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タバコで汚れた「ヤニ部屋」、不動産屋「クロス張り替えろ」 退去者は全額負担すべき?

5/6(水) 9:39配信

弁護士ドットコム

賃貸アパートで喫煙したら、退去時にクロス全面張り替えの費用を全額請求されたが、支払わなければならないのかーー。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

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「1年半前の入居時に喫煙に関する説明はなかったし、重要事項説明書にも書かれていない」という相談者。そのことを不動産業者に伝えると、「説明義務はないし、みんな当然知っていることだから」と言われてしまったそうです。

相談者は納得いかないようですが、仮に支払うとしても何とか減額できないものかと考えているようです。

このような場合、借りていた側が全額負担しなければいけないのでしょうか。清水俊弁護士に聞きました。

●原状回復とは「借りた当時の状態に戻すこと」ではない

ーー借りていたアパート等を退去する際、「●●については借りていた側に原状回復義務がある」という話を耳にすることがありますが、そもそも「原状回復」とは何でしょうか

「原状回復とは、借りた当時の状態に戻すことではありません。

国土交通省住宅局のガイドライン(『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』)では、次のように定義されています。

『賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』

2020年4月施行の改正民法でもその点が明記されました(621条)。ただ、改正民法でも具体的にどのような場合に原状回復義務が生じるかまでは明らかにされておらず、これまで同様、裁判例やガイドラインに沿ってケースバイケースで判断されることになります」

●タバコによる汚れは、借主側の負担で原状回復するのが原則

ーータバコで汚れた場合などは借主側で原状回復しないといけないのでしょうか

「今回の『タバコによる汚れ』については、ガイドラインでも例示されていますが、基本的に賃借人(借主)負担で原状回復するのが原則だと考えられます。

テレビや冷蔵庫の電気焼けの場合は、それら家電製品が一般生活の必需品であることから通常損耗として賃貸人負担と例示されていますので、それと比較すると、タバコは一般に必需品ではない、と考えられているようです。

喫煙の自由を基本的人権の一つとして認める古い判例もありますが(最高裁昭和45年9月16日大法廷判決)、その判例でもタバコは生活必需品とは言えないとされており、現在の嫌煙・受動喫煙防止の流れからすれば、より喫煙者の利益が認められづらい世の中になっています」

ーー相談者の入居期間は1年半だったようです。経年劣化等もあると思うのですが、それでも借主側が全額負担しなければならないのでしょうか

「減価償却との関係では、入居期間の長い方が負担割合は減少すると考えられています。つまり、長く住めば経年劣化等による価値の減少の割合が大きくなり、タバコによる影響が相対的に小さくなるからです。

クロスに関しては『6年で残存価値1円』となるような直線(又は曲線)で負担割合を考えるとされているため、入居時に張り替えたばかりであれば、1年半の入居だと『75%程度の負担割合』になると考えられます。

ただ、減価償却期間を過ぎても損傷がなければそのまま賃貸できる場合も多いため、故意過失により損傷させた場合には、借主側で原状回復工事に伴う人件費や工賃を負担することがあります」

ーー借りている側が75%程度負担するということですが、減額交渉の余地などはあるのでしょうか

「原状回復義務の範囲として、クロス『全面』の費用負担をしなければならないのかと言う点は問題になり得ます。

原状回復は、損傷部分の復旧であるため、可能な限り損傷部分を限定し、必要な限度を施工単位とすることが基本とされています。

たとえば、クロスの一部に落書きをした場合などは、平方メートル単位で限定するか、損傷部分を含む一面分の張り替え費用とするのが妥当です。

しかしながら、タバコによるヤニ汚れや臭いについては、居室全体のクロス張り替えあるいはクリーニング費用を賃借人に負担させるのが妥当な場合として、ガイドラインで例示されています。

もちろん、これもケースバイケースで判断するため、汚れの範囲や臭いの有無・程度などによっては全面張り替えまで必要ではない場合もあると思いますので、減額交渉の余地がないとは言えませんが、難しい交渉になるとは思います」

●入居時の確認がトラブル防止に繋がる

ーー退去時でトラブルになった場合、いざ解決しようとしても、手続きなどが大変そうなイメージがあります

「敷金や原状回復で最もネックになるのが『訴訟コスト』の問題です。

『訴訟コスト』とは、争いを解決するための法的手続を誰が取らなければならないか、という意味で私が使っている言葉です。

つまり、敷金を預けている場合、賃借人としては原状回復費用の請求金額に不服があっても、賃貸人側が譲歩しなければ、敷金から請求金額を控除されてしまうため、賃借人側が敷金返還請求等の法的手続を取らなければなりません。

しかしながら、居住用物件であれば原状回復費用は賃料の1~2カ月分程度ですし、その中で争いになるのは数万円分であったりするため、弁護士費用や労力などのコストを考えると泣き寝入りせざるを得ない場合が多いのです。

逆に敷金がゼロであれば、原状回復費用の『訴訟コスト』は賃貸人側が負担することになるわけですが、敷金ゼロの賃貸物件はそう多くありません。

トラブルを未然に防止できれば、『訴訟コスト』で泣き寝入りせずに済みます。したがって、入居前に賃貸人側に色々と確認しておくことが重要です。弁護士の無料相談などを利用して契約前に予備知識を入れておくのも良いと思います。

今回のような場合でしたら、入居時のクロスがいつ張り替えられたものかが負担割合との関係で重要になりそうですので、喫煙される方はクロスの張り替え時期や喫煙に関する特約などをあらかじめ確認しておくとよいでしょう」

【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:5/6(水) 11:35
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