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プーチン大統領、支持率低下で金融危機上回る試練

5/13(水) 16:01配信

ニュースソクラ

【ロシアと世界を見る眼】新型コロナ感染拡大、原油価格の急落 ダブルパンチ

 ロシアもCOVID-19(新型コロナウイルス)感染症の直撃を受け、経済の先行きに重大な懸念が生まれている。

 ロシアの場合、感染症拡大による直接の打撃に加え、それを引き金とする石油価格の大幅下落という強烈なパンチを追加で食らっている。

 ウラジーミル・プーチン大統領は21年間、ロシアを統治(2008~2012年は首相)、この間、2008~2009年には世界金融危機に巻き込まれる経験もあった。今回はそれを上まわる試練に立たされている。

 まず、ロシアでの感染の広がりだが、すでに感染者数は8万人を超えた。死者数は747人(25日現在)。3月1日の時点では感染者はわずか3人。3月末には2300人程度に増えたが、ほかの国に比べ少なく、政府に余裕がみられた。

 ところが4月に入ると状況は一変、感染増に歯止めがかからなくなった。日本なら「オーバーシュート」というカタカナが飛び交うところだ。

 プーチン大統領は4月19日に、状況は「完全に抑え込まれている」と述べ、国民に安心感を与えようとしたが、実態は日ごとに悪化している。

 もちろん、他国同様、必死で対策を取ってきた。飲食店などへ休業命令を出すとともに、賃金補償、納税や家賃支払い猶予、住宅ローン返済の繰り延べ、中小企業支援など各国で見られる措置が並ぶ。

 外出規制も徹底、モスクワでは近所での食料品や医薬品の購入、緊急の受診、犬の散歩、ゴミ出しなど以外の外出は基本的に許されていないという。

 政治日程も大幅に変えた。4月22日に予定されていた憲法改正の全国投票を延期(時期未定)、5月9日の戦勝記念日は9月3日に延期した。

 日本などと同様、今が忍耐の時だが、ロシア経済には感染拡大で世界の石油需要が落ち込み、石油価格が大幅下落、その輸出収入が減少することの打撃が大きい。

 4月20日のニューヨーク商業取引所における米国産原油の代表WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物5月限がマイナス価格となったことはロシアにも衝撃だった。

 ロシアの国家予算の約4割は原油と天然ガス産業から徴収する輸出税などの税に頼っている。2020年の予算は1バレルあたり42.4ドルを前提に組んでいるが、このところ20ドル以下に下がることもある。

 米経済通信社ブルームバーグの予測だと、ロシアの5月の石油輸出税収は1バレル当たり1ドルを下回り、4月比87%減になる。ほとんど前例のない落ち込みとなる。

 ロシアは2017年から石油輸出国機構(OPEC)と協調減産を続けてきた。今年3月には減産強化をめぐり交渉が決裂したが、今月10日にはようやく新たな合意に達した。ロシアの生産量(コンデンサートを除く)は現在の1030万b/dを5月からは850万b/dへと引き下げざるを得なくなった。それでも価格下落に歯止めがかからない。追加の減産合意が必要だろう。

 ロシア経済の破綻は必至かのように思えてくる。だが、ロシアは国民福祉基金という頼れる財源を持つ。これは借金大国の日本にはない強みだ。

 経済的な土砂降りに見舞われ年金支払いに支障が出そうな時に予算を補充する目的を持ち、石油・ガス産業の収入の一定部分を使わずに貯めておくソブリン・ファンドだ。石油・ガスの価格が上昇し、たくさん売れれば積み上がる。

 国民福祉基金は4月初めの時点で12兆9000億ルーブル(約1740億ドル)。当面はこの基金を使えば、経済への大きな打撃はなんとか抑え込めるかもしれない。

 しかし、状況は厳しさを増している。アントン・シルアノフ財務相は3月に、石油価格が下落しても、1バレル25~30ドルであれば同基金は6~10年間持つ、つまり国家予算の赤字を補填できると言っていた。ところが、今月19日には、現在の価格(北海ブレントで28ドル)であれば、2024年まで持つと表現を変えた。

 もっと厳しい予測もある。

 ドイチェバンクでロシア経済を専門とするエコノミストは24日、ロシアの代表油種ウラルスUralsの価格が1バレル15ドルで推移すると、同基金は2年でなくなるかもしれないと指摘した。現状ではありうる事態だ。

 景気悪化を受けてロシア中銀は24日、貸出金利を0.5%引き下げ5.5%にすることを決めた。その際、今年の国内総生産(GDP)は4~6%減となるとの見通しも示した。これはウラルスが今年、27ドルで推移するとの前提に立っている。

 このGDP見通しについても民間エコノミストからは、10~20%減は覚悟しなければならないといった分析が出ている。今後2~3カ月の間に企業の15~20%が破綻するともいう。ロシアの企業も中国と結びついたサプライチェーンを持つところが多い。ほかの多くの国同様、失業者は増える。

 それにもともとロシアには貧困層が多い。統計では人口の12%くらいとされているが、実際にはもっと多いというのが大方の見方だ。

 プーチン大統領が極めて厳しい立場にいることは間違いない。問題は政変が起きるほどに事態は切迫するかどうかだ。

 ソーシャル・ネットワークには、「プーチン辞めろ」といった書き込みが出ているし、政府の対策はまったく何の役にも立っていないという声も聞こえてくる。

 ではプーチン大統領の支持率はどうか。世論調査機関レバダ・センターの最新(3月末)の調査では、プーチン大統領の支持率は63%。これは2013年11月以来最も低い。クリミア併合を断行した2014年には80%を超えていた。

 だが、63%といえば、一般的には極めて高い数字だ。現状では大統領の地位を脅かすほどのことではないだろう。一般に日本や米欧のメディアではプーチン支持率が一段と下がったことがやたら強調される。それは間違いがないのだが、各国指導者との相対比較も不可欠だ。それにロシアでは政権批判勢力がまとまりを欠く。

 だからと言って、プーチン大統領が安閑としていられる場合ではない。今月20日にはロシア南部の北オセチア共和国の首都ウラジカフカスで、失業増や外出制限措置に抗議する非合法デモが起きた。数百人が参加したという。大きな混乱は起きなかったようだが、政権には極めて気になる動きだろう。

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:5/13(水) 16:01
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