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いまだ女性の若さに価値を置く風潮を豪快に吹き飛ばす物語――藤野可織さん『ピエタとトランジ〈完全版〉』

5/23(土) 11:30配信

本がすき。

藤野可織さんの芥川賞受賞第1作『おはなしして子ちゃん』に収録されていた、女子高生が活躍する短編「ピエタとトランジ」が長編小説になりました。「中年や老年になっても無鉄砲な冒険をする女性たちを描きたかった」と藤野さん。女2人の自由さにほれぼれする痛快小説です。

老いても無鉄砲に活躍し続ける、そんな女性の生き方を描きたかった

『ピエタとトランジ〈完全版〉』講談社

 芥川賞作家の藤野可織さんの新作は初の長編小説『ピエタとトランジ〈完全版〉』。同賞受賞第1作『おはなしして子ちゃん』に収録されていた短編小説「ピエタとトランジ」のその後の物語です。

 主人公は天才的な頭脳を持つ名探偵トランジと、彼女の助手を買って出たピエタの2人。高校時代に出会って以来、2人は数々の殺人事件を
解決していきます。実は、トランジは“殺人事件を誘発する”という特異体質だったのです。
 前述の短編小説ではピエタとトランジは女子高生。本作では、2人は大学生になり、仕事に就き、パートナーができて、中年になり、さらにおばあさんになります。いくつになってもさっそうと冒険する姿がテンポよく描かれます。

「出発点は私がミステリー好きだというところです」

 読後感のいい小説が誕生した背景について藤野さんは語ります。

「昔から、テレビでやっていた『火曜サスペンス劇場』や海外ドラマの『エルキュール・ポワロ』や『ミス・マープル』、グラナダテレビが作る『シャーロック・ホームズ』とかが好きで漫然と見ていたんです。こういうミステリーでは主人公のまわりで人が異常なほどたくさん死ぬじゃないですか(笑)。そんなに死んでばっかりならそのうち人類は全滅するじゃないの、と思ったのが最初。それで、これを逆手に取った小説を書いたら面白いだろうな、と。人がたくさん死ぬけれど、楽しくて幸せな物語を書きたい、と考えました。当初、探偵を女子高生にしたのも、そのほうが楽しいだろうと思ったからなんです」

 でも――。藤野さんは続けます。

「とても気に入った短編になりましたが、一方で、自分が“女子高生”という言葉が持つ性的搾取込みのイメージにのって書いた面が 

あったと後から悔やみました。女性の人生の輝きは若いころにほんの一瞬だけ訪れるもの、というようなイメージを助長してしまったとも思ったんです。日本には若さに価値を置く風潮が強くありますが、それは間違っています。それで、中年になってもおばあさんになっても刹那的な輝きがずっと続く小説を書きたかったんです」

 また、藤野さんは女同士のバディ小説がほとんどないことも気になっていました。

「いまだに女性はある年齢になったら家事や子育てなど家庭を運営することを求められます。だから、女性同士が外で活躍する小説は長い間、難しかったのかもしれません。ですが、これも女性はある年齢になったら人生の表舞台から退場して冒険しないものだという価値観の現れじゃないか、と。それでピエタとトランジには老いても無鉄砲なまま冒険させたかった。2人が年を重ねて分別のある老人になり、おとなしく生きるなんて嫌。面白くありません(笑)」

 作中、森ちゃんというピエタが大学時代に住んでいた寮の友人が登場します。森ちゃんは“女性は結婚して子どもを産むことが大事な社会貢献”と考えるタイプです。

「ピエタとトランジにとって最大の敵は“女性はこう生きるべき”という社会的要請です。だから出産や親の介護を放棄したピエタたちの敵として森ちゃんを登場させました。自分から選ぶ女性もいるのでいけないというつもりはないのですが、結婚して子どもを産んで親の介護をしてという日本的女性のモデルって本当に正解?
 それを受け付けない人生もあるし、人生のいいときはいくつになっても続くと思ってほしいのです」

 オバアになってもピエタたちのように縦横無尽に豪快に生きてやる! そう日本中の女性を元気にさせてくれる痛快小説の誕生です。

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最終更新:5/23(土) 11:30
本がすき。

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