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医系技官がPCR検査抑制の元凶

4/26(日) 16:32配信

ニュースソクラ

【医療の裏側】沖縄・徳田氏モデルが現実的だ

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらず、状況は刻々と変化しているのに臨機応変の医療対策が出てこない。最大の問題は、厳しい基準を設けてPCR検査を受けさせない厚生労働省の対応ぶり。医療現場の混乱は深まる一方だ。

 安倍首相は四月上旬に「PCR検査はなぜ増えないんだ」と加藤勝信厚生労働相や西村康稔経済財政・再生相らとの協議で不満を洩らしたが、「同席した厚労省の医系技官から明確な返答はなかった」と日経新聞(4月11日付)は伝える。

 厚労省は、PCR検査を受けるに当たり、「37.5度以上の熱が4日以上続く」場合に「新型コロナ受診相談センター(保健所)」に相談し、「帰国者・接触者外来及び帰国者・接触者外来と同様の機能を有する医療機関」などでPCR検査を実施という基準をまだ変えていない。これには医療現場からも不満の声が噴出している。

 医師免許を持つ医系技官たちは、政治から一定の独立性を保って政策を立案する。

 2017年に次官級のポストで新設された医務技監には慶應義塾大学医学部卒の鈴木康裕氏が就いている。鈴木氏は、2009年には厚労省新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長を務めており、感染症の専門家といえよう。

 PCR検査を増やして軽症者の入院が増え続けたら重症患者に手が回らず、「医療崩壊」を起こすと懸念し、検査数を絞り込んだとみられる。

 しかし、検査を受けていない感染経路不明の感染者が激増し、そこから重症者が増えた。重症者が近隣の一般病院にかかろうとしても受けつけてもらえず、救急車を呼んで救命救急センター(基幹医療施設)へ担ぎこまれる。

 救急センターの院内で感染が見つかり、救急や、外来、入院に制限がかかる。周辺の救急センターに負担が及び、一刻を争う脳・心臓疾患や多重外傷などの救急患者が治療のタイミングを逃し、医療崩壊へ。

 そのような事態が現に起きている。

 今回コラムの文末にも、東京都内26ヵ所の救命救急センターの診療状況を定点観測で載せる。一週間前、26ヵのうち院内で職員や患者の感染が判明した救急センターは7つだったが、もう11か所に増えた。

 なかでも第一種感染症指定医療機関でもある都立墨東病院(墨田区)の感染増は、地域医療を揺るがしかねない重大な危機だ。クルーズ船の感染者なども受け入れてきた墨東病院では、4月9日以降、院内で12人の感染が明らかになり、1人が死亡した。

 もともと感染者を受け入れる病棟とは別の一般病棟で感染が広がっている。院内感染の可能性が高い。上田哲郎院長は、18日の都庁での記者会見で、近隣の台東区の永寿総合病院で大勢の院内感染(患者20名死亡)が発生していることを問われ、次のよう答えたという。

 「(地域の医療体制に)影響がないとは決して言えない状況。ただ、うちがやらないと命に関わるような患者については、リスクは抱えながらもがんばっていきたい」(朝日新聞4月20日付)。

 墨東病院は、初診、新規入院は停止し、緊急手術以外の手術を停止しつつ、救急と新型コロナ感染者の受け入れは懸命に継続している。がんばれ墨東病院。地元の墨田区は、陰圧式のテントで、1回5分ほどでPCR検査ができる施設を公開した。

 誰が見ても、PCR検査とコロナへの免疫を確かめる抗体検査を増やし、軽症者・中等症者(酸素吸入や点滴が必要)・重症者(人工呼吸器必要)のパターンに分けて収容先を的確に振り分けねばならない段階に至ったといえるだろう。

 にもかかわらず、政府からはアバウトな数字や効果の定かでない方法が発信される。

 安倍首相はコロナ対応病床について「現在ある2万8000床の病床を5万床まで増加させる」と述べているが、そもそも「2万8000床」があやふやだ。国の指示で病床数を報告した都道府県からは異論が出る。

 宮崎県の担当者は「実際にコロナに使うには病室のハード面の改修やスタッフの確保、養成が必要だが、国には単に空いている数を答えた。国の指示があればコロナ用に転換できるものではない」(東京新聞4月17日付)と言っている。

 もっと現実的で、現有の医療資源の活用でできることはないのか、と思い、あれこれ調べているうちに私たち一般人にもわかりやすく、納得できそうなモデルに行き当たった。

 群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春氏らが提言している「COVID-19 対策への緊急提言 その1」だ。

COVID-19 対策への緊急提言 その1(燃えるフィジカルアセスメント):
https://blog.goo.ne.jp/yasuharutokuda/e/69cf4c5f00402f9f3aed0f36e2f5573d

 詳細はネット上に公開されている提言をご覧いただきたいが、大ざっぱな流れはコロナ感染を疑う人がかかりつけ医へ電話。かかりつけ医は原則遠隔診療で、対面診療の場合は個人防護具をつけ、一般患者と動線を分ける。

 かかりつけ医が診察をしてPCR検査必要と判断したら、PCR検査センター(公共施設などで医療機関の輪番運用)に案内。検査は民間の検査会社に発注。そこから判定報告がかかりつけ医に入り、陽性なら保健所に届ける。

