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ジョハン・ハリ: 「依存症」―間違いだらけの常識

TED 2015/8/26(水) 9:33配信

Johann Hari

翻訳

幼少時の記憶の一つですが 家族の一人を起こそうとしても 起きなかったということがありました 幼かった私には 理由はわかりませんでした しかし成長するにつれ 家庭内の薬物依存症の 存在に感づきました 後にコカイン中毒も加わりました


このことについて最近よく考えます 英米でドラッグが違法になって ちょうど100年経つから という理由もあります この規制は世界中で 課せられることになりました この 依存症患者には 罰を与えて苦しめようという 実に重大な決定を下してから 100年です 薬物を止める動機を与え 抑止効果があると考えてのことです


数年前のことですが 大切な人たちが 薬物依存に苦しんでいたので 何か救う方法がないか 答えを探っていたところ 非常に根本的で しかし答えのわからない疑問点が 沢山あることに気づきました 例えば 依存症の真の原因とは何か? なぜ私たちは 効果のない対処法を続けるのか? 現行よりも いい対策があるのでは?


そこで色々と調べましたが 探していた答えは見つかりませんでした そこで世界中で色んな人に 会ってみようと思いました ドラッグに関わる人や 研究者たちです 話を聞いて何か学べることがあるか 試してみようと 最終的に4万8千キロも旅するとは 思ってもいませんでした 各地で色んな人との 沢山の出会いがあり ブルックリンはブラウンズビルで 覚せい剤を売る性転換者から マングースに幻覚剤を与えて喜ぶか という研究に没頭する 科学者まで― 実際マングースはある限定条件下では 幻覚剤を好むことがわかりましたが― さらにマリファナから覚せい剤まで あらゆるドラッグを 非犯罪化した唯一の国 ポルトガルにも行きました やがて ある事に気づいて 心底ぶっ飛びました 依存症についての私たちの常識は ほとんどが間違いなのです 依存症に関する新たな証拠を 真剣に受け止めたなら ドラッグ関連の政策以上に 変えるべきものが沢山出てくるはず


しかしまずは私たちが常識だと 思っていることを確認します まずはそこの真ん中の列の方から 仮に皆さん全員が 20日間 ヘロインを一日3回やったとしましょう やってみたいなって顔してる方も ちらほら (笑) ご心配なく 想像するだけですから 皆さん 想像しましたか? どうなるでしょう? こうなるものだと この100年間 言われ続けてきたことがあります ヘロインには依存性物質が 含まれているため これをしばらく摂り続けると 体がこの物質に依存して 生理的に必要とするようになり 20日後には皆さん全員 ヘロイン中毒になる というものです 私もそう思っていました


しかし この説がどこかおかしいと 気づいたのは 次の話を聞いた時でした もし私がこの会場を出て事故に遭い 股関節を骨折したとします 病院に運ばれて 大量の ジアセチルモルヒネを打たれるでしょう この薬はヘロインです その辺の道端で買えるのより ずっといいヘロインです 麻薬の売人が売ってるのは 混じり物入りで 実際のヘロイン成分はごく少量です 一方 医者が出すヘロインは 化学的には混じり物なしです それをかなり長い間 投与されますよね ここに沢山の人がいますが 気づかないうちに ヘロインを大量摂取しているかも このトークを見ている世界中の 誰にでも起こっていることです 私たちが思う依存症の常識が 正しいとすれば 医療を通じて様々な依存性物質を 摂取した人たちには 何が起こるのでしょうか? 薬物依存症になるはずですね かなり念入りに 研究されてきたことですが 実際は何も起こりません もし自分の お祖母さんが股関節手術を受けて 退院したら薬物中毒になってるかって なりませんよね(笑)


