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女子サッカークラブの早期活動自粛、訴えたのは「見本となる姿勢」…楽天・三木谷氏にも相談したクラブ社長の決断

5/13(水) 10:20配信

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なでしこINAC神戸が“今できること” 洗えるマスク販売、選手の啓発動画発信…安本卓史社長インタビュー

 新型コロナウイルスの感染拡大は、女子サッカー界にも影を落としている。プレナスなでしこリーグは当初3月予定だった開幕時期が延期となり、緊急事態宣言の延長もあって今月いっぱいの全チームの活動自粛が続く。今年で設立20年目を迎えた「INAC神戸レオネッサ」は、感染予防の啓発動画を発信し、洗えるマスクを販売するなど“今できること”に取り組んでいる。未曾有の危機をどう乗り越えるのか。インターネット通販大手・楽天出身で、J1神戸の経営にも携わった実績を持つ安本卓史社長に迫った。

【動画】なでしこINAC神戸レオネッサの岩渕真奈、鮫島彩、仲田歩夢ら選手たちが「手洗い、うがい、集わない」を呼びかける実際のメッセージ動画

「答えがないんです。その中でINAC神戸として、何を伝えるのが大事か、そこに主眼を置いています」

 2018年秋にINAC神戸の社長に就任した安本社長は、コロナ禍の現状をこう受け止めている。本拠地・神戸のある兵庫県は、緊急事態宣言の「特定警戒都道府県」にも指定されている。選手たちは活動休止の中で、クラブが提供する1週間ごとの家でできる練習メニューをこなし、ビデオ会議アプリ「Zoom」を使い、筋トレや体幹トレーニングに取り組むなどして自己研鑽に努めている。

 なでしこリーグの要請より早く、4月4日からチームの活動休止に踏み切ったINAC神戸。選手やスタッフ、関係者の健康を守るための決断について、「我々が動いてしまうと見本にならない。今は家にいよう。そう考えました」と振り返る。神戸市からの要請もあったが、背景には2人の存在があった。元INAC神戸で現在は米国でプレーする川澄奈穂美選手から、感染が深刻な米国の現状を聞いた。そして、前職時代に部下として仕えた楽天の代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏にも相談。海外の情勢分析を行う三木谷氏からは「速やかに止めるべきだ」との助言を受け、考えを固めたという。

 活動休止に入ってからもクラブ内で議論は過熱した。「プロであり仕事なのだから練習は続けるべき」、「家に留まるべきじゃないか」、「でも完全に停止してしまったらサッカー選手として困る」……。安本社長は「見本となる姿勢」を訴え、全員の理解を得た。選手たちには、「僕も外食に行かないから、外に出ることを控えよう。忍耐が試される時であり、今は感染者を増やさないことが一番重要。その中で、トレーニングを続けていくこと。趣味でもいいから、何かを選手自身で発信することも大事」とメッセージを送った。自分で考えて行動する――。これは、プラン通りにいかない試合で臨機応変に対応していくサッカーというスポーツにも通じる精神だ。

 選手の自主性を重んじる中で生まれたのが、啓発動画だ。選手たちが個別に自宅で撮影したメッセージをつなぎ合わせ、FW岩渕真奈選手やDF鮫島彩選手、MF高瀬愛実選手、MF仲田歩夢選手らが、「みんなで一緒に未来のために」と呼びかける動画を4月24日にYouTubeで公開した。この取り組みは、小栗旬、田中圭らが所属する大手芸能事務所トライストーン・エンタテイメントが始めたメッセージ動画に賛同したものだ。

 発案こそ安本社長だったが、ビデオ会議を重ねてパート割を決めて撮影に取り組んだのは、選手たち自身。現役のGK田尻有美選手、DF守屋都弥選手、MF八坂芽依選手、元選手で現在はINAC神戸スタッフの竹村美咲さんが中心となって、スピード感を持って動画を完成。原動力となったのは、選手たちの自主性だった。

 安本社長自身も、日本サッカー界全体のために何ができるのかを探っている。そのひとつが、ツイッターでの発信だ。TUBEのギタリスト春畑道哉氏が作ったJリーグオフィシャルテーマソング「J’S THEME」を、自ら春畑モデルのストラトキャスターで演奏。動画をツイッターで投稿した。これにリツイートで反応したのが、元ドイツ代表で現在はトルコでプレーするFWルーカス・ポドルスキだ。安本社長はJ1神戸の経営に携わっていた時代に、ポドルスキの神戸加入に尽力。現在も深い交流を続けており、世界的選手は日本サッカー界に思いを寄せてくれたのだ。

 さらに、旧知の仲であるTUBEのボーカル前田亘輝氏とも電話で意見交換。スポーツ界、エンタメ界の垣根を越えたコラボレーションも話し合っているという。 

 もちろん、INAC神戸のクラブとしても、「世の中に何が必要なのか」を考えて行動に移している。洗って使えるタイプのマスクの販売に取り組むほか、現在は買い物に便利な大きいサイズのエコバッグの制作も検討している。そして、いつか必ず来る「開幕の日」。ピッチで選手たちが一生懸命に、あきらめずにプレーする姿をより多くの人たちに見てもらいたいという思いを強くしているといい、「1点取られても2点返す。2点取られても3点返す。魅力的なサッカーを見せたい」と前を見据えている。

〈このインタビューはリモート取材で行われた〉

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ENCOUNT編集部 吉原知也

最終更新:5/13(水) 10:20
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