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【論調比較・10万円一律給付】 「30万円」容認だった産経、さらり「10万円」評価

4/27(月) 8:30配信

ニュースソクラ

毎日・東京などは決断の遅れ批判

 安倍政権が、新型コロナウイルスの感染拡大に対応して、「緊急事態宣言」の対象地域を全国に拡大し、所得制限を設けずに国民に1人10万円給付する方針に転換した。

 感染拡大に一向に歯止めをかけられず、また所得が減少した世帯限定で1世帯30万円支給するとした従来方針への批判が高まり、内閣支持率も急落する中で、追い込まれたものだが、にわかに感染拡大が止まる見通しは立たず、厳しい政権運営が続きそうだ。

 安倍政権は4月7日、首都圏、近畿圏、福岡の7都府県に緊急事態宣言を発令し、併せて事業規模が国内総生産(GDP)の2割に当たる108兆円という緊急経済対策を閣議決定した。

 ウイルス感染拡大にストップをかけるには人と人の接触を8割削減する必要があり、そのために飲食店などの営業自粛を求めるとともに、収入が減る世帯や事業者への支援などの経済対策をセットで打ち出したものだ。

 対策は規模を大きく見せることに無理をした感が否めず、中身にも細かくは多くの論点があるが、最大の焦点になったのが「30万円」。

 「月収が20万円以下」「月収半減で40万円以下」などいくつかの条件に合致する「世帯」に30万円を支給するものだが、全世帯の2割程度しか対象にならず、1人世帯も5人世帯も同額など不公平感が強く、条件がわかりにくく、苦しくても対象から漏れるケースが多い、時間もかかるなどなど、批判が高まった。

 もともと、公明党は1人10万円支給を主張、自民党内にも同様の考えが少なくない中、官邸主導で「制限付き30万円」で押し切った経緯がある。

 そこで事態が動いたのは4月14日だった。

 自民党の二階俊博幹事長が「一律10万円の現金給付を求める切実な声がある」と記者団に語って、一気に流れが変わった。30万円への世論の批判を感じ取ってのことで、二階氏としては所得制限を設け、補正予算を組み替えずに「第2段」の策との考えだったとされるが、公明党が一気にヒートアップ。

 創価学会の突き上げもあり、15日午前に山口那津男代表が安倍首相に直談判、その後も首相に繰り返し電話し、「連立離脱も辞さない構え」で、30万円を撤回し、補正予算案を組み替えるよう迫り、首相も最終的に受け入れた。

 他方、緊急事態宣言は、先行7都府県で感染が収まる気配がなく、そこからの人の移動を含め、地方でも感染が広がりつつあることを受けて、対象を全国に拡大した。特に大型連休で人の動きを最小限にとどめなければならないというのが政府の説明だ。

 遅すぎるとの批判の一方、感染者数が2倍になるまでにかかる時間など3つの指標を示していたのに、感染者があまりいない県まで加えたことには、「唐突」などと困惑する知事も少なくない。生活や経済への影響を最小に抑えるという原則からみても疑問とする声は根強い。

 安倍首相は16日夜の政府の対策会議で、こうした方針転換を表明し、17日夕に記者会見をして説明。政府は週明け20日の閣議で総額25.7兆円と、先に決めた16.8兆円から9兆円近く増額した補正予算案を決定し直した。赤字国債の発行額は23.4兆円となり、組み替え前の約1.6倍に膨らみ、経済対策の総額も108兆円から117兆円になる。

 大手紙は今回の方針転換を大きく報じ、社説でも様々に論じている。

 17日朝刊は、緊急事態宣言の全国拡大が1面トップ、左肩や腹に「1人10万円」を抱え、2~3面や政治面、社会面で解説記事、国民や関係者の受け止め、戸惑いなど、大展開する紙面はほぼ共通だった。

 10万円について、「世論の不満 折れた首相」(朝日3面)、「公明強硬 政府押し切る」(読売2面)、「募る不満 公明決断迫る」(産経2面)など、世論の不満の強さや公明の強硬ぶりとともに、「『一強』揺らぐ」(毎日3面)、「揺らぐ政権」(日経4面)など、安倍政権への打撃の大きさも書き込んだ。