これを聞いたときは かなりおかしいと思いました 今まで聞いてきたことや 常識と全く正反対だと ブルース・アレキサンダー氏に会って この考えを覆されました バンクーバーの 心理学の教授で 優れた実験をした方です おかげでこの問題について かなり理解が進みました 教授の説明によると 皆が持つ依存症という概念や いわゆるよくある結末は 実は昔20世紀中に行われた ある一連の実験の 結果として生まれたものだそうです 非常に単純な実験です ちょっとサドな気分の人は 今夜家に帰ってやってもいいかも ネズミを手に入れてオリに入れ 2本の水ボトルを設置します 一つは水だけ もう一つは 水にヘロインかコカインを混ぜたもの するとネズミは ドラッグ入りの水を選ぶようになり ほぼ間違いなく 自らを死に追いやります 思った通りですよね? 私たち皆こういう流れを想像します ところが70年代になり 教授がこの実験について調べたとき あることに気づきました 「ネズミが入ってるオリには 他に何もないぞ この中ではドラッグ以外 することがない 少し環境を変えてみようか」と 教授は別のオリを作り 「ネズミの楽園」と名づけました ネズミにとって 天国のような環境です チーズや色付きボールがいっぱい トンネルもいっぱい 決定的なのは仲間もいっぱいたこと いっぱい交尾できます そこに例の水ボトル2本 ふつうの水とドラッグ入り水を設置 ここで大変興味深い事が起こりました この「ネズミの楽園」では ドラッグ入りの水は不人気だったのです ほぼ全く飲まれませんでした 衝動的に飲むネズミもゼロ 過剰摂取もゼロ 独房状態のカゴではほぼ100% 過剰摂取したのに対し ネズミが幸せに社会生活を営む オリの中では0%だったのです


この結果を見て アレキサンダー教授は初めは 「ネズミだけの話かもしれない 我々が望むほどではないにしろ 人間とはかなり違うし」 と考えました しかし幸運にも 人間での実験もありました 全く同じ原理で 全く同じ時期に 行われていました 何というと ベトナム戦争です ベトナムでは アメリカ兵の20%が ヘロインを大量使用していました 当時のニュース報道を見れば わかると思いますが 皆がこれを非常に憂いていました 「大変だ 終戦後には アメリカの街中に何十万人の ジャンキーが溢れてしまう」 そう思って全く当然ですね ヘロインを大量に摂っていた兵士達は 追跡調査を受け 総合精神医学誌が非常に綿密な 研究を行いました さてどうなったでしょう? 兵士たちに更生施設は必要なく 禁断症状も出ませんでした 95%がクスリをパッと止めたのです 薬物の依存性についての一般論が 正しいとすればこの結果はおかしい しかし教授は そもそも依存症には 別の側面があるのでは 依存性物質が問題なのでは ないとしたら?と考え始めます もし依存症の根本的原因が 「オリ」にあるとしたら? 依存症は環境への適応反応だとしたら?


この件について オランダのピーター・コーエン教授曰く そもそも「依存症」と呼ぶこと自体 間違っているのではないか 「繋がり」と呼ぶべきではなかろうか 人は他人と心を通い合わせ繋がることを 自然と求める動物なので 健康で幸福な人間は 触れ合いを通じて関係を築きます しかしそれができない人は 人生の中で経験したトラウマ 孤立、虐待などが原因となり 安心感を求め 人間以外に 繋がる対象を探し始めます それは ギャンブルや ポルノだったり コカインやマリファナだったり するかもしれません 何かと繋がろうとするのが 人間の本能なのです 人間というのはそういうものです


当初は これがなかなか 腑に落ちませんでした 理解するきっかけになったのは 何かというと 例えば 私の席には 水のボトルがありますね ここに大勢の方がいますけど 皆さん水ボトルを持ってますね 薬物も薬物との戦争も 一瞬離れましょう ここの水ボトルが全てウォッカであっても おかしくないし 完全に合法ですよね? 会場全員が酒を飲んでてもおかしくない この後本当に飲むかもですが(笑) でもそうではない 会場の皆さんには 超高額の入場料を払う余裕があって TEDトーク会場に来ているわけですから 私の憶測ですけど 明日から半年ウォッカを飲みまくる 余裕はあるはず でもそんなことして人生壊しませんよね そんな気にはならないはずです その理由は 誰かに止められているからではなく 大事にしたい仲間や人間関係が あるからだと思います 仕事が好きだし 大切にしたい人がいる 周りとの健全な関係があるからです 様々な証拠から私は こう確信するようになりました 依存症最大の原因は 毎日を生きるのが辛いということ


