントは死にました。
「スポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。」(安倍晋三)
演劇は、興行という社会的形態をもって完結する芸術表現です。その興行が、失われました。私は「令和の2.26事件」と呼んでいます。私たちは上演中の公演、全68ステージの内48ステージを失いました。一体いつまでそれは失われてしまうのか。あるはずだった出会い、感動、創造。果てしない閉塞感です。
いつになるかまだまだ不透明ですが、また興行に向き合えるそのとき「情熱」と「信頼」を私達が失っていないことを希望します。

□ 前田司郎(作家・劇作家 / 五反田団)
24年間演劇をやってきて、初めて公演を中止した。特に感慨はない。こういうこともあるだろうって感じだ。中止を決めてから2週間近く経ったが、遊びに行けないこと、友達に会えないこと、収入がまったくなくなったこと以外には、不思議なほど、喪失感がない。あんなに準備して、楽しみにしていた演劇の公演を中止したのに。
考えるに僕は、今も次の公演の準備をしてるし、次の小説を書いてるし、もし公演が行われていたとしても、やっぱり次の公演の準備をし、小説を書いていたからだろう。でも役者のことは心配だ。僕は1人でも書けるが、役者は1人では演じられない、客が必要だから。
コロナはマジでやばいけど、これがひと段落したら、少しだけ世界が良くなりそうな気もする。そのために払った犠牲のことを考えると楽観的なことばかりも言ってられないけど。世界が良い方向に向かいますように。

五反田団『愛に関するいくつかの断片』
前田司郎 (@maeda1977) | Twitter

□ 麿赤兒(舞踏家・俳優 / 大駱駝艦)
当初は、よその国、対岸の火事だろうと、高をくくっていたら、見る間に我が壺中天公演・松田篤史振付・演出「まだら」の公演中止を決定せざるを得なくなった。大駱駝艦のいくつかの公演も然りだ。
何やら不気味な様相を予感してはいたが……。
自然発生的なものか、あるいは不埒なバイオマニアによるテロか、それともウイルス研究者によるちょっとした手違いかなどなど、想像を巡らせたりしたが、そんなもろもろも直ちに吹っ飛び、右往左往だ。
原因はどうあれ、この事実はまさに世界を「劇」以上の劇的世界に変えてしまった。
今、私は人類の極小と極大の断面をのぞき見ているのだ。
死にまつわるさまざま、「死の舞踏」などを思いながら、手洗いとうがいをし、マスクで世界の片隅を歩んでいる。

□ 矢内原美邦(振付家・劇作演出家 / ニブロール)
公演が2つほど中止になり悔しい!というより、しょうがない……という気持ちのほうが強かったです。海外のアーティスト支援と比べた投稿をSNSなどでよく見ますが、私たちはいつも自分たちの公演をすること、チケットを買ってもらうことに追われすぎていたかもしれない。という気付きがありました。海外で盛んに行われている、アーティスト自身が自主的に活動する「アーティストラン」を運営する友達に、この状況でどんな活動をしているのかと電話で聞きました。すると、オンラインのワークショップ、作品アーカイブのWeb一般公開、一人朗読、ソーシャルディスタンスを保った老人介護施設の中庭でのボランティア公演、オンラインミーティング、メッセージリレーなどの社会活動を行っているとのことでした。こういうとき時だからこそ、じっくりと考え、日常的に社会に存在できるような舞台芸術活動を、日本でも前向きに始めてみようと思っています。アーティストや舞台関係者が社会にできることは多くあるように改めて感じています。

(以上、五十音順)

■ 【舞台が受けた影響を考える】
ここでは、新型コロナウイルス感染拡大によって、舞台界がどのような影響を受けたかを振り返る。

ステージナタリーで紹介した延期・中止公演一覧

□ 瞬く間に感染拡大した新型コロナウイルス
2020年1月に中国・湖北省武漢市で感染拡大した新型コロナウイルスが、世界で猛威を振るっている。日本でも1月16日に神奈川県で国内初の患者が確認されてから、その数は3月中旬の連休を境に日に日に増加。4月17日には東京都での1日の感染者が200人を超えた。

新型コロナウイルス感染拡大の衝撃は舞台の世界にも暗い影を落としている。人が密集し、長時間滞在する舞台表現は、集団感染を引き起こす要因の多さから、公演の実施・中止・延期の検討が主催者に委ねられた。また、渡航や入国に制限が出てきた2月中旬には、上海歌舞団の舞劇Dance Drama「朱鷺」、バットシェバ舞踊団「Venezuela」といった来日公演が早くも中止となる。