 緊急事態の拡大にも、朝日が「政府内は当初否定的」(2面)、毎日も「対象拡大、『政治判断』/補正組み替えの『大義』」(2面)などの見出しで、〈宣言の範囲拡大を大義として「補正組み替え」「一律10万円給付」につなげる筋書き〉(毎日)といった分析を書き込んだが、読売、産経は、緊急事態拡大と10万円を結び付けた解説は見られなかった。

 東京は緊急事態拡大を「政治判断を優先」(3面)と、毎日と似た見出しで論じたが、10万円との関係ではなく、〈(政府の)遅い対応にいら立つ地方や世論にも押され、当初重視していた科学的データよりも政治的判断を優先して発令に踏み切った〉との見方を強調した。
各紙の社説も大いに論じている。

 一律10万円給付については、もともと対象限定に批判的だった朝日は18日(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14446088.html?iref=pc_rensai_long_16_article)、〈一律1人10万円というシンプルな方式にすることで、素早く行き渡るのであれば、助けとなることは間違いない〉と、歓迎。もちろん、〈予算案を作り直すため、国会への提出は1週間程度遅れる見通しだ〉と、給付の遅れを懸念し、〈政治指導者が、とりわけ国民のいのちや生活がかかった場面で、自らの政治的な思惑にとらわれた判断を下すようなことはあってはなるまい〉と、首相の決断に疑念を呈しする。

 毎日は8日(https://mainichi.jp/articles/20200408/ddm/005/070/078000c)に〈対象世帯を見直し方法も簡素化する必要がある〉と、一律給付を求めただけに、17日(https://mainichi.jp/articles/20200417/ddm/005/070/075000c)は〈いったん消えた一律10万円案が再び浮上したのは、世論の批判に耐え切れなくなったからだろう。……現金支給の最大のポイントはスピードだ。……最初から決断していれば、支給までの期間を短縮できたはずだ。……迷走のツケは大きい〉と、遅すぎた判断を批判。

 東京(18日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020041802000174.html)も、〈生活不安が高まる中、対応の混乱ぶりを強く批判せざるを得ない〉〈最初から全国民一律給付をしていればより早く実施できたはずだ〉と痛烈に批判した。

 朝日が〈厳しい生活が長期化した場合、追加の支援に後ろ向きであってはならない〉、東京は〈暮らしの実態把握がずれていては致命的だ。感染拡大が収まらなければ、さらなる経済対策は確実に必要となるだろう〉と、一層の対応も求めた。

 読売は最初に対策が決まった際(9日)、与野党に一律給付論があるとして〈補正予算案の審議で、対策の妥当性について論議を深めるべきだ〉と、一律が望ましいとのニュアンスをにじませていただけに、17日(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200417-OYT1T50057/)は〈一律給付では、受け取ったお金が貯蓄に回る懸念はあるが、制度として理解しやすくなったのは確かだろう〉と歓迎。〈重要なのは、スピード感を持って給付を実行することである〉と発破をかけた。

 産経は9日の主張(https://www.sankei.com/column/news/200409/clm2004090002-n1.html)では〈支援を必要とする事業者や家庭に対し確実に現金が給付されるよう対象を明確に線引きしたのだろう。もちろん、条件に合うかどうかや金額の多寡などで不満が出る可能性はある。だが、……スピード感を持って給付できるかどうかである〉と、対象限定30万円を容認していたが、17日(https://www.sankei.com/column/news/200417/clm2004170004-n1.html)は〈(当初案は)対象を絞り込んだため、収入が落ちても給付を受けられない世帯があるなどの不公平感があった。一律給付にはこれを解消する分かりやすさがある〉と、 一律給付への転換をさらりと評価した。

 なお、高所得者への対応では、〈不公平感を解消するうえでも、今回の給付を所得税の課税対象とし、年末調整や確定申告で一部を取り戻すことも検討してほしい〉(朝日18日)、〈富裕層まで給付されるが、後日、源泉徴収や確定申告で調整するのも手だ〉(産経17日)など、税金での調整に言及してする社もあった。