これには非常に重大な 意味合いがあります 最もわかりやすいのは 「薬物との戦争」ですね アリゾナで会った 女性囚人グループは 「私は元薬物中毒者です」 と書かれたTシャツを着せられ 通りすがる人に野次られながら 集団で墓を掘っていました この女性達は 出所した後も 前歴のせいで まっとうな仕事に就くことが できません さて 今のは囚人達の話は 特に極端な例ですが ほぼ世界中どこでも 依存症の人はある程度 同様の扱いを受けます 罰せられ さげすまれ 前歴をつけられます 再び人と繋がれないような 障壁を作ってしまう制度なのです カナダの ギャボー・マテ博士という 優れた医師に言われました 「薬物依存症の現状を更に悪くする 仕組みを作りたければ この手の仕組みを作ればいいんだ」


さて これの真逆のことを 行った所があり なぜ成功したのか 調べにいきました 2000年 ポルトガルの薬物問題は ヨーロッパ中でも最悪レベルでした 人口の1%がヘロイン中毒という けっこうぶっ飛ぶ話です そこでアメリカ式の対策を 年々強化していきました 刑罰を科し 中毒は恥と さげすむなどです しかし薬物中毒問題は年々悪化 ある時 首相と野党の党首が 話し合いました いい加減 このままではいけない 国中にヘロイン中毒者が 増えるばかりだ 科学者や医師を集めて委員会を作り 真の解決策を見つけよう と決めました ホアオ・グラオ博士という 優秀な人物を筆頭に委員会を作り 新しい証拠の数々を検証して 下した結論はこうでした 「マリファナから覚せい剤まで あらゆる薬物を非犯罪化する しかし」 ―この次の段階が 非常に肝心なのですがー 「今まで依存症患者を 社会から切り離し疎外するために 費やしてきた金を 患者を社会に再び迎え入れるために 遣うこととする」 こういう薬物対策のやり方って 私たちがアメリカやイギリスで考える 方法とはかなり違いますよね 依存症患者が住む厚生施設もあるし 心理療法も利用します それはいいとして ポルトガルでの最大の対策は 我々のそれとは正反対でした 依存症の人に雇用機会を与える 超大規模なプログラムと 起業したい依存症患者への 小額融資です 例えば元々整備士だった人が 働ける位 回復したら 修理工場に紹介し この人を一年雇えば 賃金の半分を 負担すると働きかけます 目標は 国中の依存症患者が もれなく全員 朝起きてベッドから出る 理由を持つこと ポルトガルで 依存症の人と話したとき 人生の目的を再発見できたとか 広い社会での人間関係や 繋がりを再発見できたといった 声を聞きました


この実験が始まってから 今年で15年経ちますが 結果が出ています ポルトガルでの 注射器系の薬物使用は 英国犯罪学会の発表によれば 何と50%も減少 薬物の過剰摂取は大幅減 患者のHIVも大幅に減りました あらゆる調査結果において 薬物依存が大幅減少したのです ポルトガルでの成功を表す 証拠の一つに ほぼ誰も前の制度には 戻りたくないのです


そう言うと 政治色が強く聞こえますが それまでに関わってきた数々の 研究に対しても意味ある成果です この現代社会で誰もが感じるのが あらゆる種類の依存にますます 弱くなっているということ スマートフォンから 買い物依存 過食まで様々ですね ここでトークが始まる前― ご存知のように スマートフォンの持込禁止 と言われたはずですが この中でかなりの人が もうまるで 今から1、2時間 馴染みの売人と 連絡取れないよと 言われた薬物中毒者みたいな 顔してましたよ (笑) よくあることですよね でも 今まで私は 繋がりを絶たれることこそが 依存症の主な原因だと語ってきましたが なら依存症の増加は 変だと感じるかもしれません 人間史上 最も「繋がった」社会なはずですから しかし私は最近ますます 現代人の言う繋がりだとか そうだと思っているものは いわばその 類似品のようなものだと思い始めました 人生の中で大変な時期を 経験した方にはわかるでしょう 傍にいてくれるのは Twitterのフォロワーではないし 立ち直らせてくれるのは Facebook友達ではない 顔を合わせた付き合いで お互いを知り尽くし 深い人間関係を持つ 生身の友達であるはずです ビル・マッキーベンという 自然環境系の学者に聞いたのですが 大変参考になる研究があります この研究では平均的アメリカ人を対象に 人生の危機的な時期に 頼れると思える友達の数を調べました この数が1950年代以来 ずっと右肩下がりなのです 一方 アメリカの家の 一人当たりの床面積は 逆に絶えず右肩上がりです これは 人間の社会や文化が 優先してきたものを 象徴するかのようです 床面積を増やし 友人を減らし 物欲のために人間関係を犠牲にし 結果として 人類史上で最も 孤独な社会が出来上がったのです しかし「ネズミの楽園」の ブルース・アレクサンダー博士曰く 「依存症問題では 個人の更生にばかり目が行きがちだ それはそれでいいことだが 社会全体の立ち直りにも もっと注目すべきである 人は個人レベルのみならず集団としても ボタンを掛け違えてしまったのだ 我々の作った社会は 多くの人にとって人生が 『ネズミの楽園』とはかけ離れ 他に何もない孤独なオリの ようなものになっている」