□ 舞台は次々に中止
さらに、2月26日に厚生労働大臣が示したイベントに対する「中止、延期又は規模縮小等の対応」要請を受けて、都心部を中心に2月後半からさまざまな公演の自粛判断、中止・延期の報が届くように。急きょ公演を中止した「Endless SHOCK 20th Anniversary」、「絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』」、ミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」、劇団☆新感線「偽義経冥界歌」「泣くロミオと怒るジュリエット」、劇団四季公演のほか、伝統芸能では国立劇場公演、東京・大阪で予定されていた歌舞伎公演などが3月中旬頃までの中止を発表する。また、開幕前だった「カノン」は全日程、2月28日に初日を控えていた「お勢、断行」は開幕前日にツアーを含むすべての公演中止を決めた。一方、宝塚歌劇団はサーモグラフィの設置や換気を強化するなどの感染予防対策を施したうえで、上演の再開と中止を繰り返す。感染予防については宝塚歌劇団だけでなく、小劇場から商業演劇までの公演で、体温検査や消毒液の設置、観客の着席間隔を空ける、体調が悪い場合は来場を控えるよう呼びかけるなどの対応が見られた。

東京では3月28・29日に始まった週末の外出自粛要請を皮切りに、公演再開の延期が続々と公になる。公演続行する団体もあったが、すでに東京公演がスタートしていた「ミュージカル『刀剣乱舞』~静かの海のパライソ~」の一部日程、4月以降に上演を予定していたウーマンリブ「もうがまんできない」東京公演の一部日程、KERA meets CHEKHOV「桜の園」の一部日程、「ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート」東京公演の一部日程が中止に。熊川哲也率いるKバレエカンパニーは、観客、ダンサー、スタッフなど関係者の安全を最優先とし、レッスンやリハーサル活動を休止したほか、Kバレエスクール、スタジオを休業、4月末までの活動を停止する意向を明らかにした。

□ 映像配信、新たなフェーズへ
また、この頃から上演の代わりにSNS・動画サイトを通した映像配信が活発に行われるようになる。開催が中止になったSPAC主催「ふじのくに→せかい演劇祭」では、海外アーティストとSPAC芸術総監督・宮城聰のスペシャルトークや映像作品の配信をコア企画とする「くものうえ↑せかい演劇祭2020(World Theatre Festival on the Cloud)」の実施が発表された。新国立劇場は、過去公演の映像を無料配信する「巣ごもりシアター」をスタート。その企画の1つ「おうちで戯曲」では過去に新国立劇場に書き下ろされた戯曲数編が公開される。さらに歌舞伎界では「明治座 三月花形歌舞伎」出演者による座談会、劇場で収録された「スーパー歌舞伎II 『新版 オグリ』」「三月大歌舞伎」の舞台映像などが配信され、このような事態に可能な手段を使って何を届けるかが模索されていく。

4月7日には日本政府が緊急事態宣言を発令。これにより、埼玉・千葉・東京・神奈川・大阪・兵庫・福岡の各都市では公演中止・延期が相次いで発表された。主には、「アーリントン」などのKAAT神奈川芸術劇場公演、市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露公演、PARCO劇場オープニングシリーズである「ピサロ」一部日程と「佐渡島他吉の生涯」、ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」、シアターコクーン・オンレパートリー2020「母を逃がす」、そして他道県での地方ツアーを含むミュージカル「エリザベート」「ミス・サイゴン」「モダン・ミリー」「ジャニーズ銀座2020 Tokyo Experience」、ブロードウェイミュージカル「ニュージーズ」、シス・カンパニー公演「ケンジトシ」「スーパー歌舞伎II(セカンド)ヤマトタケル」などだが、この時期には「十分な準備期間が得られないため」「カンパニーによる都市間移動を避けるため」などが中止の理由として挙げられるように。また、振替公演を実施予定だった日本キャスト版のミュージカル「ボディガード」とミュージカル「VIOLET」、さらにはこれまでの要請で一部の公演中止を発表していた演目が、ほぼすべての公演の実施を断念した。

4月16日、日本政府は緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大。前代未聞の事態が今なお続いている。

※「ふじのくに→せかい演劇祭2020」「くものうえ↑せかい演劇祭2020」の「→」ならびに「↑」は、各方向への相互矢印が正式表記。

構成 / 大滝知里、興野汐里、熊井玲 文 / 大滝知里(P3)

最終更新:5/12(火) 19:25
ステージナタリー

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