 唯一、日経だけは17日(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58145000W0A410C2SHF000/)、「30万円給付」を〈妥当な判断だ〉と評価する立場から、政権支持率の低下を受けて与党内の30万円見直し論が一気に広がり、首相もこれを飲んだことに、政策論として〈「なぜ高所得者も恩恵にあずかるのだ」との批判はいずれ出るだろう。財源は無限ではない。結果として低所得者が割を食うかもしれない〉と批判し、将来に禍根を残すとの懸念を示すとともに、〈政府・与党が右往左往している印象になっているのは残念だ。ドタバタ劇を演じている場合ではない〉と政府・与党の迷走ぶりを、強い言葉で批判した。

 緊急事態の全国への拡大については、〈大型連休を前に全国的に人の移動を極力抑えたいという狙い自体は理解できる〉(朝日18日)、〈理由はある程度理解できる〉(毎日17日、https://mainichi.jp/articles/20200417/ddm/005/070/075000c)、〈収束の傾向はうかがえず、首相が全国を緊急事態宣言の下に置いたことは妥当である〉産経18日、https://www.sankei.com/column/news/200418/clm2004180001-n1.html)など、各紙、基本的に理解を示し、医療崩壊を防ぐための政府の対応を強く求めている。

 そのうえで、毎日は、〈唐突感は否めない〉と指摘。東京(17日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020041702000147.html)は〈政府は自治体の声に押される形で全国に向け宣言を出さざるを得なくなったということだろう〉など、決定に至る不明朗さを批判。

 当然ながら、〈納得感が不足したまま、警戒ばかり強めても限界がある。首相は国民や地方自治体、事業者の協力を得られるよう十分な説明を尽くすべきだ〉(毎日)などと、首相の説明責任の指摘も目立った。

 具体的に〈政府は自粛を要請するだけでは不十分だ。……政府は休業補償には依然として後ろ向きだ。安心して休業できれば外出抑制にもつながる〉(東京)、〈全国に対象を拡大した今こそ、政府は財政的な手当てを検討すべきだ〉(毎日)と、休業要請とセットの協力金などに政府として取り組むよう促している。

 一方、読売(17日)は、〈改めて一人ひとりができることを考えたい〉という基本スタンスで、政府方針に基づいて何が必要かという政策解説記事の趣。

 経済対策以外については、医療、教育などへの影響を順番に取り上げ、政府、あるいは自治体(知事)に対しては〈適切な措置を講じることが求められる〉〈的確な対応をとってほしい〉などと淡々と書く。休業要請をめぐり政府と都の調整に手間取ったことについて〈こうした連携不足は避けなければならない〉と、やんわりくぎを刺した程度で、この間の安倍政権の対応の不手際への批判的文言はない。

 産経(18日)は〈危機意識を共有し、ウイルスを封じ込めたい〉と、政策への批判や注文というより、政府方針に基づいて、〈人の流れの最小化と医療態勢の強化〉の必要を読者(国民)に説くことに重点を置く。

 そして、最後でタレントの石田純一さんが陽性確認前に東京と沖縄を往復していたことを取り上げ、〈回復を祈るが、本人にそのつもりがなくても越境行為自体が地方の人たちを危険にさらすことを認識すべきだ〉と書いた。石田さんが安倍首相に批判的であることと関連付けてみる向きもあるが、いずれにせよ、有名人とはいえ個人を批判するのは全国紙の社説としては異例だ。

 社説ではないが、産経は首相会見を受けた18日1面の政治部官邸キャップの「政策スピード不足 官僚の壁 一律給付に財務省反対」との解説記事を掲載。

 〈(首相の検査能力引き上げ指示に)厚生労働省は軽症者の入院が増えて重症者支援が遅れれば医療崩壊を起こすと難色を示してきた〉〈財務省が国民全員を対象にすれば、「大企業や年金生活者など打撃のない人にも配るのは不公平だ」と主張した〉〈(首相は)国民感情を重視し、緊急事態宣言の対象区域を全国に拡大したのを機に10万円の一律給付に転じた〉と、官僚の抵抗を批判し、一律10万円給付の政治決断をたたえるトーンで、財務省が最強官庁として君臨した時代に戻ったような「古典的」な解説だ。

 「安倍一強」で官僚が首相の顔色をうかがい、忖度するのが常態化していると言われて久しいが、そうした理解が違うといことうなら、そこを書き込んだ記事が読みたいところだ。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:4/27(月) 8:30
ニュースソクラ

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