正直私は 元々こんなこと知りたくて 依存症の調査を始めたわけでも 政治的、社会的な動機で 始めたわけでもありません 大切な人を助けたいという思いが きっかけでした しかし長い調査の旅を終えて これら全てを学んだ時 改めて 周りの依存症の人について― 正直な話 大切な人が依存症だと辛いですよね この会場の中にも心当りのある方 沢山いるはずです 何度も 怒りを覚えたことでしょう この問題に対し ここまで激しく 感情が入ってしまう理由の一つは 私たち誰もが持っている問題だから だと思います 「いっそ誰かが止めてくれたらね」と 苦々しく思ってしまう自分が 誰しも自分の中にあるのでは 更に リアリティ番組が 周りの依存症患者への接し方も 型にはめてしまいます 『インターベンション』て番組 知ってますか リアリティ番組が 人生を定義する時代 これは別の TEDトークのお題になりますね― この『インターベンション』の コンセプトはごく単純です 依存症の人を見つけて 家族友人全員一同に集め 依存症の問題に迫ります 足を洗わないと縁を切ると脅す こういった内容ですね この番組では本人の友人家族と 依存の対象とを 天秤にかけます 番組の思惑通りにしないと 人間関係が壊れるという 設定です こういうやり方では効果がない理由が だんだん分かってきました 「薬物との戦争」の論理を 個人の人生にあてはめているみたいだ そう思うようになったんです


どうやったらポルトガルのような やり方ができるのでしょう? 私自身が今まで試した方法は 一貫性があるとも 簡単だとも言えませんが 周りの依存症の人に こう言ってみるんです 「あなたともっと 深く関わり合いたい 何かをやっててもそうでなくても 大切に思っている しらふでもそうじゃなくても 大切な人には変わりはないし そして 必要なときは 駆けつけて一緒にいてあげる だって 愛する人を 一人ぼっちにしたくないし 孤独に感じて欲しくないから」


このメッセージの核心部分である 「君は1人じゃないよ 愛されているんだよ」 依存患者には全次元において こういう意識で対応すべきです 社会的にも 政治的にも 個人的にもです 100年もの間 薬物と戦ってきたのは 間違いだったのではないでしょうか 戦うのではなく 愛をもって 対処すべきだったのではないでしょうか だって「依存症」の対極にあるのは 「しらふ」ではないんですよ 「依存症(addiction)」の反対は 「繋がり(connection)」なのです


ありがとうございました


(拍手)


コカインからスマートフォンまで―「依存症」を引き起こすものとは一体何でしょう?どうしたら依存症を克服できるのでしょう?現在行われている対策が失敗し、愛する人々が薬物中毒に苦しむ様子を自分の目で見てきたジョハン・ハリは、なぜ依存症にこういう対応をするのか、もっと良い方法はないのかと疑問を持ちました。この人類長年の問題ともいえる命題の探求のため世界を旅して彼が得た意外な捉え方や明るい見通しを、非常に個人的なトークの中で紹介します。 ( translated by Riaki Poništ , reviewed by Shoko Takaki )

動画撮影日:2015/6/16(火) 0:00

TED