 かかりつけ医は、患者が軽症なら感染確定者用ホテル、中等症、重症なら指定の協力医療施設に振り分ける。軽症者のバイタルサイン(「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」の4つが基本。「意識レベル」「尿量」を含めることもある)のモニタリングは保健所が行うというものだ。

 考えてみれば、ふだん私たちが病気になったときに近所の診療所で診断を受け、重症なら大きな病院を紹介してもらうのと基本的には同じだ。

 ただ、このモデルを実現するには、地元医師会の賛同が欠かせない。総合的な地域の力が試されるといえるだろう。

■東京都の「基幹医療施設」とがん専門病院の診療の現状(4月20日現在)

※ ▼は、院内で新型コロナ感染者が発生した医療機関
記載のすべての医療機関で、原則的に入院患者への面会禁止。
病院によっては、慢性疾患を有する定期受診患者には、電話診療で院外処方箋を発行。かかりつけの調剤薬局へファクスなどで送信するシステムあり。

・慶應義塾大学病院(▼)
 初期研修医99名中18名が新型コロナ感染。初診、新規入院、救急を停止。再診も化学療法・免疫療法など必要な診療等を除いて延期可能な予約は延期。

・日本赤十字社医療センター(▼)
 看護師1名、新型コロナ感染。初診(産科、小児科を除く)と救急(小児科を除く)を停止。

・都立墨東病院(▼)
 4月9日以降、12人が新型コロナ感染。初診、新規入院、手術(緊急手術を除く)は停止。救急と新型コロナ感染者の受け入れは継続。

・東京慈恵会医科大学附属病院(▼)
 患者2名、医師1名、看護師3名が新型コロナ感染。初診、新規入院、救急停止。再診も延期可能な予約は延期。

・東京医科大学八王子医療センター(▼)
 救急搬送の患者1名、新型コロナ感染。初診、予約ない再診は停止。三次救急、心臓・循環器系救急および超急性期脳卒中の診療は継続。

・杏林大学医学部付属病院(▼)
 医師1名、新型コロナ感染。救急車以外の救急外来診療を制限。消化器内科、20日から新規入院の受け入れ再開。

・順天堂大学医学部附属順天堂医院(▼)
 医師1名、新型コロナ感染。消化器内科、紹介状ない初診停止。血液内科、再診のみ。

・東京医科歯科大学医学部附属病院(▼)
 職員2名、新型コロナ感染。接触者87名PCR検査し、全員陰性。婦人科、消化器内科、呼吸器内科、脳神経科など初診停止。救急の制限も。

・公立昭和病院(▼)
 看護師1名、新型コロナ感染。濃厚接触者28名PCR検査、全員陰性。玄関前ロータリーに「発熱診療エリア」設置。新型コロナ感染疑いの患者に対応。

・東京女子医科大学東医療センター(▼)
 看護師1名、医師3名、新型コロナ感染。外来と新患・入院の受け入れ停止。

・東京都済生会中央病院(▼)
 職員に新型コロナ感染者。該当施設は本院と分断された別棟。入院、外来は継続。

・国立がん研究センター中央病院(▼)
 看護師3名、医師2名が新型コロナ感染。4月6日までにPCR検査を患者67名、職員166名に行い、患者感染0。14日から医療機関からの初診予約の受け付け再開。

・東京大学医学部附属病院
 診療機能を一時的に縮小。入院診療(手術を含む)、検査、外来診察の一部の予約を延期。

・日本医科大学付属病院
 紹介状がない患者の初診は原則不可。入院患者の外出、外泊原則不可。

・帝京大学医学部附属病院
 初診は医療機関の紹介状のある患者のみ。

・東京女子医科大学病院
 発熱、咳などの症状の外来患者はエントランス前のテントで対応。

・東邦大学医療センター大森病院
 入院、初診外来とも予約と「急ぎの治療が必要な」患者のみ。待機可能な検査、手術は延期も。

・東京医科大学病院
 紹介状がない初診、予約のない再診は不可。手術は優先度を考慮し、延期も。

・国立東京医療センター
 一部専門科で、紹介状がない受診は不可。

・武蔵野赤十字病院
 不急の外科手術は延期も。初診は紹介状+事前予約が必要。

・日本大学医学部附属板橋病院
 面会禁止。

・都立多摩総合医療センター
 ほとんどの診療科で救急医以外の外来は縮小、休止、または延期。

・聖路加国際病院
 ワクチン外来、渡航内科(ベルギー渡航前検診)、禁煙外来は新規受け付け、中止。

・昭和大学病院
 面会禁止。予約があり、安定した通院患者に電話診療、処方箋を郵送。

・国立災害医療センター
 感染状況により、入院による検査・手術・治療に制限も。

・国立国際医療研究センター病院
 全科でセカンド・オピニオンを停止。

・都立広尾病院
 産婦人科と神経科以外の初診の予約停止、手術・検査の入院を制限。

・がん研究会有明病院
 がん健診の受診予約は、いったんすべてキャンセル。面会、外来の病棟立ち入り禁止

(リスト作成・山岡)

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。

最終更新:4/26(日) 16:32
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