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鈴木伸尋調教師×ヒューイットソン騎手 引退馬について意見交換

5/19(火) 19:00配信

netkeiba.com

 第1回目にも書いたが、南アフリカにはSPCAという動物愛護団体が存在し、セカンドキャリアを過ごす馬たちが適切な状況で飼育されていないなどと周囲の人から通報があった場合に、その場所から馬をレスキューすることもあるという。そのような状況が発覚した場合は、競走馬時代のオーナーが責任を持つ決まりがあるため、どう対処したら良いのかをオーナーがSPCAに相談し、次のけい養先を見つけるような活動も行っているのだ。

 今回のインタビューではJRAの引退競走馬に関する検討委員会の委員にもなっている鈴木伸尋調教師も同席していたが、師によると現在日本でもSPCAのような組織づくりを行っており、リトレーニングや養老牧場等への経済面で支援をはじめ、馬が適切に飼育されているのかをチェックしたり、競走馬から乗馬へのリトレーニング法の確立や指導、乗馬用の馬の運動量に釣り合った餌の量の指標を示すなど、その活動は多岐に渡る予定とのことだった。それを踏まえた上で、鈴木師からヒューイットソン騎手にいくつかの質問や日本の現状等の話が出た。

鈴木師 日本でもSPCAのような組織作りが行われていて、その原資は恐らくJRAが大半を出すことになるとは思いますが、SPCAの財源はどこから来ているのでしょうか?

ヒューイットソン騎手 SPCAは非営利団体なので、基本は募金です。有名なジョッキーになると1か月の騎乗手当の半分を寄付をしたりと、そのような形で(競馬に関わる)皆がその団体をサポートしています。あとは南アフリカではレースにスポンサーがついているので、そのスポンサーからもお金が出たりしています。

 あと、乗馬になった場合の餌の量についてですが、SPCAでは競走馬時代の調教師は引退した馬の現役時代の餌の情報を馬主さんに必ず送らなければいけない決まりになっています。その情報を次にその馬を引き取る新しい飼い主に渡して、受け取った人はそれを確認しながら少しずつ餌の量を落としていきます。そういう部分でいうとSPCAは、どのように飼養管理すれば良いというアドバイスをするというわけではありません。飼養管理については、セカンドキャリアを引き受けた人たちにお願いするという形です。SPCAが1番大事にしていることは、馬がどういう状態で面倒を見てもらっているかということなのです。

鈴木師 SPCAでは、セカンドキャリアを引き受けた人や施設に経済的な支援はしていないのでしょうか?

ヒューイットソン騎手 SPCAは馬だけではなく全ての動物が対象になっています。実際にSPCAができるのは、馬や動物を救うということだけです。(レスキューが必要な動物を)1回引き取って少しの間(SPCAに)置いてから、すぐ次の場所を見つけてあげるというのがSPCAの活動なので、リトレーニングをしている人や施設に寄付をするということはありません。

鈴木師 馬がしっかりと暮らしているかどうかを判断するルールはきちっと定められていますか? それとも曖昧なものなのでしょうか?

ヒューイットソン騎手 規定については僕はわからないです。ただ聞いた話では、(引退した競走馬を引き受けた)1人の調教師が飼い葉や水、建物や馬房の状態などをSPCAから指摘され、調教停止になりました。SPCAから連絡が行ったのにも関わらず、ちゃんと対応をしなかったということのようです。細かいことは私もわかないのですが、そういう面でジャッジするしかないのだと思います。もちろん一般の人も私たちもそうですけど、(飼養状況を)見てわかることがありますから、何かあればSPCAに報告をするということですね。

鈴木師 あと引退した競走馬がどこにいるのかという情報の公開が重要で、その点に関しては調教師やオーナーにも責任があると思っています。馬は引退後に引き取られた先から、さらに移動するということもありますが、それもしっかり把握して皆さんに知らせなければと考えています。南アフリカではどうですか?

ヒューイットソン騎手 それは追いかけられないというのが実際のところです。なぜかというと馬を引き受けた人が、(馬をリトレーニングする)調教師だけではなく、普通の人もいるからです。とてもたくさんの人が馬を引き取っていて、それを1頭ずつ追うことがなかなかできないんですよね。ただその中でも周りの人からの電話なり通報があって、そこで初めてSPCAが出向くという感じになっています。本当は情報の公開ができればよいのでしょうけど、多過ぎてそれができないというのが現状です。

鈴木師 先ほど馬の道をアヴェニューと表現されていましたね。日本でもそれは同じで、アヴェニューをたくさん見つけてあげるというのも検討委員会の仕事になるのですけど、ポロはポピュラーではないですし、南アフリカに比べると日本は馬が身近ではないと思うんですね。高齢者に対するホースセラピーや人々への癒しとか、子供たちとの触れ合いなどいろいろな道を探したいと思っていますが、その点についてはどうですか?

ヒューイットソン騎手 確かに日本では競馬がすごく人気がありますけど、1人1人にとって馬は身近ではないとなると、もちろんホースセラピーとか、お年寄りや子供たちと触れ合うというのも素晴らしいことだと思います。それ以外では、子供たちの馬術の学校のようなものを作って、たくさんの子供たちが馬に乗る文化を作ってあげると良いと思います。それはすごく長い道のりになるかもしれないですけどね。

鈴木師 なるほど…。私は馬術をやっていましたので競走馬から乗馬へのリトレーニングはある程度できます。それで障害者や子供たち、あるいは高齢者が触ったり乗ったりしても何もしないような馬を作りたいと、競馬を引退したトモジャポルックスとシービークラーケンの2頭を引き取って調教しています。

 そのうちの1頭(トモジャポルックス)は競走馬時代に立ち上がったり噛んだりとものすごく激しい気性でした。そのような馬を調教し直すことができれば、どんな馬でもリトレーニングできるのではないかと思って、あえてうるさい性格の馬をオーナーから頂いて調教をしているのですが、実際は全く違って本当に大人しい(笑)。ヒューイットソンさんが(前回)話をしていたように、餌を替えることによってどんどんリラックスしてくるというのはよくわかりましたし、100%ではないですけど、どんな馬でも乗馬になって穏やかになる可能性が高いと感じました。

ヒューイットソン騎手 先生自身、うるさかった馬を引き取って、餌を替えてリトレーニングをして、大人しくなった姿を見ると満ち足りた気持ちになりますよね。その誇りというかその満ち足りた気持ちが、(馬と接することの)1つの幸せなのかなと思いますね。

***

 南アフリカでは、馬主が競走馬を購入した時点で、その馬が引退した時にも責任を持つという同意書にサインをするという話を聞き、驚いたと同時に羨ましくもあった。引退競走馬の飼養状況が良くないと通報を受ければ、積極的に関与するSPCAという動物愛護団体も大きいと感じた。それでもすべての馬たちを生かすことはできないし、引退後の行き先があったとしても1頭1頭を追い続けることは難しい状況であることがわかった。

 日本でも引退した競走馬や乗馬として役目を終えた馬、繁殖の仕事を終えた馬たちの命をどのように繋げていくかが、JRAを初めとする馬に関わる業界の今後の課題となっていくだろう。生産頭数が日本の半数以下という南アフリカと同じやり方はできないかもしれない。だが人のために頑張ってきた馬たちの命を無駄にしないためにも、人々の知恵を出し合ってより良い解決策が見いだされることを願いたい。私自身も自分ができることを続けていくつもりだ。

(了)

※このインタビューは4月8日に屋外で十分な距離を保ち、マスク着用のもと行いました。

(取材・文=佐々木祥恵)

最終更新:5/23(土) 15:18
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