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ジェンナー研究所の「新型コロナ」ワクチンに注目する5つの理由

5/1(金) 8:32配信

ハンギョレ新聞

(1)西欧の臨床試験機関の中で唯一の非営利組織 (2)サルでの実験で完璧な効果、自信満々 (3)安全性の高いアデノウイルスベクターワクチン (4)来月までに6千人の膨大な臨床試験を実施 (5)独占権を与えず、6社で分散製造

臨床第1相1100名…臨床第2、第3相では5000人規模の試験
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの開発競争で、英オックスフォード大学ジェンナー研究所の動きが注目を集めている。世界初のワクチン「種痘」の開発者である英国の外科医エドワード・ジェンナーの名前を取って2005年に設立された同研究所は、マラリア、結核、エイズのような主な感染症に対するワクチンを開発する研究機関だ。現在、ワクチンの臨床試験を行っている組織の中では開始が最も遅かったが、試験の規模は最も大きい。開発日程も最も果敢で、9月のワクチン生産を目標にしている。現在、COVID-19ワクチンの臨床試験を行っている組織のうち、中国を除くと、企業ではなく唯一の非営利機関であることも目を引く。

 まず、4月23日から始まった臨床第1相試験の参加者数は1100人で、他の企業や機関の臨床試験規模を圧倒している。同研究所は、これまでに約320人が接種を受けたと明らかにしている。先行して臨床試験に入っている米モデルナ・セラピューティクスとイノビオ・ファーマシューティカルズの臨床第1相試験は数十人、中国のワクチン開発会社の臨床試験は100人前後だ。臨床第1相は薬物の安全性を検証する試験だ。現在、ただひとつ臨床第2相まで進んでいる中国カンシノ・バイオロジックスの500人よりも規模が大きい。さらにジェンナー研究所は、5月には臨床第2相と第3相を同時に進めることにしており、安全性と効果を同時に検証する。臨床第2相と第3相の参加者は5千人あまりを募集する。臨床第1相は18~55歳を対象とするが、第2相、第3相は年齢上限を引き上げ、最初は55~70歳、次に70歳以上に対して行う。オックスフォード大の科学者たちは、臨床試験で良い結果が出た場合、政府が緊急使用を承認すれば、9月までに数百万人に接種できるワクチンを生産できるだろうと『ニューヨークタイムズ』に語った。これは米国、中国、ドイツのワクチン開発企業が明らかにしている日程より3、4カ月は早い。しかし公式日程は依然として12~18カ月だ。

ワクチン接種を受けた6匹のサル、1カ月経っても健康
 ジェンナー研究所がこのようにスピードを上げられるのは、同じコロナウイルス感染症であるMERS(中東呼吸器症候群)の予防用として開発したワクチンの昨年の臨床試験で、すでにこのワクチンが人間に使っても安全であることが確認されているためだ。

 ジェンナー研究所はひとまず自信を表明している。3月に米国立衛生研究所のロッキーマウンテン研究所に依頼して行ったアカゲサルの実験結果は満足のいくものとなった。同研究所はワクチンを6匹のサルに1回接種した。実験室にいる他のサルたちを感染させたのと同じ量を注入したが、ワクチンを打った6匹は接種から28日経ってもすべて健康だった。ワクチン接種試験を担当したビンセント・マンスター研究員は「アカゲサルは人間に最も近い動物」だとし、来週中に査読誌に動物実験の結果を提出する予定だと話した。もちろん、サルに免疫ができたからといって、人にも同様にできる保障はない。しかし、希望を与えてくれる結果であることは確かだ。

20年間チンパンジーアデノウイルスを利用したワクチン実験
 ジェンナー研究所が開発したワクチンは、チンパンジーに風邪を引き起こすアデノウイルスの毒性を無くしてから、これにCOVID-19ウイルスのスパイク(突起)タンパク質遺伝子を組み込んだワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)だ。スパイクタンパク質はコロナウイルスが細胞に浸透する道具として使う物質だ。このワクチンは既存のウイルスを運び屋(ベクター)として使用した「ウイルス組換えベクターワクチン」だ。アデノウイルスベクターワクチンは、これまで約10の疾患で使用され、安全性が立証されたワクチンだ。中国のカンシノ・バイオロジックスも、ヒトアデノウイルスを用いた組換えベクターワクチンで臨床試験を行っている。米国モデルナのワクチンは最新の遺伝工学技術を用いたRNAワクチンで、早く製造できるという長所があるが、まだ人に使われたことはない。

 ジェンナー研究所によるコロナウイルスワクチンの開発は、エイドリアン・ヒル所長(61)のマラリアワクチン開発の失敗の経験に基づいている。ヒル所長は1980年代初めの医大生時代に、マラリアをはじめとする熱帯地方の疾患に関心を持ち始めた。当時、内戦中だったアフリカのジンバブエで聖職者を務めていた叔父を訪ねたのがきっかけだった。その後、熱帯病を研究し、分子遺伝学で博士号を取得したヒル氏は、2005年のオックスフォード大学ジェンナー研究所の設立を主導した。同氏はこの20年間、チンパンジーアデノウイルスを用いて作ったマラリアワクチンの複数の候補に対し、70回以上の臨床試験を行った。しかし、一度も成功できなかった。そんな中、MERSが発生すると、長年の同僚のサラ・ギルバート博士がチンパンジーアデノウイルスでMERSワクチンの開発に乗り出した。このワクチンは昨年、英国で臨床試験を行った結果、安全性が立証された。MERSの発源地であるサウジアラビアでも臨床試験が行われた。ギルバート教授は今年1月、中国の科学者が新種のコロナウイルスの遺伝子塩基配列を解読した後、このワクチンをこれに応用することにしたという。

インド血清研究所など6カ所で製造を約束…米企業は独占要求で合意至らず
 しかし逆説的に、ジェンナー研究所の大規模な臨床試験が順調に進むためには、多数の新たな感染者が出る環境が維持されなければならない。ワクチンの効果を立証するには、ウイルスが拡散している場所にいる人にワクチンを接種しなければならない。中国のカンシノはこのような点で臨床試験環境が良くない。中国の感染者が大きく減ったためだ。しかしジェンナー研究所は、英国で臨床試験への参加者が少ない場合は、アフリカやインドでも臨床試験を行う計画だ。同研究所は、プラシーボを摂取した人とワクチン接種者の感染比率が12対1~2になれば、ワクチンの成功とみなす方針だ。

 ジェンナー研究所は今後のワクチン承認に備えて、現在、欧州とアジアの6つの製薬会社にワクチン製造権を与え、誰にも独占権は与えないことにした。営利から自由な公共機関の長所をうかがわせる内容だ。世界最大のワクチンメーカーであるインド血清研究所、ドイツに基盤を置く多国籍製薬会社メルクなどが参加し、ワクチン製造施設を準備している。しかし、まだワクチンの効能が検証された段階ではないため、失敗した場合にはそれぞれが損害を甘受しなければならない。インド血清研究所は、最初の6カ月は月に500万人分を、その後は月に1千万人分を生産する計画だ。米国を含む北米の製薬会社は独占権を要求したため、ジェンナー研究所と合意に至らなかった。

 長年の失敗経験と使命感を基に臨床試験に入ったジェンナー研究所のワクチンが、「COVID-19」パンデミック脱出の突破口を開けるか注目される。
クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:5/1(金) 17:28
ハンギョレ新聞

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